難波と簡太のくだらない議論
最近投稿してないので焦燥感に駆られて書きました。前作のような勢いはないです
「おーっす、もう来てたのか」
放課後、俺が部室に入ると珍しいことに難波が既にいた。こいつは普段遅れてやってくることが多いのだが何か議論したいことがあると真っ先に部室に来て他の部員を待ち構えているのだ。
「簡太か、遅かったね。かれこれ5分も待っていたんだよ」
難波がイラついた口調でそう言った。
「はいはい、どうもすまんね」
こいつはいつも時間に無頓着なくせに自分が議論したくなったら途端にせっかちになる。全く変な奴だと思う。しかし、かく言う俺もこの他人にからしたら非常に面倒くさいであろう議論を楽しみにもしているので人のことは言えない。
大体この部活に常識的なやつなど一人もいない。誰かに感化されて常識的な感性を失ったのではなく、部員全員最初から変人なのだ。
「で、今日は何を考えていたんだ?」
「いやな、最近国際情勢が不安定になってきただろ? それで沢山の人が不幸になってるいるわけだ。生まれついて善良な性質を持つ僕としては、人々が不幸になっていくのはとても心苦しい。そこで、せめてどうなるか平和な世界になるかを考えることぐらいはしておかなければと思ってね」
「授業中に世界平和について考えるなんて奴そうそういないぞ……そうだな、世界平和というのはまあいいが何をもってして平和と捉えるかによってその形は変わっていく。難波が望んでいるのは平等な世界か? それとも誰もが死なない世界か? そんなものはとても平和とは思えないな。誰もが平等であったならば世界から個性というものが消え、誰もが死ななかったらたちまち人口爆発、食糧難で戦争が始まるか、飢えて死ぬかだな。大体平和なんてものは、犠牲になる人がいてこそ成り立つものだろう。全てが平和なんて理論的にありえないな。」
「理論的にありえないなんてことはないだろう。これは妄想の類になるけど一人ひとりがその個人だけの世界を持っていたとしたらどうだい? 誰もが自分を肯定し優しくしてくれる、そんな世界さ。」
「それこそ最も恐ろしい。そんな世界あったとしても俺は絶対に行かねえな。誰もが自分を肯定してくれるなんて気持ちわるいし何より面白くない」
「ふむ、それじゃあ今の世界をどうやったら少しでも平和になるかを考えよう。確かに誰もが肯定してくれる世界なんてよくよく考えてみると気持ちわるいしね」
「そうだな、まず人口の増加を押さえるべきだと俺は思う。人が幸せだ不幸だと思うのは命があるからだ。限られたリソースで爆発的に増えていく人口。今の世界は余りにも人が多すぎる。命が生まれてこなけりゃそいつの分幸せを他の奴に分けてやれる。あとは宗教の廃止だな。これはかなり個人的な考えなんだが宗教っていうのは不幸しかもたらしてないと思うんだわ。他宗教同士のいざこざしかり、中世の魔女狩りや異端審問。歴史上宗教があっていいことなんかほとんどないんじゃないのか。宗教は人の可能性を縮めてしまうと思うぞ」
「確かに、宗教がもたらした闇の部分もある。けれど、多くの人々は精神的な部分で宗教に助けられてることもあるんじゃないのかな? 昔の人々は今みたいに科学が発達していなかったから様々な自然現象がどういうふうに起こるにか全くわからなかった。未知は恐怖の対象だ。だからこそ人々はわからないことは全て人知を超えた神の行いだと決めつけて精神の安定を図ったんだよ。これは人として当然の流れだと僕は思うね」
「それは人が弱かったからだろ。最初から人が神に逃げず、全ての現象を解き明かそうとしていたなら今頃とっくにタイムマシンなんか出来ていただろう。科学の発展が始まったのは12世紀の錬金術からだぞ。いくらなんでも遅すぎる。1200年間も何してやがったんだ」
「今さらそんなこと言ってももう遅いよ、今は現実を見なきゃ」
「現実、ね。それじゃあ難波、なぜ戦争が起こると思う?」
「そうだなぁ、戦争は基本的に相手を屈服させたり、考えを認めさせたり、ものを奪ったりする手段だからなぁ。なぜかというと人間が欲望に満ち溢れているからだと思うんだ。欲望自体生き物である時点で抗いようもないんだけど人間はある意味バカだから戦争という安易な手段で欲望を発散させようとする。戦争なんてほとんどは損をすることのほうが多いのにね」
「要は人間に欲深さがなければ平和になるってことか?」
「そうは言ってないよ。もし人間が欲深くなければ科学技術なんて発展しなかっただろうからね。技術の始まりは楽にしたいとかそういう欲望だから、ある意味僕たちのご先祖様が争い、欲深かったから今の世界があるとも考えられるかもしれない」
「まあ確かにそういう面もあるだろう。今の技術の基礎なんかはほとんど戦争時に考えられたもんだしな。そう考えると追い詰められれば追い詰められるほど人は発展していくってことだろ」
「戦争は命の奪い合いだからね。誰でも死なないためには必死になるさ。こう考えていくと戦争って実は必要なものと思えてくるから不思議だよね。必要といっても人類が滅ぶほどの戦争は無しだけど」
「人類全体で考えたら適度な戦争は人類を発展させて行くかもしれないが死んでゆく人たちの気持ちになったらやっぱり戦争はヤダな。俺死にたくねーし」
「元をたどれば人々が生き残るために作り上げたのが国なのにその国が国民を死地に追いやっているなんて皮肉だよね。これが集団であることの欠点なのかな」
「上に立つもんは大のために小を切り捨てなきゃいけねーから集団になった時からそういうことはわかってるだろ。仕方のないことなんだよ」
「なんだか世界って厳しいね…考えていけば行くほど世界平和っていうものがどれほど非現実的なのか分かっていくよ」
「とりあえず難波は自分のことだけ考えとけ。お前いっつも授業中ぼーっとしてるから成績ピンチなんだろ。そんな奴が世界平和を唱えても小指ほどの説得力もねーよ」
「それを言われるといたいなぁ…そりゃこんな僕が世界平和について考えても意味がないことぐらいわかってるさ。でもなんだか考えずにはいられないんだよね」
「それを人は現実逃避って言うんだ。帰って勉強しろ。」
そろそろ俺も難波との議論に飽きてきたので帰宅を促してみる。テストも近いから難波は勉強しなければ不味いはずだ。
「はいはい、わかったわかった。帰ればいいんでしょ帰れば。でも、もし僕が世界平和について考えたことで何かが変わったりする可能性もあるんじゃないのかな?」
「そんなもん知らん。世の中なるようにしかならんからな、もしそうなったとしてもなるようになった結果だろう」
「なるようにしかならない、ね……多分それが正解だよね」
難波がそう言うと帰る準備を終えたのか静かに部室を出て行った。
「あいつ、勉強しないだろうな」
そう言って俺はあいつが絶対に勉強を行わないであろうことを半ば確信しながら帰り支度をするのであった。
自分の思った通りの文がかけないことがこんなに苦しいとは......
これから頑張ります。お読みいただきありがとうございました。