第八話 謎の旅人
(くっそ。どうしたらいい。どうすれば、いい!)
打開策の出せない軍侍を前に、困惑しはじめたアルマリア。それを敏感に感じ取ったゴブリンが、彼女に襲いかかる。アルマリアは、一瞬の困惑で対応しきれない。軍侍は、気づいていない。晴の魔法では、吹き飛ばすゴブリンもろとも彼らを巻き込みかねない。そういう立ち位置なのだ。
「きゃっ」「マリア!」
「なっ」
軍侍が気づいた頃には、もう遅い。体勢を低くし、アルマリアへその棍棒を逆袈裟に構えるゴブリン。誰もが、宙を舞う彼女を想像した。
「いやあああああ!」
ザザザザザっ。
しかし、その予想は、無数の肉を切る音に掻き消された。不意に、体を血だらけにして倒れるゴブリン。その周りには、無数の青い葉が散らばっていた。
「誰だ?」
その問いに、返る言葉はない。その代わりなのか、徐々に彼らを囲み始めたゴブリンたちの頭上から、無数の葉がヒラヒラ舞い落ちる。
「《木の葉崩し》」
葉がゴブリンのすぐ上まで落ちたとき、低く圧し殺した声がそう唱えた。
ズザザザザザザ
「「キェエエエエエ!!」」
舞い落ちた葉に、浅くではあるが体を切り刻まれたゴブリンたち。苦痛の悲鳴と怒りの怒声が混じった声で一斉に叫ぶと、その魔法を使った相手を全員がにらむ。それにつられて三人も視線を向けると、太めの木の幹に片膝をついて座り、焦げ茶の擦りきれたマントのフードと、狐の仮面で身を隠した“誰か”がいた。声からして男だろうと推測される。
「ゴブリン風情が、俺に勝てるかな?」
また、あの低い声。そして、仮面の奥では嘲笑した雰囲気があった。ゴブリンに人の言葉を解す知能はない。しかし、彼の出す雰囲気が自分達を馬鹿にしていることはわかったらしい。誰かが叫んだ。それを合図に、彼らは一塊になってマントの男の下へ走る。
「そう。それでいい。《砲台設置》」
彼がそう言うと、ゴブリンの足元を白い円が囲み、魔方陣を描く。するとゴブリンたちの足が急に地面に沈み、足を取られて動けなくなる。液状化現象と同じ現象だ。
「《打ち上がれ》」
そう唱えると地面が切り取られ、彼らは天高く舞い上がる。しかし、男の攻撃はまだ続く。
「咲き誇れ、《紅蓮大輪》」
その言葉と共に、舞い上がったはずのゴブリンが、まるで花火のように、爆音と色とりどりの炎で爆ぜた。
「すごい……」
晴が、ただただ感動してため息を漏らす。それほどまでに、この魔法は、精度、殺傷性、そして美しさがあった。
「だが、惨いな。何も内側から爆発させんでもいいだろう」
「いや、内側ではない」
今度は男の反対方向から、女性の声がした。振り向けば、男と同じマント、同じ仮面をしていて、唯一の違いは胸の膨らみと体格くらいだ。
「原理的には、まず弱めの魔法で対象の注意を集め、挑発する。そして寄ってきたところで、あらかじめ固めておいた地面の下に空洞を作って水を引き込み、その範囲に対象が入ったところで土の魔法《地揺らし》を使って液状化現象起こす。
まずこれで対象を動けなくしたところで、土の防御魔法《土盾》の応用で地面を切り離し、風の魔法《竜巻》の上位昇華魔法《不可視の竜巻》で巻き上げる。そして、まあここからは、頭の堅い王国のやつらには言っても無駄か」
女はそこで言葉を止め、男の方へ歩み寄る。二人は何事か話しているようだが、声が小さくて聞こえない。そしてその話が終わったのだろう。女の方が頷き、三人を見る。
「ワシ……ごほん、私たちはこの巣窟の後片付けをする。お前たちはもう帰れ」
「なっ! この私に命令をするなど、あなた、何様ですか! そもそもあなたたちは――」
「私はシヴァ。で、こっちがロキだ」
アルマリアの言葉を割って、女が名乗る。しかし軍侍は、その名が偽名であることを目敏く感じとる。
「シヴァ、ロキ……。北欧神話か」
「好きに想像すればいい。とりあえず、無駄に命を落とされても困る。帰ってもらおうか」
「だから、私に――」
「マリア、よせ。九重の探知によれば、この奥には魔王の息のかかった何かがいる、もしくはあるだろう。今の俺たちでは戦力不足だ。退こう」
「しかしグンジ様……」
「くどいぞ」
「……はい」
「すまん、迷惑をかけた。一応名乗っておこうか。俺は――」
「黒瀬軍侍、九重晴、アルマリア・スルト・メリフィア」
それまで沈黙を守っていたロキが、三人の名を言う。そのことに彼らは些か驚く。
「なぜ、俺らの名を?」
「ちょっと調べればわかる話。アルマリア王女は、勇者が現れるより前にそもそも王女。王女は、有名人。九重晴は、表上の勇者。黒瀬軍侍は、実質の勇者」
三人は、今度こそ絶句した。アルマリアが有名なのは、メリフィア王国とその周辺諸国では常識だからいいとする。しかし晴が勇者として民衆の前に姿を表すのは一週間後の予定、そして軍侍に至っては、今のところ名前はおろか顔を出す予定もない。それなのに、彼はその素性を知っているのだから、それは致し方ないことだった。
「身の回りのことは、しっかり把握するべき」
ロキに指摘され、苦虫を噛み潰したように顔をしかめるのは、アルマリアではなく軍侍だった。
「少し前、旅立ったが……俺の友人にも、あんたみたいに耳敏いやつがいたよ。あんたと話してると、あいつを思い出してしまってなんとも言えん」
「そうか」
ふっ、と仮面の奥で笑った気がした。気のせいかもしれないが。
「マリア、九重、行こう。いらん世話をかけたな」
「気にするな」
軍侍とロキが言葉を交わす。そして、軍侍たちは来た道を、ロキたちはゴブリンの巣窟へ、それぞれ歩み出すのだった。
教えて! 春樹センセーイ
どーも、どもども、ちわーす、ちょりーっす。
皆のお兄ちゃん、春樹だよ!
いやね、何でこんなとこにいるかってえと、だ
作:なあ春樹ー。予定より早く例の企画を始動しなきゃなんねんけど
春:知るかよww 大体あの人、まだ正式には登場してないじゃん
作:うん、だからお前がやれ
春:は? やーわ。なんでんなめんどく
作:やれ
春:……ハイ
今に至ります。
キャラって立場弱いよね! 全部作者の意のままだもんね!
ほんとやになっちゃう!
茶番は置いといて。
今回あの謎の旅人、ロキの使った魔法。そのフィニッシュが気になる人って多いんじゃないかな?
あれ、実は闇の魔法、黒魔術なのだ!
まあ黒魔術についての詳しい定義は俺も知らないけど、それで体を分子レベルに分解、同じ元素を寄せ集め、火の魔法で爆発させたってのがその真相なんだZE☆
物質っていうのは、普段俺たちがよく見る赤い炎で燃焼するものだけじゃないっていうのを利用してるみたいだね。
だからこそシヴァって人は説明をしなかったんだろうね。
それはともかくとして。
晴に会いたいよ!
ねえ今からでも戻れないかな!
カッコつけて飛び出したけど戻れないかな!
せめて俺が晴と会うシーン作れないかな!
よし、今度作者に直談判しよ。