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その男、一隻眼につき。10

「おぉ、稚拙だったが陽動作戦成功か」

「かなり本気だしてますけど!ちょっとやりすぎ違います!?」

 次々に自分達に降ってくる氷柱から逃げるように、灰と深岐は肩を並べ深夜の車道をひた走っていた。頬に鱗が浮いたかと思ったら、「彼」は何の支えもなしにふわりと中に浮いたのだった。ここまでくると、初めから人間じゃなかったのではと疑いたくなる超常現象ぶりだ。そして空中に氷柱を出現させ彼らを襲う、という今に至る。

「だがおかげで何を取り込んだのか大体見当が付いた」

 斜め上、後方から刺す様に降ってくる巨大な氷柱を感だけで左右に避けながら、灰は真面目に呟く。

「知りたい!知りたいけど今そっちに集中払ったらミズチの串刺しがいっちょ上がっちゃうからまた後で!!!」

 先ほど、「彼」の通称「清浄な気」にあてられた深岐は大分息が切れていた。だが灰はお構いなしに続ける。

「俺を放って置いてまで、大して接触の無かったお前への攻撃、浮かび上がった鱗、絶大なる自信を持てるほどの力。俺が推測できるのは1つだ」

「ミズチか!ミズチですね先生!!!なかまー!!!」

「龍だな」

「ぎゃあっ!」

 予想とは違う答えに一瞬集中を切らした深岐は、顔のすぐ脇を氷柱に射られた。切れた髪の毛がパラパラと空中に散る。それを見た灰は一生懸命走りながらも呆れた顔をして見せた。

「何してる、死ぬぞ」

「だぁっ!本人が1番分かってるわ!てか龍って!?龍って何!!」

「知らないのか?龍とはな、想像上の動物で中国では…っておい、氷を投げるな危ないぞ」

「その位知ってるっての!!そうじゃなくてですよ!龍は妖の中でもすっごーい強くて神聖な妖なんですよ!?そんなの人間がっ…」

 今まで走っていた足をぐっと止め、灰と深岐は同時に後方を振り返った。空中には両手に氷柱を持った「彼」が居り、急に逃げるのをやめた灰達を怪訝そうに睨んでいる。

「龍という強い妖だからこそのミズチへの優越感。人間が取り込めたからこその絶大なる自信」

 灰がぐいっと闇を睨む。本当に龍のような大妖を取り込んだのだとしたら、それなりに説明が付く。やはり大妖だけあって、身の内に治めるのには長い時間を要することだろう。だからこそのブランク期間だった。そして深岐の言うように龍は神聖な妖。清浄な気で深岐という小妖が弾かれたのも肯ける。ダメ押しをするなら水系の攻撃をかけてきた、というところだ。

「そういうわけで、対不可思議人間から、対龍にプランを変更だ」

「その内容とはっ!」

「神に近い妖に小細工は通用しない。直接攻撃あるのみだ」

「無謀っ!」

 一蹴しながら深岐は地面にバッと両手をついた。「やっぱり実力行使なんじゃん!しかも自分より格上って、確実に死亡フラグだよね!」そしてそう愚痴りながらも、人には解せ無い言葉を地面に向けて紡ぎだした。するとコンクリートがぐにゃりと歪み、ぶわっと長い矛が這出た。それを深岐の左に構えていた灰がパシッと右手で掴み取る。それを見た「彼」は、ぴくりと片眉を上げた。

「何それ、そんな人間の武器で、僕に勝とうと?つまらないじゃないか灰ぃ…」

 そして本当につまらなそうに持っていた氷柱をバキッと握りつぶした。灰は「はっ」と鼻で笑う。

「心配するな。対妖用の取って置きだ」

 そういって灰は矛をくるりと回転させ、ダンッ!と柄の底を地に叩き付けた。ぽっかりと開いた眼孔にグッと力をいれ、ワントーン低くなった声で深岐に命令する。

「「あいつ」を引き摺り下ろせ。人間(ひと)様の位置まで」

「あい分かり申した」

 これまた一瞬で、まとう雰囲気と姿を変えた深岐は、「彼」の不意をついて瞬時にぐるりと巻きつき、自らの身体ごと「彼」をコンクリートに叩き落した。

 灰の大事な車が突き刺された時と同じ程大きな音を立て、深岐と「彼」はコンクリートを叩き割った。捨て身の攻撃を予想していなかった「彼」は逃げることも受身を取ることも出来ず、その衝撃をもろに食らった。身体にミズチが巻きついていたとは言え、人間の身体とはよく湾曲するもので、脚部と頭部を殴打した。深岐はしゅるりと「彼」から離れ人型を取り戻し、瞬時に「彼」を挟んで灰の対極へと飛び去る。「彼」は「かはっ…」と乾いた声を漏らし、血を吐いた。そして身を痙攣させながら四つん這いの体勢でゆっくり顔面を起こし、ぎろりと深岐を睨みつけた。

「っ畜牲…不要得意!我得到了龙!!不可能输掉!!!」

 急に「彼」が中国語を叫んだかと思うと、グワッとその身体を起こした。それなりの衝撃を与えたはずなのにもう動ける「彼」に、深岐は一瞬気おされる。

「何度も何度も…!たかがミズチのくせに、龍にたてつくのか!」

 そしてグワッと目を見開いた「彼」は、深岐目掛けて氷柱の雨を見舞った。




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