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勇者なんてお断りだ!  作者: 優太
第弐章 職人の生き残り、その魂の燃ゆる限り
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目指す魔王城、途中の村

 黒いドレスシャツとパンツ、グレーのベストを着た軍司、白いローブの隙間から見える、赤いミニスカートに黒のアンダーシャツ、軽量の胸当てをした晴は馬に跨がり、見送る国民に手を振っていた。

「なんだかんだで、もう一ヶ月か」

「地味に二人とも、魔王討伐の任を受けたってのは満更じゃないんじゃない?」

「まあ、頼られては無下に断れないのは、俺も春樹も同じだ」

「確かにね」

「まず最終目的は魔王の討伐、目標は魔王の息のかかっているエリア等の、可能な限りの浄化か」

「てことだけど、まずはこの国を抜けた平原の先にあるコルキン村かな」

「特産品は、隣接する鉱山からとれる稀少金属(レアメタル)、そしてそれを加工した武具か」

「ただ山の中腹にある村だから、それ以外の発展は遅れてるみたいね」

 二人は、これから通ると推測される村や町、国の特徴をメモした冊子の内容を思い出しながら語る。そうこうしている内に、国の主要出入り口の一つの北門に到着した。

 メリフィア城塞王国、それは名ばかりではなく、この国を囲む、十メートルにもなる壁からもわかる通り国自体が要塞になるのだ。

「この国、規模は小さいが金はあるんだろうな」

「量より質を重視する国なんだ」

「まあ、ここのことはもう考える必要もないだろう。それより、コルキン村だな」

 言うと晴は頷き、地図を懐から取り出す。

「魔王城に向けて北上、ってのはまだいいんだけど」

「まさか、こんなにも離れているとはな」

 地図を覗くと、この国と魔王城を結ぶ直線距離だけで軽く四千キロはある、というのが二人の見解だ。それを聞いただけで途方もなく感じるが、加えて山有り谷あり川あり村あり。訪れる先々でのアクシデントも踏まえると相当な時間がかかりそうだ。

「まあ急ぐ旅でもないし、急がば回れと言う。先人の知恵には驚かされるな」

「善は急げ、っていっても今すぐ行くのは得策じゃないしね」

「そういうこった。まあ、ラフにいこう」

「私は春樹に会えればいいかな」

「……そうか」

 なにやら目眩を覚えそうになった軍司は、気のせいだと思考を投げ捨てた。

 

 一方、春樹はといえば。

「お主、本当にそんな身なりでよいのか?」

 マリスに心配されるほどに、彼は軽装だった。

「まあ、“現地調達”って感じで。なんとかなりますよ」

「……変なことにだけは、首を突っ込むでないぞ」

「“わかって”ますよ」

 春樹の含みのある言い方に悪寒を感じマリスが忠告するも、彼はするりとかわすようにヘラヘラとした笑みを浮かべる。

「ま、大丈夫っすよ。いざとなれば飛んで逃げますから」

「あれは魔力の消費が激しいことを、理解して使うんじゃぞ」

「んなーもう、その辺はきちんと理解できてるし、納得もしてますって。じゃ、行ってきます!」

「気を付けての!」

 と叫んだその声は、暴風と共に飛び立った春樹には届いたのか……。それは、彼にしかわからないことだった。

 

「やたらと、カラスが北に飛ぶな」

「しかもコルキン村の方角だし。やな予感する……」

 馬上の軍司と晴は、空を見上げて呟いた。

「てか、カラスっていたんだな」

「だねー」

 なんとなく嫌な予感はするが、

「あとどれくらいかかるんだろうな」

 それは気にしたくなくて、

「夜にはつくと思うよ?」

 それより沈黙が嫌で、

「そういやカラスって、本来は悪いやつじゃないらしい」

 ただただ彼は、

「そうなんだー。でもやっぱ、かわいいよね」

 普段はしない“他愛もないおしゃべり”に身を投じていた。

 

