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8/12

その日の彼氏の事情

 その日、彼が──ジョルジュ・サンパレスが求めていたのは温もりであった。

 丸くて柔らかくてふわふわの、まるでそう……おっぱいのような。というかおっぱいそのものを。

 ふざけているわけではなく、彼にとっては由々しき事態である。当年とって十と七つ、今なお彼の身は清いまま。すなわち童貞。重い十字架。

 しかし別にモテぬわけでもない。洒脱な身なりにイケメンフェイス。家柄を鼻にかけずとも、たいていの女は頬を染め、喜び勇んで尻尾を振ってついてくる。

 ところがいざ褥を共にする段になって、女達は皆、口々に彼から目を逸らしてこう言うのだ。


「ごめんなさい。良い人だと思うけど、やっぱり無理──」


 今日もまた昼間っから高級娼館くんだり、すげなく袖を振られてしまった。もうすっかりと慣れてしまい、おかげさまで涙も出ない。


 仕方なしに部屋だけ借りてソロを楽しみ、賢者になって考える──解せぬ……なぜヤれぬ。


 気だるさと虚しさを抱えたまましばし悩乱に耽ってみたが、やはりこの日も答えは出なかった。諦めて部屋を出ると、丁度隣室からも客が顔を出すところだった。

 過保護の父が彼につけた、供回りの闘士である。ヒースという名のこの男、ここまで(あるじ)を送りがてら、ちゃっかり自身もお楽しみしていたらしい。


「よぅ、坊ちゃん。そっちは楽しめたかい?」

「……ああ、ヒース。存分にな」


 強がってみたものの、その目にはやはり涙が滲んでいた。そりゃあ楽しんだとも──自分の世話は自分が一番上手に決まってる。

 一方、青年の顔はつやめいていて、みればはだけた胸元には秘密めいた赤い痣。それはもうタップリねっとり濃厚に楽しんだようで、未だしどけない姿の敵娼を腕に絡ませたまま。

 普段は精悍な面構えが見る影もないほどに緩んでいる。ジョルジュは舌打ちとともに『行くぞ』と顎をしゃくった。その無粋に肩をすくめて答えると、女を振り返り、名残惜しそうに抱きすくめる。


「また来てね」

「ああ。3日と空けねぇよ」


 気障ったらしくそう言うと、ヒースはジョルジュが未だ交わしたことのない、大人のチュウを見せつけるようにやらかした。

 女の瞳が蕩ける頃合いを見計らって唇を離すと、「あン」とかすかに喘ぎを漏らした。女はなおも切なくヒースを見上げたが、彼が手を振ると精一杯の愛想を作って同じようにした。

 こうやってたっぷりお預けを食らわして、女の方から慕うようにするのが彼のやり口。伊達男はちらりとこちらを一瞥すると、どうよとばかりにウィンクを寄越す。


 どうもこうもない。憎い。ぶち転がしたい。その綺麗な顔を吹っ飛ばして……やれたらどんなに爽快か。さりとて己のようなボンボンに、屈強な闘士を出し抜ける訳もなし。

 そもそもこの男、不敬ではあるが悪気はないのだ。それどころか、潤いを与えんと時々こうして外に連れ出してくれたりもする。他に友人らしい友人も居ないジョルジュにとって、この少し年上で機知に富んだ、主に向かって兄貴面する無礼者は得がたい存在でもあった。


 召喚を出て迎えの馬車が来るまでの間、ジョルジュは訥々と日々の不平を漏らし続ける。闘士は黙って童貞の嘆きを受け止めつつ、言葉が途切れる合間を待って切り出した。


「前々から思ってたんだが……坊ちゃんはもう少し相手を選んだ方がいい。アンタ北じゃ有名人だ。よっぽどのモグリでもなきゃ、タカられてお終い……今までだってそうだったろ?」

「……タカリ?」

「ああ? 何だ、気づいてなかったのか?」


 ヒースに半ば呆れられ、ジョルジュは過去を振り返る──出会った女の出自は様々、豪商の不良娘、他家の貴族の愛妾はおろか、驚くことに本妻までと実に幅広い。

 そのことごとくが彼に会うなり愛想をふりまき、代わりに対価を求めてきた。花束、香水、ルビーやサファイア、それらをあしらった装飾品、ジョルジュにはさっぱり価値の分からぬ絵画等──親や主人にねだるには相応に値の張る品ばかり。しかし大領主の息子にとっては、まあまあ値の張る玩具程度でしかない。ジョルジュは女に請われるまま、二つ返事で振舞った。彼にとっては美しくも冷たい無機物達より、同じ重さの女肉の方がはるかに価値を持っていたし、何より彼女達が喜ぶ顔を見るのが好きだった。

