六
夕日が甲板を照らしだした。艦内の膠着状態は解除され、原子力空母は二日ぶりにハワイ湾を後にした。ハワイを出発して既に一時間以上経つが未だ例の試作戦闘機は確認できない。電子制御された原子力空母に似合わず、監視司令塔から双眼鏡で探す。カモメすら見えないのだが、監視員はある影を見つける。
「大佐、輸送ヘリが近づいてきます。」
大きな騒音を響かせながら八機のCH‐47が接近してきた。どよめく艦内。先頭で飛行するCH‐47は空母に近づくと機体から紐を次々と垂れた。貨物ハッチが開いたのだ。黒い特殊服に身を包んだ謎の男たちが甲板に降り立った。その手にはFN社のP90が握られ、ヘルメットに瞳が赤く光るガスマスクという異様な恰好だ。残りのCH‐47からも次々に甲板に降り立つ。
「何だ。」
あっという間に船内まで入り込む謎の特殊部隊。わずか五分と言う短時間で完全に原子力空母を制圧した。船員は成すすべがなく一角に追い立てられ、身動きが取れなくなった。最後に降り立ったキャップを被った男が数人の特殊部隊隊員を連れ指令室に入るとその場にいた船員に銃口を向け、マイクを握った。
『現在を持ってこの空母は我々が占拠した。我々は君達に危害を加えるつもりはない。命令に従ってもらえば直ぐにでも開放する。我々はテロリストではない。君たちと同じアメリカ軍だ。』
「いったいどういう事だ!」
スティーブは向けられた銃口に怯むことはなく、代表らしき男に詰め寄った。背後にいた他の特殊部隊隊員に取り押さえられてもなお、その好戦的な態度を崩すことはなかった。
「我々は上からの命令に乗っ取った行動をとっただけです。これはアメリカ軍の命令なのです。少佐殿、もうしばらく辛抱を。」
「納得いかん、それに…。」
男の銃がスティーブの頭を襲った。跪く、スティーブ。
「ぐっ…。」
「何て事を!気は確かなの!」
男は冷静に対応した。
「刃向うのなら射殺しても構わないと命令がでています。それはあなた方にもわかってもらいたい。」
メイリンの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「せめて、医務室に連れて行くわ。」
「構わない、おい。」
一人の隊員が銃を向けながら歩み寄ってきた。メイリンは額から血を流すスティーブを抱え、立ち上がった。
「すまない…。」
「いえ。」
部屋を出る際にメイリンは軽蔑の目で男を睨み付けた。
あれ以来、全く連絡が付かなくなった事にダイゴとレオンは不信感を覚えた。最後に連絡が入ったのは午後三時でそれから三時間経つも向こうからの連絡も無く、こちらからの連絡も付かないのだ。何かあったのかと当然ながら思う二人。
突然、艦内が騒がしくなった。部屋の電気を消し、扉に隙間を開け廊下の様子を伺った。黒い特殊服に身を包んだ男たちが何やら揉めているようだ。
「パイロットは全員集めたか?」
「わからん、それより格納庫に向かってくれ。整備班の連中、言う事を一切聞かない。」
男たちはP90を握りしめ早々にそこを去った。ダイゴとレオンは思わず顔を見合わせた。
「何だ、一体どうなってる?」
「特殊部隊に…見えた。」
さっきまで繋がった携帯端末が繋がらない。
「くそ、妨害電波か。どこから。」
「やつらまさか俺達の空母を乗っ取ったのか。」
レオンは部屋を見回した。新造艦であるこの原子力空母は他の原子力空母に比べ技術の発展により内部にゆとりがある。その為、パイロットには一人に各一つ部屋が与えられているのだが、レオンはその折り畳み式のベットの下に拳銃を隠していたのだ。グロック18C。グリップより長い多弾装マガジンをはめ込む。そこら辺に落ちていた。タオルを丸めポケットに詰め込んだ。
「どうすんだよ!」
「とりあえず、大佐の部屋だ。」
「大佐の部屋?一体何しに!」
「大佐の趣味は?」
「…銃?」
「そういうことだ。武器庫は恐らく制圧されているだろう。奴らが俺たちの存在に気付く前になんとかしないと。」
レオンはゆっくりと廊下に出た。静まり返った廊下に人の気配はない。足音を極力抑え、長い廊下を突き進む。ダイゴもその後に続く。普段、何げなく通る廊下でさえ恐怖心を感じずにいられない。見つかったらどうなる、殺されるのか?額に汗があふれた。どうしよもない緊張感が二人を包み込んでいる。
「パイロットが二人いないぞ、どこかに隠れている。探せ、今すぐに。抵抗するなら射殺してかまわない。」
「はっ。」
一人の武装した男が廊下の一番奥の階段を下りてきた。艦内放送の直後に電気が消された廊下に男の足音が響き渡る。ゆっくり、しかし着実に一歩また一歩と近づく《音》。二人は廊下にへばりつく。男はP90の先に取り付けられたフラッシュライトを点灯させ、階段から一番近い部屋から順に調べて行った
(撃たないのか…?)
