第十五話 純度100%!?奇跡の感応水晶
「……それにしても、何て言う惨状だい、これは」
目の前に広がる、コルキン村の焼け跡。それを目の前にどこかやるせなさそうに肩を落とす彼女。
「先の男の仕業みたいだな」
「言われずともわかるさ。アタイにゃ魔法なんて使えないけど、一応魔力を感じることくらいならできるからね」
「だから、魔道具か」
「ああ、言ってみれば魔法の代用品。魔力を体外に出すことさえできれば誰でも使えるし、そもそも人は魔力を体内に隔離することはできない。アタイは、誰もが使える魔道具を作りたいのさ」
しかしその大きな夢を語る彼女の顔も、今は陰りがある。なぜなら――
「けど、こんな状態じゃ難しくないですか?」
「まあ、幸いにも魔道二輪の座席の下の格納スペースに、必要な工具は積んでるんだ。あとは今まで採取、精製した感応石を見つけ出さないとね……」
「手伝おう」「手伝いますよ」
軍司、晴が口を揃えて申し出る。
「ああ、助かるよ。なんせうちは石造りだったからね。特に男手があるのは嬉しいさね」
「力仕事なら任せろ」
「こっちだよ、ついてきな」
職人の彼女の先導に従い、二人はコルキン村焼け跡へ足を踏み入れた。
「申し訳ございません」
モザイク声の彼が、暗い空間の中、壇上の女性に片膝をついて深々と頭を下げる。するとそれに、彼女は妖艶な声で応える。
「気に留めなくてもいいのよ。あなたは、それでもいい仕事をしたわ。幸い、あの職人の生き残りは弾き者。私たちについては、なにも知らない。それどころか、あの村がこちら側にいることすら感づいてもいないわ」
「ですが――」
「完璧主義もほどほどに、ね。それで気がおかしくなってしまって、私の可愛い坊やが坊やじゃなくなる方が、私は怖いの」
「勿体なきお言葉です」
「いいえ、本当のことよ。けれど、そうね……。勇者一行もいるんでしょう?」
「はい。一戦交えましたが、その職人の奇襲に気付けず、撤退しました」
「仕方のないことよ。あの傷では、本気も出せないでしょう? 冷静な判断だわ」
「有り難うございます」
「けれど、彼らは力をつける前に、消しておかないと……」
「俺に、どうか俺に、任せてはいただけませんか?」
「……あなたは、私にとって大切なの。だから――」
「彼らを倒せるのは、魔王様か俺だけです」
「……そう、ね。この件は、あなたに一任するわ」
「はっ。この命に代えても、必ずや」
「本当に死んではダメよ? 私の可愛い坊や」
「承知しました」
「ぬうん!」
ドゴン、となにか重たいものが地面に落ちる音。それはあの職人の彼女の家の焼け跡、その崩壊した外壁のブロックをどかした音だ。
「あんた、魔法使えるんだろう? いい加減あの……ハルだっけ? みたいに肉体強化したらどうだい」
「いや、これも修行の一環だ。魔法で肉体を強くしても、器が魔法に負けては意味がない。そのためには――」
いいながら、軍司はまたブロックを持ち上げる。
「日々、是、精進!」
投げる。落ちる。轟音。先程から、これの繰り返しだ。このブロック、見た目は少しだけ大きなブロックという感じだが、重量はかなりある。というより、見た目が詐欺だ。それをここまでできる時点でまあ常人ではないが、彼はさらに人の域を越えたいらしい。黙々と、その作業を繰り返していた。
「まあ、勝手ってやつかね」
少しの尊敬と多分の呆れを混ぜ込んだ呟きと視線を、然り気無く彼に送る。が、気づかない。無理もないが。
「ん? ちょっと待ちな!」
「は?」
軍司は、持ち上げたブロックをそのまま抱えた状態で止まる。
「感応石だ。けど、こんな純度の高いのは見たことがない」
それは、彼が持っているブロックの側面に、嵌め込まれたようにしてあった。ちょうどビー玉くらいの大きさの、虹色に光る、丸い石。いや、石というより――
「なんか、水晶みたい……」
いつの間に来たのか、晴が呟く。しかしその通りで、それはあえて言うなら感応石ではなく、感応水晶だ。
「そう、感応石ってのは、純度が高まるにつれて大気中のわずかな魔力を吸って、輝くのさ。それは周りの魔力の属性で輝きが変わるんだけど、これは多分、光の魔力だね」
「光? 九重、そうなのか?」
「……うん、光の波動が見える。でも、周りに光なんてないし。むしろ闇ばっかり?」
「思念付随型魔力の大量吸収……?」
「思念付随……なんだって?」
「《思念付随型魔力》。魔法ってのは基本思いなんて乗らないんだけど、たまに例外として、誰かを助けたいとか、思い出とか、そういうのが乗るんさ。そこに感応石があると、思念付随した魔力だけを一気に吸い取る。それが《思念付随型魔力の大量吸収》。とは言え人の生成した感応石にそれを受け止めきる器はないから、普通は壊れるんだけど……。もしかしたら、それによって周りの感応石が融合のしたのかも――」
「思考に更けるのはいいが、降ろしていいか……?」
見れば、軍司の額にはうっすら汗が滲み、腕やら足やら小刻みに震えている。
「ぬわっつ! すまんすまん。できれば石を上にして置いてくれ」
「ああ」
言って、少しゆっくり目にブロックを下ろす軍司。置いたと同時に、深く息を吐いた。
「いやぁ、死ぬかと思った」
「それにしてもこれは珍しいな。こんなに純度が高いのは……」
「駄目だ、聞いちゃいねえ」
「ドンマイ」
子供のように目を輝かせる彼女と、悪態をスルーされてぐれる軍司、そしてなぜか楽しそうな晴が、絵になる様でそこにいた。
※休載のお知らせ※
樹海にはいきません爆
この頃シリアスの書きすぎ+リアルもゴタゴタしてなかなか執筆ができなくなってきました。
少し落ち着いたら別の作品で調整していこうと思うので、またよろしくお願いします。