 しかし今度はこちらの番と期待に胸を膨らませると、途端に皆手のひらを返すのだ。

 とは言え力づくは優雅とはいえない。貴族としての矜持が、彼の獣性をよく律した。そうやって健気に耐えているうち、女は小鳥のように逃げていく。あの曰く言いがたい、謎めいた言葉と表情ともに……つまり、アレは男の純情につけこんだ事に対する、せめてもの懺悔だったのだ。


 ようやくそこに思い至り、ジョルジュは衝撃のあまり言葉を失った。げっそりと溜息をつきつつ誰にともなく呟く。神よ──せめて先っちょだけでも。


 絶望的な主人の溜息を聞き、ヒースは顎に手を当て、常に無い真剣さで知恵を巡らせる。ややあって、わざとらしく手を打ち鳴らす。その大げさなアクションに、ジョルジュはビクリと背を震わせる。


「そうだぼっちゃん、遠征しようぜ! 俺ァ前々から思ってたんだ。ぼっちゃんには北のお高い女じゃなくて、南の気だてのいい娘の方が似合ってる」

「南……」


 オウム返しに呟きながら、ジョルジュは想像力を働かせてみる──が、あまりうまくは行かなかった。ジョルジュとって南といえば、粗暴な荒くればかりがたむろする、文化の香りが欠片もしない、汚らしいイメージしか無かったのだから。


「そいつは誤解だな。大方お父上がそのように吹き込んだのだろうが……南はいいぞ? なんといっても賑やかだ。北の瀟洒な感じも悪くねぇが、俺ぁあっちこそ『ブドゥージョ』って感じがするね」


 いちいち気障ったらしく首を振りながら、ヒースは更に自分が見聞きした街の様子を語って聞かせた。

 雑多でエネルギッシュな市場の様子、興行師(ラニスタ)の元で寝起きし、稽古に励む下級闘士ミリタント、それを憧れの目で見る子供たち。辻に立つ詩人や道化師。北にはない魅力の数々……。彼の語りは実に軽妙で、否応なしに引き込まれる──なるほど、話術とはこういうものかと妙な関心をしながら、ジョルジュは黙って聴き続ける。そしていよいよ町娘の話になると、俄然体が前にのめった。


 南の娘は北の令嬢とは違い、自ら働くことを厭わない。そのせいもあってか身体は程よく引き締まり、程よく日に焼けたその肢体は、抱き心地もその具合も、たるんだ貴族とは比べ物にならない。よく気が尽くし、男心のツボを良く知っている──あまりに生々しい物言いに、ジョルジュはゴクリと固唾を呑んだ。


「だが、南の娘っ子達は気立てもいいが身持ちも固ぇ。男を見る目はシビアだし、こっちが言い寄っても中々なウンとは言ってくれねぇ。……けどまあ、ひとたび惚れさせちまえばこっちのもんよ。骨の随まで尽くしてくれるぜ?」


「た……たとえば……?」


 そこでヒースは主人の耳に顔を近づけ、夜の娘達がいかに素晴らしいかをとっくりと吹き込んだ。ジョルジュの頬は見る見るうちに紅潮し、鎮めた筈のグソクたんが目を覚ます。

 やや内股になりながら話を聞き続けるうち、近くて遠い異界への憧憬が募っていく。中でも彼の一押しの店……某という元・闘士の営むそこは、別嬪揃いと評判なのだそうだ。


「どうだい? 今夜にでも行ってみるかい? 俺の試合が終わったらだけどな」


 ジョルジュはその申し出に一も二もなく頷きかけ……やはり思い直してイヤイヤとかぶりを振った。


「いや、よそう。バレたら父上に殺される」


 父のカロッゾは身内に甘いが、しかし一方では苛烈な男として庶民の間では大変に恐れられている。例外はヒースのような筆頭闘士(プリンシパル)か、付き合いのある豪商ぐらい。その彼らとて所詮、父にとっては『駒』にしか過ぎず、彼が人間とみなすのは同格の貴族か王家以外の他にない。少なくともジョルジュにはそのように見えた。

