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虎の巣穴の女子

  ドルジオ大陸の東部、リンガ=オクタニアス王国は、人類勢力最大の王国として800年の歴史を誇る。

 王都オクタゴンを中心として、円環を描く八つの都市は初代国王、ダナン・ズッファウスに従った8人の貴族──その末裔たちが領主として治めている。

 平時はそれぞれの都市が強い自治権を持ち、周辺諸国や各都市間の交易で大いに賑いを見せていた。


 北東の第一都市『ブドゥージョ』は、『武神』マスラウ・サンパレスが興した一大施設、『闘技場(コロシアム)』で特に有名だ。

 その歴史は古く、建国前にまで遡る。元は自身の修練場であった物を民衆へ開放したのがその始まり。

 領主マスラウはこの地で戦士たちを競わせ、時には罪人たちを放り込んで民衆への示威と娯楽提供を両立させた。

 これが大いに評判となり、王都オクタゴンを始め各都市に同様のものが建築された。今日(こんにち)では各都市のコロシアムで『闘士』と呼ばれる武辺者達が日夜鎬を削っている。


 だが、聖地はどこかと言えば──やはりここ、ブドゥージョだ。規模こそ王都に譲るものの、年間試合数では他の追随を許さない。

 当然客の目も肥えている。日々戦いで糧を得る闘士たちにとって、この都市で認められることは何よりの誉れであった。


 マスラウ亡き後もそうした武辺の気風は脈々と受け継がれ、闘士たちの熱い戦いは最大の娯楽として今日の人々の生活に根付いている。

 武張ってばかりで気品にかけると言われた石造りの街並みも、長い年月を経て古都独特の情緒を醸し出していた。


 そんな由緒ある都市の一画、コロシアムへと続く南の大通りの大衆酒場、『虎の巣穴亭』。

 カウンター12席、4人がけのテーブルが6席。九割がた男達で埋まっており、店主自慢の酒と料理を口に運んで舌鼓を打つ。

 店の壁に掲げられた額縁は常設型の投射魔法によってスクリーンと化し、今まさにコロシアムで行われている闘士たちの熱い戦いが繰り広げられていた。

 客達の反応は様々だ。しきりに声援を送るものもいれば、何となく眺めるだけのものも居た。

 後者のお目当てはこの店のウリのもう一つ──華やかなメイド服に身を包み、優雅にテーブルの間を行き交うウェイトレスだ。

 彼女達はみな己の容姿に見合った着こなし方をしており、自身の魅力を最大限に引き出し給仕に勤んでいる。


 彼女達にホールを任せ、厨房に預かるのは店主、ジョシュ・クロニコフ。

 第八都市ウェッスル近郊の出身。鋭い奥目に高い鷲鼻、頑丈そうな割れた顎。身長204サントと大柄で、その身に纏う筋肉は岩のように硬く、鎧のように肉厚。

 民族格闘技『キャッチ』の名手として鳴らした元・闘士である。

 対戦相手を食材に見立て、素手のみで関節を解体していくこの大男を、人々は『膳夫(かしわで)』と呼んで敬意を表した。

 とは言え12年の闘士生活は徐々に身体を蝕み、惜しまれつつもついに引退。第二の人生を歩むにあたって、既に進路は決めていた。


 大柄で強面、クマと混血と言われても納得の風貌のジョシュだが、その実、趣味は家庭的──料理に裁縫、それから洗濯。

 なかでも料理に関しては、少しばかりうるさい。


 各地を遊歴する傍ら、その土地々々の料理を学んだジョシュにとって、聖地の食糧事情は最低最悪に近かった。

 噛めば噛むほど顎が鍛えられそうな硬い黒パンに、ぶつ切りの肉と野菜がごろりと入った野戦食のようなスープ。凝ったところでせいぜい鰻の酒蒸し程度である。

 無骨で知られるブドゥージョならではの郷土料理だが、これでは栄養は取れても心は荒む。


 そこで、思いついたのがこの店だ。

 八都市の代表的な料理を手頃な価格で提供し、酒も葡萄酒に麦酒、ジンやウォトカなどのスピリッツ──変わった所で、第四都市リタリヴルの蒸留酒『メスカル』なども楽しめる。