(サイレンサーじゃないんだ、他の連中にばれたらお仕舞だ。それに、ヘルメットにガスマスクもされちゃあ敵わない。)
ほんの一メートル先まで男はやってきた。男は次の部屋を散策しようと扉に向かっていた。目を合わせて合図を送った。男の背後に素早く回り込むレオン。正面から急所に一撃を食らわせるだいご。悶絶し声が出ない。男の足を振り払い、仰向けに倒すとガスマスクをはぎ取り、すぐに口に先ほどのタオルを詰め込んだ。抵抗しようと暴れる男のヘルメットをずらし、こめかみにグロックを向けると男は抵抗をやめた。
「動くな、動いたら殺す。わかったなら頷け、しゃべるな。」
黙ってこくりと頷いた。
階段の音から何か異様な雰囲気を感じ取った。一人向かわせたのだが、一向に戻ってこない。何かあったのか?疑問を感じずにはいられない。
「おい、何かあったのか?」
暗闇の中から男の声が聞こえた。早く、こっちに来てくれ。フラッシュライトを点けるとP90を構えながら階段を下りた。いくつかの部屋が向かい合わせで等間隔で並ぶ廊下の奥でP90を構えた男が跪いた軍服の男に銃口を向けていた。
「おお、これであと一人か。顔を見せろ。」
アジア系の顔が憎そうにこちらを見ていた。
「男の方か。この部屋は全部調べたのか?」
「まだだ、こいつを縛るから奥の部屋を頼む。」
「わかった。」
P90を再度構え直し、奥へ奥へと真っ暗な廊下を進む。すると一つだけ空いている部屋を見つけた。瞬間、後頭部に何かあたった。
「銃を捨てろ、マスクもだ。」
背後には同じ服装の男が立っていた。
「貴様…。」
「しゃべるな、早くしろ。殺すぞ。」
銃口で後頭部を突いた。男は振り向くことはせず、黙ってP90を床に置きマスクを取る。
「ダイゴ。」
「ああ。」
ダイゴはその二つを後ろで銃を向ける男の後ろに滑らせると、男の服を脱がせた。一通り服を脱がせると、今まで服を着ていた男に布を咥えさせ、身体の後ろで手足を縛り、部屋に入れた。部屋の中にはもう一人手足を縛られた男が転がっていた。
「すまんな、少し狭いが我慢してくれ。」
マスクを取った男の顔は西洋風の男、レオンだった。ニヤリと笑みを浮かべ扉を閉めた。直ぐにマスクを被りなおすとP90を構え直した。
「急げ、早くしろ。」
「わかってるよ。」
ダイゴは脱がした服に身を包むと、同じようにマスクを被りP90を構えた。
「とりあえず、大佐の部屋に行く必要はなくなったが。まだ捕まってない奴らは同じように部屋に向かうだろう。」
「お前って意外に大胆なんだな。」
「…お前に似たのかもな。」
医務室に医師の姿は無かった。恐らくさっきの招集でどこかに連れて行かれたのだろう。二つ並ぶベットの奥に机があり、そのすぐ横に棚があった。メイリンはスティーブを椅子に座らせると棚の中をあさった。抗生物質やら消毒液の下にガーゼはあった。消毒液とガーゼを取ると、ガーゼに消毒液をしみこませる。触れるだけでスティーブは顔を顰めた。
「痛いでしょう?」
「こんな傷大したことはありません。それにしてもすまない、民間人である君まで巻き込みなおさら例の件まで…。」
「気になさらないでください。」
入り口に立っている男に目をやった。扉を締め切り、マスクの中からじっとこちらを見ていた。こいつの前ではFN‐02の話が出来ない。早々に話を切ったのだ。
「早くしろ、いつまでやっている。」