 そんな父に睨まれでもしたら……想像するだにゾッとしない。


「ぼっちゃん……いや、あえてこう呼ばせてもらうぜ? なあジョルジュ、お前さんに足りないもんは何だと思う?」


 問われてジョルジュは考える──家柄、教養、容姿……どれをとっても申し分ないはず。しいて言うなら腕力か。

 しかしそれとて、彼の持つ財力に比べれば、果たしていかほど値打ちがあるのだろう。


「度胸だよ、度胸。男はコレを忘れちゃいけねぇ。ましてやアンタは貴族だろ? 多少はっちゃけた所でそこはそれ、甲斐性ってもんよ。なぁに、包むもん持たせときゃ大事にはなりゃしねえ。それにな……」


 そこでヒースは再び身を縮ませ、いっそう声を低めて囁きかけた。ブドゥージョ貴族たるもの、常に謹厳実直たらねばならない──父が常々口にするお題目。そんな物はただの建前。実際のところはお忍びで街に繰り出し、股間の一刀を存分に奮って夜の闘技に耽るのが当たり前なのだと。そこには勿論、父や兄達も……。ジョルジュは衝撃に目を見開き、しばし言葉を失いったまま──なんという事だ。外面ではしかめつらしく装いながら、一方ででちゃっかりヤる事はしっかりヤっていた訳だ。


 ジョルジュは激怒した。必ず、かの酒池肉林を味わねばならぬと決意した。この際贅沢は言わない。余程の年増か醜女でもなければそれでいい。とにかくムラムラしていた。誰でもよかった。今も興奮している……迸る熱いパトスの導きのまま、ジョルジュは勢い込んで頷いた。


 ヒースは嬉しそうに主人の肩をバシバシ叩き、鼻歌交じりで本来の業務に戻って行く。ジョルジュもまた期待に胸と股間を膨らませて自室に戻り、たまには応援の一つでもしてやろうと特大サイズのマジックビジョンを発動させる。そして肘掛け椅子に身を預け、一人静かに知人の登場を待つことにした。


 ◆



 そこからが長かった。

 今日の試合はどれも実力伯仲らしく、なかなか進行がはかどらない。もう日暮れ近くにもかかわらず、中堅闘士マリディアンの試合が続いていた。

 この調子では筆頭闘士(プリンシパル)の出番はいつになるやら……苛立たしげに爪を噛む。

 見つめる鍋が煮えないのと同じ、期待が大きいだけ時の流れをひどくなだらかなものにする。

 まだか──まだなのか。ジョルジュは少しでも気を紛らわすため、ベッドに転がり目を瞑った。

 すると途端、童貞ならではの想像力がめくるめく。あんなことイイな、出来たらイイなのアンアンアン……ダメだ。やはり待っていられない!

 2分と立たずに身を起こすと、ジョルジュは急ぎ身支度を整え始めた。彼が想像できるかぎり精一杯の庶民風に着替え終えると、姿見の前でふと一抹の不安を覚えた。

 この格好、この肌ツヤ、そしてこの立ち振る舞い。本当に大丈夫だろうか……鏡の中のもう一人がそう問うているようで、ジョルジュは眉間をしわめて頭を抱える。

 南の連中に貴族とバレたら、恐らくただでは帰れまい。殴られ蹴られ身ぐるみ剥がされ、ひょっとするとあらぬトコまで耕され──リアリティに飛んだその妄想に、アッと悲鳴を上げかけた。


「迷うな。ヤりたいのだろう?」


 口に出して己を励ます。すると、不思議なくらい心が沸き立った。股間の愛棒も。

 それに、ヒースも言っていたではないか──男は度胸、何でもためしてみるものだと。

 伊達男の頼もしい顔を思い出すにつけ、徐々に自信がみなぎり始め、鏡に映った己の姿が大層凛々しく目に映る。

 そうだ。貴族たるもの、余人に計れぬ酔狂に身を委ねて初めて、見えてくるものもあるはずなのだ。言うなればこれは、己が一皮むけるための試練。

 そして試練とあらば、乗り越えゆくのが貴族のつとめ。今更臆してどうするつもりか。押さえ込んでいた情熱と劣情が一気に吹き出し、怖じけた心を焼きつくす。


「迷うな」


 もう一度大きく頷くと、そこにはもう情けない童貞貴族などではなく、凛々しい若武者の表情があった。

 意気揚々と部屋を出て、屋敷の者に命じて再び馬車を走らせた。物憂い表情を張り付かせたまま闘技場前へと降り立って、そそくさと御者を追い払う。

 その姿が十分遠ざかるのを見計らって、いよいよジョルジュは南通りの盛り場へと足を踏み入れるのであった。


 ◆


 う~~、女、女──ジョルジュたぎる欲望を懸命にひた隠し、見慣れぬ通りを眺め回した。作りは北と大差はないが、なるほど確かににぎやかだ。

 石畳のそこかしこに露店が立ち並びんで、売り子の女が精一杯に身を乗り出して食い物や飲み物をを売りさばく。客層は様々。若い鍛冶屋に痩せぎすの仕立屋、老いた石切職人、腹のたるんだ興行師(ラニスタ)。そしてそれらの妻や子供たち。

