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勇者なんてお断りだ!  作者: 優太
第壱章 召喚されまして、勇者断りまして
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第二話 豪腕の黒瀬、柔脚の柊

「うぬら、本当に勇者を断ると言うのか」

「だーかーらー、さっきから言ってんじゃん。勇者なんてもんは俺らには向かねぇし、俺や晴に至ってはそこらの訓練兵より使えないって」

「それなら、鍛えればよい」

「めんどくせぇよ」

「まあそうでなくとも、春樹は魔王なんかと真っ向から殺り合おうって質じゃないだろうな」

「勝てない戦はしない主義、てかぁ、平和主義者なんで」

「どの口が言ってんのよ」

 バカ、と付け足して春樹の腕をペシッと軽く叩く晴。

 ここは、謁見の間。玉座のあるステージには、まず玉座に、中世ヨーロッパの身分の高い貴族の着るような、派手な服装をした王らしき人物。向かって右側に、腰に剣を携えた、甲冑姿の若い男性が立っている。そして広間の側には、左右この広いスペースを埋め尽くさん限りの、人だらけ。貴族がいれば騎士もいる、文人もいて、どうやら魔術師らしき集団も見える。

「まあその話はどうでもいい。が、魔王を倒すには、勇者の肩書きが必要なのか?」

「おい軍侍、お前まさか――」

「春樹、お前は黙ってろ」

「必要、とは言わん。ただ、魔王討伐と勇者の存在は、伝承で語られるほど我が国、否世界中の人間の意識に根強くあるのは確か」

「ほう、ならこうしたらどうだ。異世界から呼んだのは勇者ではなく豪傑たる武将で、そいつが協力してくれる、というものだ。これなら俺らは、勇者ではなくなる」

「軍侍! それじゃあ魔王討伐は受けるってことかよ!」

「いや、お前は好きにしろ。強要もしない」

「……少し、考える」

「そうか。ところで王よ、この提案、呑むか、呑まないか。決めろ」

「勇者ではないにしろ、協力はしてくれるか。それだけでも、十二分に有り難い。のだが……」

「じゃあさ、勇者の影武者作るってのは?」

「「「それいい!」」 」

 あまりに奇妙な、男性のみの三重奏が晴に向けられる。

「それなら俺や軍侍が勇者にならずにすむし、影武者――影勇者も、一瞬とはいえいい気になれる。変な意味で一石二鳥じゃねえか! さっすが我が愛しの晴」

 言って抱き締めようとした春樹を、晴はするりと躱す。その先で彼がいじけたのは、言うまでもない。

「しかし影武者を立てるにしても、誰がするか、ということだが……」

 沈黙が流れる。勇者とは、民の憧れ、国の絶対的戦力、魔王最大のライバルである。そんな役を、例え影武者とはいえ、誰が引き受けるのか。そこに、挙手するものが一人いた。

「偽物なら、やりますよ?」

「晴?」「九重?」

「だって影武者なら、大して重荷じゃないし。それに演じるだけなら、私得意だから」

「や、晴がそんなことする必要ねぇよ。晴がするくらいなら俺が全部背負って――」

「だーめっ。春樹は、黒瀬くんと一緒に行かなきゃ。春樹が喧嘩強いの、私知ってるんだから」

「剛腕の黒瀬、柔脚の柊、か」

 昔の二人の通り名を、軍侍がポツリと呟く。それは、畏怖と尊敬から付けられた通り名。そして、彼らが表舞台に立つことをやめた、通り名。

「だから、私がやるの。嫌何て言わさないから」

「晴……」

「二人は、これで納得か?」

「異論はない」

「……晴がいいって言うなら。」

 とりあえず、(しこ)りは残るもののその場は収まる。すると次は、勇者に授けられる武具の問題――とは言えここは王宮のようだから、心配ないだろう。

 その予測を裏付けるように、三人は数人の騎士によりどこかへ案内された。

(案内件護衛にかまかけた監視か……。気に食わんが、まあ俺でもそうしたか)