 豪、と炎がうねりをあげる。焼き尽くされる無数の木造家屋とその熱気、人の焼ける悪臭、呻き声がそこら一体に広がっていた。

 そんな中、一人だけポツリと立つ男。興味なさげにたたずむ姿は一見、被害による心的ショックで感情が欠落しているようにも見えた。しかし、違う。彼が立ち去ろうと踏み出した足の軸足を、焼けて倒れた家の壁の下から伸びた手が掴んだ。

「か……えせ……。村、を……返してくれ……」

 そう、彼は加害者。魔法でこの村――コルキン村を焼き払い、逃げるものを切り捨てた、極悪非道の犯罪者。

「知ってはいけないこと、知った。大人しく魔王様に従えばよかった。お前ら、馬鹿」

 モザイクでもかけたような機械的な声が、下敷きになった彼に告げる。そして足を掴む手を振りほどき、なにもなかったかのように歩み、霞むほどに高速で飛び去って姿を消した。

 

「なにが……」

「ひどいっ」

 軍司と晴は、元コルキン村についていた。しかし今やそこは、焼け野原。人肉の焼けた臭い、微かな煙たさ、そして、なにか黒くて暗い魔法による、事象改編の爪痕のみが残されていた。

「《探索(サーチ)》」

 晴は、唱えるとその場にいるすべての精霊と感覚を同調させる。この世界には、まれにどの属性にも分類できない魔法があり、それを無属性(ホール)魔法と呼ぶ。この探索もその一種で、無属性と言うよりは全属性という感じだ。

「これは……黒魔術の名残だ」

「黒魔術……。闇属性の魔法で、炎は使えるのか?」

「ううん、そうじゃない。火の魔法を、闇魔法の負の力を増幅させる魔法で強化したみたい」

「よほど、恨みだとか悲しみだとかが強いやつなんだろうな」

「……誰かわからないけど、同情しちゃいそう」

「こんな極悪非道なやつに情けをかけるな。死ぬぞ」

「……うん、そうだよね」

 言って、晴は精霊と繋いだ感覚を閉じた。

「それで、犯人はわかったか?」

「わからなかった。なんだか、それこそ闇の力で姿を靄に包んだみたいに、パッとしなかった」

「なるほどな。俺らが来ることを知ってか、知らずか。できれば、今はまだ会いたくないな」

 軍司が、どこかやりきれなさそうに言う。隣で晴は、どうやら場の空気と言うか、臭いと言うか、その辺に当てられて口元をローブで覆っている。

「残念、もう会った」

 気の抜けた二人に、フードを深々とかぶり、口はマスクで隠し、だぼっとした服とブーツで身を固めた、おかしな声の彼が、突如目の前に現れた。

~世界魔法大全~

よう、元気にしとるか?マリスじゃ

さて今回は、闇魔法について説明しようかのう。

闇魔法とは、古来殺傷のみを視野に入れた魔法など、およそ応用の効かせづらい高ランク魔法につけられた名じゃ。

もちろんその用途から忌み嫌われやすいが、使い方を工夫すればなかなか悪くはないぞ。ロキの紅蓮大輪など、いい例じゃな。

そして闇魔法のうちに、負の感情をエネルギーに変換するものがある。これは当然エネルギー保存の法則で、負のエネルギーはその他のエネルギーになることで軽減されるから、ある種のストレス発散じゃな。

そして、このエネルギー変換は、魔力に変換するのが一番無駄がない。そして変換された魔力を他の魔法に付随することで、まあちと禍々しくはなるが、強力な魔法を扱えるわけじゃ。

しっかしまあ、なかなかド派手な焼け方じゃったのう。どれ程負の念があるのか……。


ちなみにこの魔法、使うとちとハイになってしまう代物でな。この前ハルキに教えてやったら――

「ひひょー、なんらか、すんごくきもちがいいれすよ~」

――と骨抜きになっておって――

春:し、師匠! それ以上はオフレコで!

おお、すまんすまん

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