男がし切りに催促してきた。新しいガーゼを適度な大きさにはさみで切る。傷口にあて、テープでしっかりと固定した。終わってガーゼの束を棚にしまおうとしたとき、棚の下の引き戸が日微かに開いた。ブルーの瞳がこちらをじっと見つめていた。息が合った。思わず声が出た。
「すいません、こちら側に来て頂けませんか?」
「何だ。」
男はP90のグリップを深く握りしめ、メイリンの横まで来た。メイリンはぐっと顔を引き寄せ耳元まで口を近づけた。誘っているのか、男がメイリンの顔を見ようと振り返るとき、目の前にはメイリンでもスティーブでもない瞳を見つけた。
瞬間、棚の下が勢いよく開くと茶髪の男が飛び出した。男に飛びつくと地面にそのままひっくり返る。地面に叩きつけられた衝撃でP90が回転しながらベットの下に吹き飛んだ。掃除用具の中から、急に飛び出す影がいた。女、確信した。男に跨り、腰から取り出したサバイバルナイフを首に当てた。
「動いたら殺しますよ。さぁ、ジャック!」
棚から出てきた男は立ち上がると、マスクをはぎ取り口にガーゼの束を詰める。
「うぅぅぅっ!」
男はうめき声を上げ、もがく。首元にナイフをさらにめり込ませた。
「だから、動いたら刺さりますって。」
「貸せ。」
すかさずスティーブが女のナイフを取り上げた。そして、太ももに突き刺した。肉が裂け侵入する刃物。悲鳴を上げるも、うめき声に変わる。
「いいか、黙らなければこれを貴様の首に突き刺す。わかったか!」
男は涙を流しながら何度も上下に首を振った。硬直するメイリンの傍らで、二人の男女は直ぐに男の太もも縛り、ガーゼで傷口を覆った。
「あなた達は…。」
女の方は微笑む。
「レベッカ・レイボーン少尉です。怪我はありませんか?」
男の方はベットの下に吹き飛んだP90を取ると、にっこりとこれまた微笑んだ。
「ジャック・ニコルソンです。少尉です。さぁ、立って。ここは危険だ。大佐殿もよくご無事で。」
ジャックは男から予備弾倉をとると、胸ポケットに入れた。P90を構えると扉の横にしゃがむ。スティーブも反対側にしゃがみ込んだ。目で合図しゆっくりと扉を開けるスティーブ。すかさずジャックが廊下に出た。安全を確認するとメイリンを見た。
「さぁ、自分に続いて。」
ジャックはメイリンを促した。レベッカはメイリンの肩を抱え、ジャックの後ろに付いた。廊下は暗く、転倒防止用のライトすら点いていなかった。
「少尉、私の部屋に迎え。あそこならまだ武器があるかもしれない。」
「了解です、大佐殿。」
丸い窓から差し込む月明かりが廊下をわずかながら照らしていた。いくつもの分岐する道をただひたすらに進む。現在いる階より二つ上に行かなければ部屋には向かえない。ジャックは一番近い、一番安全なルートを考えて進まなければならなかった。エレベーターは電気が通っていない今の状況で使えない。単純に階段を使うしかないのだ。
「大佐、奴らは一体何者ですか?」
「アメリカ軍だと名乗っている。恐らく、何か不都合なことが起こったのだろう。我々が動いたことで。」
何か不都合な事、それは一体何のことなのか。ジャックの頭からその言葉が離れなかった。どれくらいの時間が経ったのか、わずか十数メートルの距離がとても長く感じた。行き着いた先に螺旋階段があった。人の気配はない。螺旋階段の付近に窓はなく、ジャックはフラッシュライトを点けた。コンという重みのある響きが四人の耳に流れる。ゆっくり、しかし着実に階段を上る。ジャックは焦った。このP90にはサイレンサーが付いていないのだ。もし階段で敵と遭遇したのなら撃たなければいけない。しかし、そうすれば他の者達にばれてしまう。いっそう捨ててしまいたいのだが、持っているだけで安心感はある。