 更にダメ押しなのが、店主直々に土下座スカウトしたウェイトレス達である。ちなみに衣装もジョシュのお手製。


 おいで可愛いお嬢ちゃん、ステキなおべべが着られるよ──言葉巧みに誘導するそのさまは、まるきり変質者の手口であった。


 果たして思惑は図に当たり、助平面をぶら下げた男達を見事に引っ掛け、続いてその味の良さで魅了に成功。

 今や南通りで一、二を争う人気店として、街の彩りに一役買っていた。


 スクリーン上では試合が終わり、コロシアムは一時休憩に入る。そのタイミングで何人かが席を立ち、変わって新たな客が押しかけた。

 手早く感情を終えたそばから、客達が勝手に席につく。メイドたちが笑顔で応じ、手早く注文をメモに取る。

 ジョシュはオーダーを手早く頭のなかでまとめ、狭い厨房で巨体をせせこましく動かし始めた。まずは通しの炒り豆を豪快に人数分仕上げる。

 レンズ豆を塩と胡椒で炒めただけのシンプルな物だが、それだけにどんな酒にもよく馴染む。

 手早く仕上げてカウンターへ並べると、次々と少女たちが客達の元へ運びこむ。ジョシュは続いて揚げ鶏の支度にかかる。よく叩いて下味をつけ、鍋に放り込むとすぐさまサラダの盛り付けへ。


 ほんのり汗ばんだ少女たちは絶えず客へと注意を向け、チャンスがあれば卓に出向いて酌して回る。コレはもちろん別途料金。娘達の貴重な小遣い(チップ)となる。

 中でも看板娘のルシアなどは、あちらこちらで愛想を振りまきタッチを躱し、巧みに追加注文を誘導している。今宵の稼ぎも上々のようだ。


 ある程度注文が行き渡った所で、スクリーンからはいよいよメインイベントの戦鐘(ゴング)が鳴った。

 ますます繁盛の様子を見せる虎の巣穴亭──その中で、働かざる者(ニート)が一人。


 美女……いや美少女である。より正確に言うならば、ちょうどその間に当たる年頃だろうか。

 彼女はジョシュの後ろ、ただでさえ狭い厨房内の片隅で、神妙な顔をしたまま佇んでいた。

 腰まで届く黒髪は艶やかに、意志の強そうな切れ長の黒瞳。スッキリと高い鼻梁、大きく情熱的な赤い唇。健康的に日焼けした180サントの長身。超ミニ丈のメイド服が、嫌味なほどに似合っている。

