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その男、一隻眼につき。8


「あっ!見て見て!あっち行くと出雲大社らしいよ!」

「残念ながらそっちには全く用が無い」

「そんな!!」

 車内から見えるそれらしい看板を眺めながら、深岐は至極残念そうな顔をする。灰は「死ななかったら今度連れて行ってやる」と彼女の頭をガシガシと撫でた。深岐はされるがままに頭を揺らしている。

 もう少しで目的地につく。目指す山林に遠く意識を飛ばしながら、灰は深夜の国道を走らせた。この時間帯、すれ違う車の数も数えるほどで、人気は殆どない。流れる景色に意識をずらし、(まだまだ遠いな…)と灰がため息をついたその時だった。

「灰ちゃん降りてっ!!!!!!」

 深岐が吼えると同時にドスンッ!と鈍く重い衝撃が車を襲った。灰と深岐は間一髪、車から反対方向に飛び降りる。40キロで走っていた車からゴロゴロと身を投げ出した灰は、反対車線の縁石に背中を強打し、やっと止まった。

「っ…」

 鈍い痛みを堪えるように身体を丸める。ワイシャツにスラックスという簡単な格好だったせいで体は擦り傷だらけだったが、それよりも打ち付けた背中の方が痛い。しかし、法律を無視してシートベルトをつけていなかったおかげでこの程度の痛みで済んだ。と、そこまで考えて、灰は思い出したようにバッと車を見やった。衝撃を受けた当の車は、真ん中が何かに突き刺されたかのようにベシャリと貫かれていた。灰は「くそっ!」と吐き捨てる。

「家の次は車か!!何て言って修理に出すんだこの有様!!!エイリアンに襲われたとでも言えと!?緑のスライムエイリアンか!?それともタコ型か!?」

 軋む身体をなんとか起こし、灰は嘆いた。見るからに修理なんて無理なのは分かっている。エイリアンに襲われましたなどという冗談、深岐でもあるまいし言える訳がない。これはもう廃車だ。また新しいのを買わなくてはいけないのか。

「つぅっ…頭のネジ飛ばしてる場合と違うよ灰ちゃんっ!!!」

 憤る灰に突っ込む深岐は、助手席から反対の歩道に投げ出されていた。腰をついて大丈夫そうに座っているが、額から血が流れている。

「っわかってる…!少しボケずにいれれなかっただけだ!!」

 本当にわかっているのだろうか、灰は未だ悔しそうに車を見つめながら、ゆっくり立ち上がった。すると潰れた車の向こう、車道上に広がる闇の中から「クスクス」と笑い声が漏れた。灰は嫌そうに眉をひそめる。

「いつからそんなに冗談がうまくなったんだい灰」

 若々しい青年の声が、冷たい空気を裂いて響く。

「…お前ほどじゃないな。こんな人里で姿を現しやがって。きっちり山の中に居たらどうだ、人間が巻き添え食わないように立ち回るのがどれだけ大変か」

「おや、しっかり対策はしているのだろう?」

 嫌味にも負けず、笑い声が段々と近づいてくる。勿論諸処で対策はしていていた。灰達が戦闘態勢に入ったら、周りに人間が安易に近づけないよう、人避けの霞の呪いを用意してあった。この道路を使って家路につく人達には申し訳ないが、暫く辺りをさまよってもらう形になる。

「だからといって車や車道が傷付かないわけではない!どこからその修理費が出ると思ってるだ貴様は!」

「おいおい灰ちゃん…」

 深岐は思わず突っ込んだ。命をかけた決戦だというに、どうしてそこまでボケていられるのか。少し彼を庶民の世界に浸しすぎたのかもしれない、あまりに庶民の味方すぎる。生きて帰れたら本家に縛り付けよう。金銭感覚を少し上げなくてはいけない。

 深岐は1人決心をして、グイッと立ち上がった。その動きを見てか、闇の中から「おや」という声がする。

「あぁ、君はあの時のミズチだね」

「あなたが「彼」だね」

 深岐はスカートについた汚れをパンパンッと払う。闇の中から、黒い片足がスッと浮き出た。

「そう、名前を教えていなかったものね。まぁ今更って感じだけど。僕が君たちの宿敵、ってことでいいでしょ」

 ズズッと音がするかと思うほど重々しく、黒い上半身が闇から抜け出してくる。

「だけど意外にもほどがあるよ」

 疑問の声と共に、整った青年の顔が現れた。その右目は黒く、その左目は闇の中燦然と輝く空色。「彼」はその目でしっかりと深岐を捉え、不適に笑った。その笑みに灰がギクリと身を強張らせる。

「灰の主要な従者が、竜のなりそこない、だなんて」

「深岐っ!!!!!!!」

 灰の咄嗟の叫びも間に合わず、既に妖の形を取り戻した深岐が、「彼」に飛び掛っていた。



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