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勇者なんてお断りだ!  作者: 優太
第弐章 職人の生き残り、その魂の燃ゆる限り
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第十四話 鼻つまみもの

 ザン、という肉を切る音。

「ぬ……うっ」

 しかし、目をぎゅっと瞑っていた晴に届いたのは、自分を拘束するモザイク声の男の声だった。続いて緩まる腕を縛る力に、おっかなびっくりになりながらも晴はスルリと抜けて目を開けた。目前には、まだ首に刀を宛がう軍司。

「黒瀬くん!」

 必死に駆け出し、軍司に近づく晴。名を呼ばれ目を閉じていた軍司も目を開き、状況の変化に鳩豆な表情をしている。しかし、それも一瞬。すぐに刀を右手に持ち、左手で晴の手を引いて自分の背中に回すと、庇うようにその左手を晴の前に出す。

「いったい何が」

「わからない。けど、あの人は確かに何らかのダメージを受けてたよ」

 見ると、片膝をついて左肩を抑える男の姿がある。

「誰だ!?」

 答えは、ない。しかし返答の代わりか、虚空(・・)から唐突に、無数の光る矢が現れ、彼めがけて一直線に飛ぶ。

「魔方陣のない魔法だと……?」

 これに驚いたのは、軍司だ。普通、というより絶対に、魔法発動には魔方陣が現れる。特に、虚空からなにかを生み出す場合、魔方陣が現れてから事象に変化を及ぼす。これは言ってみれば、世界に対して「これから自然の摂理を崩しますよ」というサインであり、許可書の申請でもある。それが、魔方陣。だからこそ彼は驚いたのだ。

「それに、魔法発動の名残が感じられない」

 今度は晴。魔方陣を仮に隠せたとしても、魔法を使ったことまでは隠せない。それが、自然の摂理をねじ曲げた爪痕としてくっきりと残るため、魔力に非常に敏感か、先の晴の魔法のような精霊同調系を使うと魔法を使ったことはすぐわかる。特に晴は魔力に敏感でもあるため、そんな彼女が気づけない名残は、ない。

 結局その無数の矢は男の魔風に弾き飛ばされたが(強い魔力の塊は魔法を弾く力がある)、少なくとも二人にとって、そこが問題ではなかった。

「これは、新手の魔法か……?」

「いんや、新手の魔道具さ」

 その質問に、背後から返答が来る。

「お前、誰」

 男が、聞く。

「コルキン村の鼻つまみもの、そして生き残り。魔道具専門鍛冶師とは、このアタイのことだよ!」

 バン、と背後にデカデカと書かれそうな雰囲気で自己紹介をするのは、烈火の如く赤いショートヘアをツンツンに立て、目は普段なら爛々と好奇心に満ちているのだろうが、今はその赤い目が怒りを映し出すよう。胸は晒しを巻き付け、ジーンズ生地のバギーパンツ、頑丈そうなブーツに革手袋、首にはゴーグルを下げた女性だ。

「一言で言えば、姐さんか」

「おっと、あんたにゃそう見えるかい? アタイはいつでも邪険にされたから、少し嬉しいね」

「それはどうでもいい。生き残り、出してない」

 男が、きっと困惑しているのだろう、肩を抑えたまま動けず、辛うじてその問いを口から紡ぎ出す。 

「ああ、ちょうど最近開発したこの《低燃費魔力原動機付二輪車》略して魔動二輪の試運転がてら遠くまで行ってたからね。気づかなくて当然さ」

「これは……バイクか」

 もはや毒気を抜かれたのだろう、軍司が彼女の近くに停められた、その《低燃費魔力原動機付二輪車》略して魔動二輪に興味を示し、観察している。

「ばい……なんだそれは? まあとりあえず、それは大体ファイア一発分ほどの少ない魔力で、五十キロを時速百キロで進めるっていう、アタイの最新作にして自信作さ。スピード、燃費、両方を欲張りたい人向けさね」

「なるほど、それでこのフォルムか。ちょうどレーシング用のに似ている。しかも使われている素材も、中々に頑丈だ。これは、すごいっ」

「おお! このすごさがわかるか! お前は天才だ、私の第一の弟子にしてやろう!」

「是非、お願いします!」

「あのー、仮にもここは戦場ですけど?」

「いや、あいつはもはや戦う気などない! 何せ肩をぶち抜かれてる。あの位置なら、痛みも相当だろう」

「……お見通し。ここは、退く。次、ない」

 言って、男は虚空に手を突っ込む(・・・・)。するとその手を軸に人一人分がやっとほどの闇の穴が現れる。

「これは、ゴブリンの巣にあったのと……!」

「魔王様の力。……最後、選択肢やる。魔王様につくか、死ぬか」

「どういう、意味……?」

「魔王様、お前、お気に召されたよう。つけば、魔王様創られる、新世界の神の子になれる。……ついて、こい」

「残念だけど断るわ。私には魔王を倒すって目的がある以前に、約束がある。その約束の中に、魔王討伐があるだけ。だから、ついていけない」

「……残念。次会う時、また聞く」

 その言葉と、苦い顔の晴を残し、彼は闇に吸い込まれた。そして閉ざされる、空間の裂け目。

「結局、何がどうなったの?」

 恐らく十人が十人思うだろう疑問を口にしながら、軍司に同意を求めようと振り向く、と。

「なるほど、回すことでその感応石の触れる面積が――」

「そして調節しつつだな、これをこうしてかくかくしかじか――」

 十中八九、かもしれないと気付きため息を漏らす晴だった。

~世界魔法大全~


よう、マリスじゃ。

今回は《低燃費魔力原動機付二輪車》に搭載された感応石についてじゃ。

これはコルキン村の隠された特産品で、ほんの一部の国のみが買い取っているのじゃ。

魔力を他のエネルギーに変換するという特殊な性質を持っている、というのを利用したのがあの魔動二輪じゃ。

ちなみにこの感応石はもちろん純度があるのじゃが、人の手では理論上純度百パーセントの感応石の精製は不可能とされておる。人の手が入るとどうしても不純物が入ってしまうんじゃな。

それとこれはどうでもいい話じゃが、わしもコレクションでこの感応石を仕組んだ作り物を持っとるんじゃ。形は竜で、魔力を流すと一定時間飛ぶものなんじゃがな。

春樹に貸してやったら――

春:やべぇ!竜とんだ!竜とんだ!

――と手に負えんほどにはしゃいどったのう。

男というのは、そこまで竜に憧れてなにがしたいのやら……。

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