 胸はさほど大きく無いが、長く優美な脚のラインには溜息をつかずにいられない。

 一目見たなら絶対に忘れられない、例えるなら野薔薇のごとき印象の娘だ。


 スクリーンの試合を追う目つきは真剣そのもの。刃のごとく鈍く輝き、まばたき一つせずに攻防を追っている。

 知らずほどけた唇からは低く小さく、一端の評論家めいた呟きが漏れていた。どちらの選手に肩入れすることもなく、ただその技術に対する称賛と敬意が込められていた。

 つまり彼女は、熟練の闘士の動きを見きる眼力を持ち合わせているわけだが──…当然、サボりは許されない。客の会話を遮らない程度の声で、背中越しに鋭く言い放つ。


「……レーナ。仕事しろ」

「もうちょっと」

「もうちょっとじゃねぇ。さっきから堂々とサボりやがって。ちったぁルシア達を見習え」

「うん……でも、もうちょっと」


 ジョシュは香ばしく揚がった鳥を盛りつけ、そこで初めて娘の方へ振り返り……そのまま絶句した。

 レーナと呼ばれた娘は、しゃもじ片手に飯をよそって食っていた。視線はスクリーンに注がれたまま、両の頬をパンパンに膨らませてモキュモキュと咀嚼している。

 指についた米粒を舐めしゃぶり、そこでようやく叔父の視線に気がついた。

 しばし両者は動きを止め、濃厚に視線を絡め合う。


「てめぇ、何食ってんだ」

「……賄い」


 正しくはつまみ食いである。

 二つ並んだ特注の大釜、その内の片方半分近くも減っている。確かにそちらは賄い飯で、客に出すものではない。

 だがそれは、今日一日額に汗した者だけがありつける代物だ。そのはずだった。せめて味わって食いやがれ──怒りこじらせるジョシュを他所に、不労のレーナは美顔一笑。


「コレおいしいね! なんて料理?」

「それか? パエジャっつってな、第六都市(キーワン)の方では割とポピュラーな家庭料理で……ってそうじゃねえ! モリモリ食うな! 幸せそうな顔するな! 可愛いじゃねぇか畜生! でも許さんそこになおれ!」


 ジョシュは姪馬鹿ぶりを披露しながら手を伸ばし、馬鹿姪は慌てず騒がず、しかし恐るべき身のこなしでその腕をくぐり抜けた。

 レーナはちゃっかりホールへ逃げ込んで、客を盾にして睨み合う。


「なによ、皿割りマシンになるぐらいならそこで見てろって言ったの叔父さんでしょ!?」

「仕事を見てろって意味だ、この馬鹿娘! 厨房は手が足りねぇんだ! 婿探すんなら料理ぐらい覚えろ!」

「うん、この揚げ物も美味しいね。あたしはこっちの方が好きかな!」

「客の注文を食うなァァーーーーーッ」


 いよいよジョシュは青筋おったて、不真面目メイドに制裁を加えんと厨房を飛び出した。レーナはテーブルと同僚の間をひらりとすり抜け、踊るように叔父の手をかわし続ける。

 このじゃじゃ馬が店に入って3ヶ月──毎度おなじみの光景だけに、客達の反応も慣れたものだ。

 すっかり名物と化したその様子に、あちこちのテーブルで客達が囁き合う。


「始まったぜ」「どっちに賭ける?」「レーナに100グラブ」「レーナだろ。120」「俺はジョシュだな、300」「俺も300。ただしレーナだ」「ケチくせえなぁ」「……賭けにならねぇ」


