第1話 着衣で説明会
「はい、というわけで説明会始める前に君たちの置かれている境遇を説明するよ」
見と名乗った人型のなにかは、顔の半分を隠していながらもくるくると表情が変わり心底楽しそうに解説している事がわかる。
「君たちは、死せる魂。死ぬ少し前にここ高天原神立会館に集められたわけ、うすうす分ってると思うけど御柱達は三人とも神様だから敬い崇め奉るように」
おちゃらけた様子で語りながらも、死せる魂である近正達がなぜ選ばれたのかを語りだす。
1つ目の条件は、2015年から2025年に渡る15年間に死ぬ運命を持ったもの。
2つ目の条件は、とある国で作られた全裸でサバイバルする番組を見て、自分ならもっとうまくやれるなどと否定的な発言をした者。
そこまで一気に語ると見は大きく手を叩き、挑発するように講堂にいる人々を舐るように見回し言い捨てる。
「まっ、ほかにも条件はあるけど吐いた唾飲まないでね。同じ条件でやってもらわないと大丈夫。病気や怪我とかも日本の厚生労働省基準で健康な身体にしてあげるから」
言い分けさせる要素は何一つ残さない言外に匂わせたところで、にんまりと見せ付けるように笑いながら説明を続ける。
「さぁてと、ここまでで質問がある人は挙手してね。といってむりだっっっ」
まだ、進行を邪魔されないように神通力を使ってまで人間の動きを制御した事を隠したまま、意地悪にも挙手してねと言おうと思っていた見の悪戯だったのだが、近正は何も気にせず勢いよく挙手をする。
「っぇっ!?まだ身体制御を解除していないのにぃ?あ、はい。そこの人」
うろたえながらも驚愕していたが、吐いた唾は飲めず挙手した近正に発言を許す。
近正は神々の目的が何かは分らぬが、問いただすべき事をいくつか気がついてしまった。
自分が死んだのは2020年である。
そして全裸でサバイバルする番組は愛すべき存在である双子と見ていた記憶があり不満を述べていた。
そうチャンスはあるのだ。神の許可された為、立ち上がると背筋を伸ばし腹の底から講堂にいる全員に聞こえるように声を出す。
「銀河系太陽系第三惑星地球日本国出身、帰山近正。神々のご尊名を預かり光栄です」
いかなる理由か、空気が冷えきり緊張している。
三柱の神は、なぜ人が動けるのかと驚き返答も出来ず。
講堂にいる人々は言わずもがな、そんな張り詰めた緊張を近正は冷えきっていると判断した。
だからこそ、ここは持ちネタの鉄板ギャグをかますしかないと間違った覚悟を決める。
「なお、童貞です。」
きっぱりと言い切った、腹の底から大声で言い切った。
「いや、あの童貞とかしょ」
慌てたように見がとめようとしたが、近正はこれぞ好機と言わんばかりに言葉を続ける
「処女でもあります!」
喉仏までかかる長い髭と濃い眉毛と前髪で顔の大部分が覆われている近正の表情は非常に見づらくなっているはずなのだが、どや顔であった。
いっぺんの曇りもなく言い切って場を暖めたと確信しきった男の顔だった。
『質問は何だ?』
言が手に持った手持ち看板の石突を床にたたきつけて、注目させながら看板の文字を変化させる。
神々は、近正渾身のギャグを流すと決め、なかった事にしようとする。
「挙手前の質問とはかわりますが宜しいでしょうか?」
『かまわん』
手持ち看板の言葉を変えるために看板を回転させる必要性があるのか、軽い応答の間にも言の手の中で看板はくるりくるりと回転していく。
「身体制御は何時解けるのかということと、また私が喋れた理由、この一同にいる名簿の確認できるかどうか教えていただけないでしょうか」
『随分な要求だな』
咎めるように文字の形になるが、近正は揺るぎもせず申し訳ありませんと軽く頭を下げるだけで質問を取り下げる気をみせない。
『身体制御は、質問の時間を作った後に解除する。貴様が動ける理由は3つのうちどれかだ、極端に生きる事に対する執着がない。極端に信仰的に清らかな身である。極端に神に対する恐れがない。名簿は後でみれるようになる。以上だ』
くるりくるりと回転して、文字が移り変わっていく。
近正が習得していない言語であるはずなのに日本語を読むより早く認識でき頭にしみこんでいく喋る言葉と流れ行く文字を見るだけの会話なのに口で会話しているようにスムーズな流れだ。
「最後にバベル前てなんでしょうか?」
『旧約聖書の創世記11章の物語で使用されていた統一言語。それが崩れた事をバベッた。その前をバベル前と言う。神様風略語だ』
なるほどと、近正は得た情報を頭の中で整理しながらひとまずは聞くべきことを聞いたと納得しパイプ椅子に腰を下ろす。
数日に渡る絶食と水立ちは臨界行と言えるし、性的経験もないので信仰的にこの身は非常に清らかであるといえる。
その上で、双子を失った事による生にたいする執着心のなさ、さらに神の存在なぞ何一つ信じていなかった、動けるのも道理であると頷く。