 

 そこは、武器庫と言う名目の下にある宝物庫だった。どの武器を見ても細かな金銀細工はもちろん、色とりどり、煌びやかな宝石のようなものが嵌め込まれているのがほとんどだ。

「豪華、否豪奢と言うべきか」

「俺ら三人にはとても合わねぇなあ」

「私もシンプルな方がよかったあ」

「す、すべてこのように飾りすぎているわけではありませんので、お手数ですがお眼鏡に叶うものをお選びください」

 監視について来た騎士の中のリーダーらしき人物が勇者(仮)を前に緊張したのか、おずおずと言った感じに促す。

「まあ、見るだけの価値はあるか」

 軍侍の言葉に二人は頷き、中に入る。軍侍がまず目をつけたのは、異様な扱いを受けた防具だ。ここにある鎧はどれを取っても一式で揃っている。しかしそれは棚の上に、ただ忽然とそれだけで置いてあった。それは言うなれば、ただの籠手。肘まで届く普遍的構造と、手の甲を軽く覆っただけの、どちらかと言えば服の下に隠してつけるようなものだ。王は彼らに「勇者のために設けた武器庫だ」と言うから、重厚なものしかないと思ったが、そうでもないようだ。色も黒く、隠匿性の高さから軍侍の趣向にどストライクだ。彼は迷わず、今着ている黒に少しだけプリントがなされた長袖のシャツの袖をまくり、それを装着する。

「うん、悪くない」

 そう言って、彼は左に目を向ける。それは武器庫の奥。たまたま顔を向けただけだ。しかし彼は、衝撃的なまでに彼を魅了する武器を見つけた。

 日本刀。それがこの系統の武器に与えられる総称だ。軍侍は近づいて手に取り、鞘からその刀を抜き出した。そこに現れたのは、闇を飲み込まんとするほどの輝きを放つ白刃で、直刃。そして、竜が彫り込まれている。一見派手な装飾品に見えなくもないが、その刃の鋭さ、刀の重量は間違いなく実戦用。それに気づき、軍侍は目を見張る。

「名刀とは、外見と性能とが優れているとは聞くが……これは、儀礼用ともとれる美しさの反面、確実に対象を殺す獰猛さがある。むしろ、怖いくらいだな」

 軍侍は言って、鞘に刀を納める。そしてそれを、腰のベルトに刺す。黒いジーンズに日本刀の組み合わせは、一見ミスマッチのようで、以外と合う。あるいは、軍侍の風格があるからこそなせる技か。

「よし、これにしよう」

 

「軍侍、遅かったな」

 彼が武器庫を出た頃には、春樹も晴も武具の選択を終えていた。春樹の外見の目立った特徴は、その腰にレイピアが刺さっていることだ。対する晴は、白いローブを羽織、その手には真っ直ぐな銀の棒が握られている。

「それでは皆様、武器の選定も終わられたようですし、本日はお疲れでしょうからお部屋へ案内させていただきます」

 いつの間に来ていたのだろう。メイドが四人、彼らを出迎えた。それを確認した騎士達は、彼女らが信頼できると思っているのだろう、先のリーダーが、黒い服のメイドの中で唯一淡い紫のメイド服を着た彼女に一礼してその場を去る。どうやら並みの騎士を遥かに凌ぐ権力者か、メイドと言う身分に縛られず尊敬される女性らしい。

 齢30だろうか、軍侍ならともかくとして、春樹はそこを目敏く感じとる。しかし肌の若さは、現役女子高生で、そうでなくとも幼く見える晴と遜色ない。代わりに冷静さを感じさせる鋭い目とスッと通った鼻筋が、彼女を一気に大人の女性に押し上げる。

「メイド長、サラウィス・レイホードです。以後お見知りおきくださいませ」

 言って、優雅に一礼する。彼女が、彼ら三人がこの世界に来て最初に名前を知ったものだ。そして同時に彼らの最大の協力者になることを、彼らはまだ知らない。

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