プロローグ
朦朧とする意識の中で、手を前に伸ばす。
「はぁ…はぁ……***ーーぜったいに、ぜったいにたすける、からな……。」
自分の手から大切なものを失わないように、精一杯手を伸ばす。
もう意識を失いかけてるからか、視界もすでにぼやけて見えなくなってきている。
でも、いま意識を手放すわけには行かない。いま意識を失ったら大切なものを失ってしまう気がする。
「もう私はいいから……逃げて!はやく!!」
この声は誰だっただろう…。耳によく馴染んだ昔から聞く透き通った心地の良い声だ……。
そうだ。***だ。忘れようがない。だが一瞬誰かわからなくなったぐらいだ。もう本格的に意識がやばくなってきた。だからその前にーー
「***ーーきみだけは、ぜったいに、たすけるから…。ちょっと、だけ…まってくれ…いまいく」
あとたったの数メートルなはずなのにそこまでがすごく遠く感じる。いや、数十メートルだったか?もしかしたらもっとかも…。もう距離感もわからない。
「その体で無理に決まってるでしょ!!はやく治療をしなければあなたが死んじゃうわ!!だからわたしの最後の力を使ってあなたを遠い何処かへテレポートさせるっ!!」
「ゴフッゴホッ……はぁ…はぁ…ダメだ…。きみこそ逃げてくれ。走ってでも、テレポートでも…逃げてくれ…。
「無理よ…わたしの足はもう…下敷きに……それに魔法はそんな便利なだけじゃないのはあなたも知ってるでしょう。わたしのテレポートは自分には効果がないもの…だからあなただけでも逃げて!」
そんなことがあってたまるか。自分だけが助かって***が助からないなんて、そんなことがあったら助かったとしてもきっと自分で命を絶つだろう。
「まってくれ…はぁ…ゴフッ…いまなんとか、するから…」
すると、どこからだろう、足音が近づいてくる音がする。それも1人ではない。何十人もいるだろうか。
「やばいわ。あいつらが戻ってくる。…だからあなただけでも逃すわ…。」
そして彼女が目を瞑り、祈ると魔法陣が僕の真下に出現する。
「やめてくれ!!…いやだ!…僕だけ助かるなんて!!」
その願いも空しく、僕の体がどんどん白い光に包まれていく。
「彼の者を、憧憬の場所へ、運びたまえーーテレポート!!!…さようなら。……だいすきだったよ」
そして完全に白い光に包まれる。彼女の透き通った優しい声が今では残酷な死刑判決のように聞こえて、頭が真っ白になる。たった1人の女の子のことも守ることができないなんて情けなさと悔しさで涙が溢れる。それなら強くなって、誰にも負けないぐらいに強くなってーー
「…いつか……いつか、かならず、きみをーー迎えにいくから!!だから、ぜったいに無事にまっててくれ!!かならず…!迎えにいくから!!」
そこで完全に風景が変わり、テレポートによっての体への負担で、意識が途切れる。意識が途切れる瞬間に
「うん。…まってるね。」
そう、聞こえた気がした。