 通りの端で、あちこちで男達が杯をかわして笑い合っている。その隙間を縫うように、女達が現れた。やたらと生地の薄い服を着た彼女らは、どこからかたゆたう囃子に合わせて突然に踊り始める。

 男達は口笛と手拍子で彼女達を迎え入れ、惜しげも無く手持ちの硬貨を振る舞う。そのやり口がまた大胆だった。近づく踊り子の胸や腰帯に硬貨を放り込み、女もまたそれを平然と受ける。

 踊りしなちゃっかりと勘定を数えつつ、徐々に彼女は太い客へと流れゆく。男達は一層熱くなり、少しでも気を引こうと鼻息を荒くした。つまりコレは、『競り』の一種か──ジョルジュが理解を示すと同時、決着はついた。一人の興行師が袋いっぱいの銀貨を女の乳房におしつけた。すると女は婀娜っぽく笑い、たちまち男の胸に飛び込んだ。

 喝采や不平が飛び交う中、女のよく引き締まった胸や腰に手を回す。早くも長衣の股の間をふくらませ、ますます勢いよく杯を呷った。


 なんと破廉恥な……うらやまけしからん。ぐぬぬと唸りを上げながら指を咥えんばかりに凝視すると、踊り子の女はそれに気づいて『あら』と口だけで驚いた様子を見せる。

 じっとりとした艶めかしい視線を受け、ジョルジュはとりあえず微笑み返した。


 すると、途端に男が不穏な唸りを漏らす。慌てて手を上げ首をふると、犬猫を追い払うような仕草を向ける。にわかに羞恥と怒りが湧くが、ぐっとこらえた。今の自分はは間抜け面の若造でしかない。みだりに絡んで、あのふとましい腕で殴られようものなら路上の露と消えかねない。


 ジョルジュは観察を切り上げて、さっさと目的地である店へ向かおうと思い直して歩を進める。

 そして数歩も行かないうちから、あっと声を漏らしかけた。


 肝心の場所がわからない──何たる勇み足。ヒースに数々の戯言を聞かされた時から、彼は冷静な思考を失っていたのだ。だが手がかりはまだ有る。幸い名前だけは覚えていた。確か……。


