〜ハートレスラブ無しコメディ〜 【女医 四之腹佐乃 哀の病院日誌】
【女医 四之腹佐乃 哀の病院日誌】 #1 白い巨倒
【白い巨倒】
有名大学病院、手術室に繋がる冷たい廊下をひとり悠然と歩く女性、四之腹佐乃は思いを巡らせていた。
「みんな、あたしの見た目をとやかく言う。たしかにあたしは薄汚れた野良犬サ」
ノリの効いた白衣の下に黒革ジャケット、革パンを着込んだ佐乃が歩くにつれ、キュキュと革ずれが館内に広がり、E.YAZAWAの腕章が規則正しく揺れた。あるものは佐乃を異形なものを見る目で蔑み、あるものは横目で眺めるも見ないそぶりで通り過ぎていた。
「今日のクランケは肝臓移植です」
助手に術着を着せてもらいながら、佐乃はひとり心に秘めた想いを自らにぶつけた。
「人の噂なんか気にするもんか。患者が求めているのはなんだ⁈ 優しさ? 愛情?
違う、オペの成功だけだ」
普段から目ヂカラの強い佐乃の瞳がさらに熱を帯びた。
「あたしのやることは、オペの成功しかない!」
数時間後、手術がひととり終わった。
「じゃあ、あと縫合はまかせたから」
助手に後を託した佐乃はひと息つき、安堵の気持ちが生まれていた。
「見かけがなんだ。過去がなんだ。最高の結果を出せばいいんだ。最後に患者の信頼を得るのはあたしサ」
だが、安堵もつかの間、佐乃はここである重大なことに気づいた。
「あ! あたし小児科だった。しかも病院も違うし」
四之腹佐乃 26歳 小児科医
患者と向き合わない佐乃の奮闘は続く。