第十一話 旅立ち
「「さて、反撃開始と行こうか」」
背中合わせの嗤う二人。駆け出すのは、同時だ。ロキが右足を蹴り上げて黒づくめの胸を切り裂き、返しの手(この場合脚とも言える)で隣にいた黒づくめも倒す。
(要領わかりゃ、こっちのもんだぜ!)
ロキの素のしゃべり方を、声に出さず心中で呟く。
一方軍司は、横一閃に薙いで一気に二人の黒づくめを倒し、そこから返して袈裟斬りで一人、さらに踏み込んで逆袈裟で一人を倒す。 そこで背後に気配を感じ、無詠唱で左手から誘導系の火炎球を飛ばす。その黒づくめが倒れると、奥からロキがミドルキックを振りきった姿勢でが現れる。
「流石」
「そっちこそ」
軍司、ロキの順に、軽い称賛をしあう。二人に余裕があると言う合図であり、軍事にとっては懐かしくすら感じる。
「行方不明の親友がいてな」
再び背中合わせになったところで、軍司がポツリと呟く。
「柊春樹、勇者として誤転送されたか、それが勇者かはいまだ不明だが、召喚された三人のうちの一人」
「ああ。そいつに似てんだよ」
「そりゃどうも」
「こうやって会話できる辺りが、な」
突きで迫る黒づくめの急所を的確に砕きながら言い切る軍司。
「気のせい、だろ」
ハイキックで黒づくめを倒し、戻した足をそのまま軸にして回転蹴り。一気に二体を沈めたロキの横合いから、下段に構えた軍司が飛び出し、逆袈裟、袈裟で残りの二体を倒し、黒づくめ軍団は完全に撃沈した。
「ロキと名乗る青年は不在、か」
ここはシュバール王の執務室。そして彼は、執務用の黒革の質素な椅子に深く凭れて漏らす。
「はい。あのあとマリスさんが来て、足早に帰っていきました」
「旅立った、が正確じゃない?」
軍司の言を、左にいる晴が補足する。確かにこれまでの話からすると、彼らは流浪の民、根無し草というやつだろう。
「ふむ。やつらを退ける実力者と、マリスがおれば、魔王討伐も楽になったのだが、な」
「過ぎたことは仕方ありません。それに、彼らも魔王討伐ではないにしろ、魔王に関係のあることや人々の驚異になるものを倒すために動いているようです。目的が類似しているなら、またどっかで会うでしょう」
「その時はロキの仮面も剥いでやろっと」
軍事の言葉を言外に肯定し、ゲンリュウの言葉を気にしているのだろう、晴がロキの正体を突き止めることを暗示した。
「まあ、その話は置いておきましょう。それよりシュバール王、そろそろ俺たちも外の世界に出るには十分な実力をつけました。王はどう思われますか?」
暗に「いい加減魔王倒させろゴルァ」と訴える軍事に、ふぅんと息を吐くシュバール王。信頼できるが心配、といった複雑な表情をしている。
「可愛い子には旅をさせよ、か」
「ちょっと違うと思いますけど」
「マジか」
「意外と若い!?」
晴、軍事の順に突っ込まれ、ハッハと一人笑うシュバール王。
「ふむ、そろそろ出陣の時、か。よし、明日には出てもらおう、ぞ。今日は存分に体を休めるといい」
「有り難うございます。では、失礼します」
軍事が言って二人は一礼し、部屋を後にする。パタン、と響いた音と、彼らが部屋から離れる足音を十分に堪能してから、彼は閉ざした口を開けた。
「というわけだ、マリス」
スタ、と軽い音が着地する。彼の後ろにはマリスがいた。
「ちょうど出そうと思っていたところじゃ。ハルキのやつ、風と闇以外は本当に、下級しか使えんからのう。まったく、困った弟子じゃて」
「対策はあるのだろう?」
「ご丁寧にピアスホールを三つ空けておったからの。火と水と光の召喚獣を持たせておいたわ」
「下手に呪文の要る魔法石ではなく、魔力を流すだけで扱える召喚石、か。確かにあの魔力保有量なら、召喚獣を十体同時に三日間連続使役しても切れることはなかろう、ぞ」
「まったく、最初は期待したがまさか風に特化したバカ力だったとはのう」
「……二人を、頼んだ」
「それはやつに言っておけ」
「伝言だ」
「覚えていたらの」
そう言い捨て、マリスは霧散した。感覚同調系幻覚魔法、《影分身》だ。
「あの三人は、全員で勇者、か。昔話に聞く勇者は、一体どれ程の化け物だったの、か」
ふう、とため息をこぼして、シュバール王は執務に戻った。