三柱も近正が聞く体勢に戻ったところで、説明を再開する。
「あ~、うん。超常的な力を体験してもらおうと、挙手しようとしても出来ない状況にしてたんだけど…まっこれで御柱達が超常的存在である事を理解してもらったとしよう」
こほんと仕切りなおすように小さく咳払いをした見は説明を続ける。
要約してしまうと、サバイバルをして貰う世界は地球ではなく異世界でしてもらうこととなる。
異世界としては平たいお盆の上にいくつかの大陸があり、お盆の中央から無限の水が湧き出て世界の果てより流れ落ちる、地球平面説のような世界であり
成層圏より上は高天原のように神の住む領域であり、大地であるお盆を掘り進めた地下には溶岩の海が広がる地底世界があると言う。
日本の萌えファンタジーのような獣人や、二足歩行した獣の様な姿の人獣や、エルフやドワーフといったファンタジーな種族がいるとの事。
まだまだ世界は獣人等も含めた人間の手で切り開かれている最中で、古代ローマのような都市が人間の最大都市であるとまで説明してくれた。
「うん、ただこのまま地球人の君たちを送り込むとマナ酔いとか、腸内菌の違いによる栄養摂取できないことによる餓死、抗体がないことによる病死、空気に含まれている成分違いによる即死、地球上では無毒な外見だけど実は猛毒な食べ物、さまざまな死因が考えられるわけだ。だが我々は対策を講じてある!」
身振り手振りで高まっていく気持ちを表現するかのように、壇上を右から左に左から右にとうろうろしながら最後には貯めように中央に立つと両手を広げて見は宣言する。
「君達の住んでいる街ごとに、個人能力の偏差値を取得。それをサバイバルする地域の偏差値として能力に反映。これで平等なサバイバルを実施できるね」
言ってしまえば、暮している街の中でお腹が一番丈夫であれば、サバイバルをしている地域の人間の中で一番お腹が丈夫な人と同等の丈夫さになる、という事だ。
そして、見はにこにこと笑顔を人間たちに向けたまま言葉を続ける、
「そして、君達のサバイバル能力を加味して落とす地域を決める。つまり、サバイバル能力が高ければ高いほど難しいところに落とされる、逆に低ければ人里に近い場所に落とされる。やったね!みんな平等な難易度だ。」
そして付け加えるように、異世界転生だからといってステータスとかが出るわけじゃないからあくまで異世界用に身体が変換されるだけだからね、鑑定魔法とかで人間の能力が数値になるわけじゃないからねと見は何かに釘を刺すように続けた。
「長々といったけど、こんなところかな。ああ、そうそうチートはあげないけどあの番組のように初期アイテムは選ばせてあげるから、その辺は後で説明するとして」
見は手を大きく打ち鳴らすと、近正以外の人間も動けるようになりざわざわと人の話し声が流れるようになるが、完全には身体制御は解かれていないようであたりで立ち上がったり大声を出そうとしても出来ない人もいるようだ。
やがて、短髪の1人の男が手を上げ見に指名されると怒鳴り声をあげる。
「おい、こら偽者が!なんでだよ、俺はしんでねぇよ!仕事に出かけるために満員電車乗ったところで記憶が終わってんだ。日本に帰せよ!!」
スーツを着た短髪の男は口から唾を飛ばしながら壇上の上にいる見を睨みつけるが、それを気にする事はなく見は言葉を返す。
ただ、困惑しているようで顔の上半分は隠されているにもかかわらず、きょどきょどと目が泳いでいるかのような様子がありありとわかる狼狽している。
「嘘が暴かれたから慌ててるのか?慰謝料払って日本に戻せよ!」
「あ、あのね。トラウマになりそうな死に方の人はちょっと記憶を巻き戻して封印してるだけであってね。」
「なら、俺の死因言ってみろよ!!」
がなり立てる男に狼狽する見だが意を決するように小さく頷くと男の死因を語りだす
「前日の夜にたらふく食べた牡蠣にあたって満員電車の中で腹痛がはじまって、慌てて降りたところで脱糞と嘔吐を繰り返して吐しゃ物が喉に詰まって死亡」
あたりが静寂が降りた、怒鳴り散らしていた男も死因を言われる事により記憶の封印が解けたのか、奇声を上げまいと口を押さえたり頭を抱えようとしたりと常軌を逸した姿だが、身体制御されたのだろう大人しくパイプ椅子に腰を下ろした。
「あ、うん。死因をどうしても知りたいなら、後で個別面談の時に言うから……その、今は思い出さないほうがいいよ。うん、ごめんね」
気まずい雰囲気のなかに次に手を上げたものがいる。
見は逃げるように、挙手者を指名して早く質問をするようにと急かす
「明日村 香子です。」
長髪長身の女性だが、特徴付けているのは顔の半分を覆う巨大な痣と病的に痩せ骨と皮しかないような幽鬼のような姿だ。
ただ、この女性が異世界全裸サバイバーの多くの人命を救うであろう加護をえる質問をすることになるとは誰も知る由もなかった。