 淡々と進む賭けをを目にして、ジョシュはまたも目を剥いた。


「見せもんじゃねぇぞお前ら! 少しは手伝え、料理出せねえだろ!?」


 ジョシュの怒りもどこ吹く風か、返る言葉は野次ばかり。どうしたジョシュ、さっさとしてくれ。腹が減って仕方がねぇ──親族同士のじゃれ合いを肴に次々と盃が空く。

 店内を5周したところで、ジョシュはとうとう捕獲を諦めた。膝に手をつき悪態をつく。


「ったく……ちょこまかと……!」

「何言ってんの。水汲みとか自分でやんないからだよ? そりゃスタミナも落ちるって」

「それぐらいしか役に立たねえだろ、お前は!」

「そんな怒鳴んないの。はい、お水」


 差し出された水を一息に飲み干し、ジョシュは苦々しく立ち上がり、姪の肩をポンと叩いた。それ即ち業務再開の合図だ。客は再び飲み食いに戻り、レーナも叔父の背中を追う。

 二人で仲良く肩を並べながら、皿の汚れを落としていく。


「オメェなぁ、ハラ減ったんなら素直にそう言え。あと、タイミングってもんがあるだろ」

「ごめん。でも美味しそうだったんだもん」


 グオゴゴゴ──反省の弁もそこそこの所でレーナの腹が盛大に鳴る。ジョシュは残念そうに姪を見た。


「タイミングっていっただろ……」

「ごめんってば。だったら注文するから、それならいいでしょ?」

「あ? ああ……まあ、いいか」


 どうせ常連だけだしな──…ジョシュが頷くが早いか、レーナは早速客を押しのけカウンターへと陣取った。

 鼻歌交じりにメニューを広げ、書かれた一文を指し示す。


「コレお願い」


 ジョシュは片目で目を通すと、ぴくりと瞼を震わせた。


『メイドさんと勝ち抜き腕相撲 一回20グラブ』──開店当初に考案した、客寄せ目的のジョークメニュー。


 店の娘と腕相撲をし、全勝すれば食事はタダ、というのがその内容だ。

 客は合法的にメイドの手を握る事ができ、その時点でまあ元は取れる。程々で負けておくのがお約束。

 欲をかいて勝ち抜いた所で、最後はフリルいっぱいの女装店主が出て来てジ・エンドという、理不尽さ溢れる趣向であった。

 そんなのもあったなぁ──ジョシュはしみじみ思い出しつつ、無言で売り切れの札を張って嘆息した。


「……ルシア達が勝てるわけねえだろ? 怪我させる気か」

「うん、だから予選はすっ飛ばして本番っていうか……ラスボス相手なら別に良くない?」


 言いながら、レーナは袖をまくり上げた。

 しなやかな腕をくの字に曲げ、ポコリと小さなコブ山を見せつける。よく鍛えられている。が──…所詮、『女にしては』と言うところ。


「……さすがに勝負になんねえよ」

「どうかなぁ? ねぇモヒオ、アンタはどう思う?」


 席を変わった隣の客──メイド目当ての悪童が、首をひねって考えこむ……ややあって、ニヤリと嗤う。


「……意外とイイ勝負になるんじゃないスかね」


 いかにも用意していたセリフ。何かが妙だ……ジョシュの眉間が怪訝に歪み、察したレーナは声を張る。


「他のみんなはどう思う? 面白そうじゃない?」


 よく通る澄んだ声に、再び周囲が首を巡らす。たちまち話題に火がついて、再び耳目が二人に集う。もはや試合など、誰も見ちゃいない。

 ジョシュはしばし考えこみ……やはり首を横に振る。


「……それこそ怪我じゃすまねぇ」


 もっともな見解だが、これには客もレーナも興ざめだ。心底からのブーイングが店中から上がる。

 ジョシュは努めて無視しながら腹の底で悪態を垂れ流す──このバカ客どもめ。なじりながらも手は止めない。客達も止まらない。


「なんでぇ、ブルっちまってんのかい? 自慢の腕は飾りかよ?」

「まあそう言ってやるなよ。コイツはよ、なんだかんだ言って姪っ子ちゃんが可愛くて仕方がねえのさ。男やもめの所にあの器量だろ? いくら堅物っつってもよ……」

「あー……それってつまり」


 客達とメイドは一斉にジョシュを見て、レーナを見る。最後に二人を交互に見てから囁きかわす。


「ロリコン……」「犯罪だわ」「憲兵呼ぶか?」「そういや、さっき可愛いとかなんとか」「アウト」「アウトだな」「鏡見ろ」



 ──ぶつん。



 とうとうジョシュのこめかみから、とても太くて硬くて逞しいモノがはちきれる音がした。

 何たる厄日だ。あまりの事に言葉も無い。

 それもこれも、全て──この顔と髪と足だけはとびきり綺麗な、しかし満足に皿を洗うことも出来ないアルティメット不器用の山猿娘のせい……そこでようやく、ジョシュの頭に閃くものがあった。


「レーナ!! てめぇなんか吹き込みやがったな!?」

「別に? 昔父さんと叔父さんが母さん巡ってガチバトルしたってことぐらいだよ?」

「それを吹いてるっつってんだこのバカ姪が! 一体どこまで話しやがった!?」

「ん? んーとね、叔父さんが圧勝したんだけど、悔し泣きする父さんを見て母さんがキュンと来ちゃってそのままゴール、ヤケになった叔父さんはストリートファイトに明け暮れて、気がついたら闘士やってた所まで?」

