第1章 廃病院
今の時刻は、11時過ぎ・・・
辺りは、漆黒の闇に包まれ、時折聞こえてくるのは虫の鳴き声だけ・・・
『なぁ・・・本当に行くのか?』
『当たり前だろ?」
俺の名前は、藤堂 海。
A高校に通っている、17歳の学生だ。
今、俺は友人である井上の「夏といえば・・・」と言うありきたりな提案で、廃病院に肝試しに来ている。
同じ高校に通っている友達の仁戸田も誘っていたのだが、用事があると言う事で断られていた為、この場には俺と井上の2人だけしかいない。
『それにしても・・・この病院の経営者って、何でこんな所に病院なんて建てたんだ?
ここじゃ、すぐに潰れるだろ』
『確かにな・・・』
今、俺達がいる場所は、山の中・・・
それも、かなり山の奥の方に入っていった所だ。
病院があると言う事で、さすがに道は舗装されていたものの・・・こんな山奥に患者がやってくるとは到底思えない。
俺と井上は、しばらく廃病院を外から眺めていたのだが・・・
辺りは暗く、満月の月明かりだけが頼りだった為、はっきりと病院の外観を見る事は出来なかった・・・
(さすがに、雰囲気あるな・・・)
月明かりしか無い暗闇に写る、廃病院に俺が少し怖気づいていると、ふとある物が目に入って来た。
(あれっ?自転車に・・・バイク?なんで、こんな所に止めてあるんだ?)
俺達が立っている場所から、10メートル程離れた場所に、数台の自転車。バイクが止めてあったのだ。
『・・・って、こんな所で病院眺めてたって面白くないし、さっさと中に入るか』
『えっ?あ、あぁ』
どうやら、井上は外の自転車やバイクに気付いていないらしく、脇目も振らずに廃病院へと歩き始めていた。
俺は、井上に置いていかれないように少し早足になりながら、廃病院の中に入って行った。
しかし、俺は廃病院の中に入ってみた途端、その場の「空気」「雰囲気」に違和感を感じた。
病院内が、あまりにも「綺麗」過ぎたのだ・・・
『・・・なぁ?井上?ここって廃病院なんだよな?』
『あ、あぁ・・・そのはずなんだけど・・・』
整然と並べられている椅子・・・
ゴミどころか、ほこり一つ落ちていない床・・・
受付は今にも、看護師が顔を出してきそうな雰囲気さえある・・・
そう、まるで昨日まで人がいた病院から、急に人がいなくなったかと思わせるような・・・
『確か、ここ随分前に経営不振か何かで、つぶれてるはずなんだけどな』
『本当か?それ?
もし、今でも経営してるんだったら俺達、不法侵入とかになるんじゃないか?』
『いや。大丈夫だろ。多分・・・』
『おいおい・・・』
俺は、井上のあまりにも楽観的な発言に呆れながらも、懐中電灯を片手に廃病院の中を見て回る事にした・・・
まず最初に向かった場所は病室・・・
これは、入り口からの順路の関係上一番早く辿り着く場所だった為、病室に向かっていたのだ。
さすがに、廃病院と言う事で病室のドアの横に掛けられている名札を見る事は無く・・・
この場所が、本当に経営していないと言う事に俺は安心していた。
『それじゃあ、とりあえずこの部屋に入ってみるか』
『おう』
俺達は、数ある病室の中から適当に1つ選びその部屋の中に入ってみる事にしたのだが・・・
やはりこの病室も、廃病院とは思えない程綺麗な物だった。
『う〜ん・・・これじゃあ。なぁ・・・』
俺達は、この部屋を出て他の病室も見てみたのだが。
全て病室は綺麗なままで、恐怖を感じる事は出来なかった。
『次、手術室でも行くか・・・?』
『あぁ・・・ん?あれっ?
なんかあるぞ?』
俺達が最後に入った病室の中に、何かのノートがあった。
俺は、そのノートを手に取るとそのノートには「入院日記」と表に書かれていた。
『なぁ、海?それ、なんだったんだ?』
『ん?何か、この病室に入院してた人の日記みたいだけど・・・』
『へ〜、面白そ〜じゃん♪見てみよ〜ぜ♪』
俺から、奪うようにノートを取り上げた井上は何故か、嬉しそうにノートをめくり出していた。
俺も、その中身が気になっていたので井上を無理やり押しのけて、ノートに目を向けた。