階段を二階分上ると、また同じような薄暗い廊下が四人の前に姿を現した。人の気配はない。
「しかし、どういう事だ。男女のパイロットが二人いないなんて。」
「どこかに隠れてやってるんじゃないか?」
背後で声がした。慌てて廊下を直進する一同。部屋に入ろうと扉に手を掛けた瞬間。
「おい、何をやっている!」
硬直した。ドアまでほんの数センチの所で動きが止まったのだ。廊下の奥からひとり男が走ってきた。ライトを照らされ、目がくらむ。撃つか、嫌駄目だ。せめて、これだけは見られないように。P90を背後に隠す。
「貴様たち、ここで何をしているのだ!」
「上からの命令で、移送している所だ。」
階段から二人の男が背後から現れた。その一人が、目の前に立つ男までやってきた。もう一人の男はジャックの横に立つとP90にすっと手を掛けた。ジャックは出来るだけ目の前に立つ男に気が付かれないようにその男に《渡した》。
「キングス大佐の負傷を治療するために医務室に行ったところだ。そのうちに二人のパイロットを見つけてな。」
「そうか、その二人は最初の男女だな?パイロットは皆第三格納庫に待機させている。出来るだけ急げ。俺は格納庫の援護に向かう。」
「わかった。」
男は再び来た道を引き返していった。男と会話していたもう一人の男は、男が消えるのを確認するとすぐに部屋の扉を開けた。
「急げ、早く。」
わけもわからない四人は男の命じるままに部屋に入った。二人の男は四人が入ったのを確認したのち、廊下を警戒しつつ部屋に入った。部屋の中央にある机の後ろには丁寧に銃が幾つも並べられていた。
「少尉、よく大佐をここまで待ってくれた。勿論、民間人も含めてだ。」
ガスマスクが外れた。見覚えのある顔が四人の前に現れた。
「レオン中尉、それにダイゴ中尉か!」
二人は特殊部隊の恰好をしていたのだ。
「大佐、一体どういう事なのですか?外部との連絡は遮断しますし、それにあの特殊部隊は。」
「おそらく参謀クラスの命令だろう。P90がテロリストに出回っているのは考えられん。それに奴らも自分たちはアメリカ軍だと言っていた。」
「じゃあ何故この空母を。」
「わからん。それより君たちはその恰好で艦内を散策したのだろ?エピオン計画の二号機について何か話していなかったか?」
ダイゴは戦闘服を脱ぎ棄て、不思議そうに近づいた。
「それって、あの未確認戦闘機のことじゃないですか?一体どうして?」
「アラスカからこちらに向かってきているんだ。東京に向かう為の燃料の補給をする為に。
」
「東京…。まさかGHOSTが無人戦闘機に!」
ダイゴとレオンは目を合わせた。
「何故君たちがそれを知っている。」
「技術主任から連絡がありまして…。」
「彼女は東京にいるのか!」
スティーブはかなり焦った様子だ。メイリンはそんなスティーブを無視し、ダイゴに迫った。
「二号機は、FN‐02はどうなりました?」
「着艦したようですが、すぐに凍結されて今はFN‐01と同じように格納庫にありあます。」
「そうですか。」
ひとまず安心したように胸を撫で下ろす。しかし、挨拶を思い出し直ぐに握手を求めた。
「申し遅れました。ヴィーナス・フロンティア社のメイリンです。あなたが噂の謹慎中のダイゴ・マツイ少尉ですか?スタンフォード技術主任から聞いています。」
「そうですか…。」