「とらのあな……だったか?」


 小さく口の中で転がしてみれば、やはりこれが正しいように思えた。

 意を決して人混みを割り、またどやされながら、ジョルジュは不退転の決意を持って突き進む。

 どの道引き返そうにも一体どこをどう歩いけばよいのか、彼にはさっぱり見当がつかなかった。ならば前進、倒れるときも前のめりである。


 穴。穴はどこだ。穴さえあれば何でもいい──目を血走らせ、ウロウロと慣れぬ通りを歩くうち、はて一体、どこをどう歩いたものやら。

 危機感ゼロのこの青年が、目当てと思しき虎の絵柄の看板を見つけたのは、疲れと空腹にすっかりやられて目が回り始める頃になっての事だった。

 もうすっかりくたびれたジョルジュは、しばし静かに達成感に浸った後、意を決して敷居をまたぐ。


 その店は彼からすれば、下品で、見窄らしくて、そしてせせこましい、馬小屋にも似た作りの部屋だった。

 南通の喧騒をいっぺんに凝縮したような野卑で無教養な男達が卓を囲ってこちらを見ている。

 しかし初め、ジョルジュの目には、それらは殆ど目に映らなかった。


 彼の目に焼き付いていたのは、若く美しい少女たちが仲睦まじく卓を囲む様子であり、彼女らが向ける五対のあどけない視線であった。

 両者が互いを認めた瞬間──訪れたのは電撃的な感動。焦がれ続けた町娘の聞きしに勝る艶姿──とりわけ目立つ二人の少女は、彼の想像をはるかに超えていた。

 彼女らに比べ、これまでの出会った女のなんと卑しい顔つきだったことか! ジョルジュは先刻よりも更に強い感動に打ち震え、思わずクラリと目がくらんだ。


 だから、最初の一言にひどく迷った。疲れと興奮で頭は回らず、喉はすっかりカラカラで、音が出るかも怪しかった。

 懸命に言葉を練って、それを口にするまでに、ひどい根気と時間が要った。


「ああ……すまない。満席だろうか?」


 ◆


 ついにジョルジュは入店を果たした。卓が空くのを待つ傍ら、疲労に霞む目を凝らし、童貞を捧げるべき娘を見定めんと刮目する。

 どの娘も眩いばかりに愛らしい。だが中でも目を引くのは、やはり先刻の二人の少女だ。ジョルジュは内心、二人を『黒髪』と『青髪』と呼ぶことにした。

 ジョルジュの視線は二人の間を行きつ戻りつ、どちらを選ぶか悩んでいると、なんと『黒髪』の方と目があった。ジョルジュは動揺と童貞を悟られないよう、精一杯余裕を醸す。『黒髪』は目を逸らし、俯いたままもじもじとしてしまう。大きな身体に似合わない、いかにも乙女な恥じらい方──その奥ゆかしさには心躍る。が、残念なことに胸が無かった。全くないというわけではないが、たとえるなら山ではなく丘である。むき出しの生足には垂涎の魅力があったが、物事には順序がある。彼はまずおっぱいこそを求めた。


 ──すまぬ、平らかな胸の娘よ。君を抱くのはまた後日だ。その時までにはどうかどうか、大きく豊かに実りたまえよ……。

 彼女の健やかな部分成長を心から願いつつ、もう片割れの『青髪』に目を移す。


 彼女は文句なしの合格だった。身にまとうと空気と同じく、ふんわり柔らか。彼女が小走りするだけで、至福の揺れがが目を奪う。

 そうしてジョルジュの前に立つなり、得物の細剣を挟みこむようにして抱きかかえた。やだなにこの子けしからん。


 なんという愛想の良さ、そして大胆さ……。ジョルジュは思った。間違いない、この娘、わたしに惚れている──つまり、ヤレる。

 出来れば早く、もう一本もお願いしたい──まるきり中年の発想で胸焦がし、ジョルジュは彼女の後に続く。

『青髪』は尚も甲斐甲斐しく、不慣れなジョルジュにつきっきりで世話を焼く。周囲の嫉妬が心地よく、ジョルジュはすっかりいい気分であった。

 殊更に注文を悩んで見せ、麗しい様々な表情を楽しみつつ思う。

 いたいけな少女を焦らすとは、我ながら全く罪な男である。しかしこれこそ貴族のたしなみ、そしてヒース直伝の策でもあった。


(見たかヒース、ついにやったぞ……!)


 いや、ヤるのはこれからか。今は居ない友人に語りかけ、頼んだ酒を口に運ぶ。うまい。これまで飲んだどんな酒より、味も香りも鮮烈な味わい。勝利の美酒とはこういうものか。

 夢中で飲み干すと、すぐにまた『青髪』が注いでくれる。こうなったらとことん飲もうと心に決めた。否応なしに視界に入る、大きな胸を肴にして。


 そうして、ジョルジュの世界は回り始めた。


 始めはゆっくり、心地良く。

 青髪の酌もあって、実に気分がいい。しかしついつい杯を重ねてしまい、そこからがよくなかった。

 急に世界が加速して、視界も意識も楽しいやら苦しいやらが交互に襲い来る。今やジョルジュの中は天国であり、地獄でもあった。

 まだら模様の夢うつつの中、とてつもなく悲惨な物を掴まされた気がした。

 違う違うそうじゃない──己の求めた温もりが、こんなにも不毛な訳がない。あってはならない許されない──怒りと悲しみのあまり目眩がする。


 ああ神よ。お答えください。一体どれほど欲すれば、かの温もりは手に入るのですか。


 その答えは(いかずち)の如き衝撃であり、それこそが彼に悟らせた──今こそ試練の時なのだと。

 なれば寝ている場合ではない。絶対に負けられない闘いが、そこにある。見よ、あの邪悪な黒髪の化け物の姿。ジョルジュが殺らねば誰がやる。

 神よ、そして始祖マスラウよ。どうか我が身に、勝利と女体を与え給え──!


 ジョルジュは臆することなく拳を掲げ、悪鬼に向かって突撃を開始した。


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