「全部じゃねえか畜生がァァァーーーーッ」

「いーじゃない、人に歴史あり、叔父さんに女運なし! 間違ったこと言ってないっしょ?」


 この一言には客もメイドもどっと湧き、いよいよジョシュは正体を無くしかけた。

 全身をわななかせる元・闘士。流石の迫力が滲み出ていて、息苦しささえ感じる。客もメイドも息をのむ。


「わかった叔父さん、じゃあこうしよう。あたしが勝ったらルール通り何でも作ってもらう。叔父さんが勝ったら、あたしを好きにしていいよ?」


 年頃の娘にあるまじきセリフと共に、バチコンと必殺のウィンク一つ。初恋の君に瓜二つというのがまた余計に憎たらしい。

 この提案に周囲は益々ヒートアップし、手足を鳴らしてジョシュを煽る。闘技場の闘士に対する、ブドゥージョ独特の荒っぽい応援だ。

 大事な店の床板を踏み抜かんばかりの勢い──もはやどうあっても白黒つけねば収まりがつかない雰囲気。


「分かった。……一回だけやってやる。俺が勝ったら、納得いくまで厨房を仕込んでやる。もちろん給金は無し、遊ぶ暇も与えねえから覚悟しておけ」

「えーなにそれ? もっとイイ事とかしないの? もったいなーい」

「誰がてめぇの貧相な胸ににサカるか! そこだけは母さんに似なくて残念だったな!」

「うわっ、言ったよこの人。滅茶苦茶気にしてるのに」


 芝居気たっぷりに茶化すレーナだが、しかし内心、喜悦を抑えるのに必死だった。


(…──いっぺん、本気で手合わせしたかったんだよね)


 レーナがブドゥージョに来て三ヶ月。毎日たくさんの闘士の試合を見てきたが、『力』という一点に絞ればやはり叔父に敵う者は居ない。

 その確信にいたってから一ヶ月、レーナはどうやってその気にさせるか考え続けた。

 何しろ相手は元・闘士で、自分は一見ただの小娘。普通に挑んでみたところで、この姪馬鹿の叔父は取り合ってくれそうにない。そこで思いついたのがモヒオ達常連との一芝居だ。

 果たして思惑は図に当たり、叔父の怒りは有頂天。冷めないうちにいただく(・ ・ ・ ・)としよう。


 愛されているのはよく分かる。とても嬉しい。けど、だからこそ。我儘ぐらい、全力で受け止めて欲しい。


(……悪い癖よね)


 直すつもりは一切ない。レーナは勝気な瞳に戦意を浮かべ、可憐な唇をちろりひと舐め──雌獅子さながらに美しく、そして獰猛な空気を身にまとう。

 ジョシュも軽く首と肩を回してほぐすと、丸太のように太い腕を特注のカウンターへとつき出した。


「……来い」


 いかめしく告げるジョシュの目は、既に闘士のそれである。悪鬼そのもの面構え──かつての人間調理人の登場だ。

 対するレーナはあくまで強気を崩さず、飄々と力を抜いて対面に座る。


「お手柔らかに」


 再び客の間で賭けが始まる。乱れ飛ぶ銀貨に銅貨。胴元を気取るモヒオの皿が、あっという間に貨幣で埋まる。

 最後に、看板娘のルシアがテーブルの中央へと陣取った。


「では審判役は不肖わたくし、ルシア・メイナードが努めさせて頂きますね~」


 いっそあざとい仕草でペコリと一例。彼女のそれは、たちの悪いことに天然だ。ほにゃほにゃとした笑顔に男どもは相好を崩し、口笛を鳴らして了承の意を示す。

 組んでみるとその差は歴然、ジョシュの腕が丸太とすれば、レーナのそれは小枝のよう。

 店内が静寂で満たされる。静かに燃える、緊張と期待──…一堂が固唾を呑む中、やはりレーナは不敵に笑い、目を閉じる。


 ──あたしは、強い。

 ──あたしは、勝つ。相手が誰でも関係ない。だって、あたしは……。


 ルシアの柔らかい手の感触を感じ、レーナは再び目を開いた。

 双瞳に揺らめく戦意の光。ジョシュは真っ向受け止める──戦端が、ひらく。



「Ready──…Go!!」

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