苦笑いだった。アイナのことだ、何か可笑しなことを言っている気がしたのだ。メイリンはなおも続けた。
「あなた方もご存じの通り、GHOSTがジェネラル・ウィンドウ社の無人戦闘機UF‐40JのAIに侵入しました。UF‐40Jのサーバーの拠点は横須賀に停泊中の原子力空母にあります。軍はGHOSTの軍内部のネットワーク汚染を恐れて軍のネットワークを全て遮断したのですが、私はそれが軍の内部による犯行だと推測しています。それに…。」
「横須賀に最初に侵入したのは初めから無人戦闘機が目的だった。そう考える方が利口だな。」
レオンは艦内図を見ながら口をはさむ。
「えぇ、ターゲットはあくまで無人戦闘機。この空母がそれに対して行動を起こしたので上から抑圧したのではないでしょうか。あくまで私個人の推測なのですが。」
「でもGHOSTを無人戦闘機に侵入させて、何の目的があるのですか?」
レベッカは首を傾げた。
「そこは私にも…。」
「行って確かめよう。アイナが心配だ。もしかしたら無人戦闘機の暴走に巻き込まれているかもしれないからな。」
「私としてはGHOSTに対抗できる唯一の戦闘機はNFシリーズだけだと思っています。それにあなた方が乗ってくれる方がNFシリーズも本来の力が出せるでしょう。」
レオンは艦内図を指差した。
「この換気口は格納庫まで繋がっている。格納庫の中は整備班が抵抗していると奴らが言っていた。ならまだ制圧はされていないと考えられる。確か第三格納庫にパイロット連中は捕まっているといったな。ジャック、FN‐01が閉まっているのは。」
「第一格納庫!」
「そういう事だ。ミス・メイリン、あなたを危険な目に合わせるかもしれない。しかしこの状況では仕方のない事なのです、申し訳ありません。ダイゴと俺はこの換気通路から…。」
「ちょっと待て、FN‐01に乗るのは俺だろ?俺に行けってのか!」
突然、ダイゴが叫び声を上げた。
「俺は日本に行かないぞ、あっちには行きたくない。」
「おい、ここまで来て何を言っている?このまま上層部の駒になりたいか、何も知らずして終わりたいか?俺は嫌だね。」
レオンが襟を掴んだ。その顔には怒りが浮かんでいた。
「いつまで過去に囚われる、いい加減に目を覚ませ。ササキ・タクマはお前の心の中にしかいない幻だ。忘れろ、前を向け。あの晩、俺とお前は前を向いていると教えてくれたのは誰だ!アイナじゃないのか!」
「俺は怖いんだ。拓真が俺を呼んでいる気がして…。」
レオンの拳がダイゴの頬を襲った。倒れ込むダイゴ。仁王立ちするダイゴの言葉に怒りがこもっていた。頬の痛みはレオンの心の痛みなのだと確信するダイゴ。
「お前を呼んでいるのはササキ・タクマの亡霊なのか!違うだろ!お前を呼んでいるのはアイナじゃないのか!」
立てよと胸倉を掴み無理やり持ち上げた。身体に力はあるのだが、心が酷く重い。今にも泣き出しそうな顔にレオンは自分の言葉、心をぶつけた。
「何もかも忘れろとは言わない、だが今は忘れてくれ。その親友の穴を埋めるのは無理かもしれない。ただお前は一人じゃない、俺がいる。」
ダイゴははっとした。レオン・F・ローライト、彼の姿が一瞬だけタクマと入れ替わった気がしたのだ。一緒に生き延びた戦友でも、ライバルでもあるレオン。そうだ、俺にはこいつがいるじゃないか。食いしばった歯から力が漏れる。握りしめた拳から力が湧き出た。
「お前の言うとおりだ。拓真は死んだ、だけど俺の心の中で生き続ける。それで十分だ。いこうレオン、お前とならどこまでも行ける気がする。」