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その8~家賃攻防戦線~

ついにこの日がやってきた。

自分の生活がこの家で続けられるかの瀬戸際が。


蟹だと思ったら

人だった

その8

家賃攻防戦線


「やばい、金無い」

自分の口座を確認をしに、近くの矢句座銀行に行った。

今日が家賃の支払日。毎月1日に徴収される。口座引き落としでは無く、手渡しで。

結構お金で困っている世の中だ、そんな優しさがあっても良い・・・・・・と思ったら大間違いだ。

実は家賃を大家訪問時までに支払えなければ即時退去という凄まじいルールがあるのだ。

給料日が20日であるにもかかわらず、趣味にお金を全て費やしてしまった。高級オーディオ、ゲーム機、本、その他諸々、クレジットの金利付きの分割払いで積み重ねって行った結果がこれだ。クレジットの引き落とし日が27日だから、家賃を払う金はもう無い。リボ払いにしとけば良かったか?いや、リボ払いは利息で元金返せるレベルで付くとか聞いたことがある。人生はまだ長い。ここで死にたくは無い。

ここは緊急手段だ、消費者金融を頼るべきか?いや、その前に私財を売却して金にするべきじゃ無いのか?

早速自分は家に帰り、良い値が付きそうな物を探すこととした。


・・・・・・無い。何も無い。

今まで二人の穀潰しを養ってきたんだ。ある意味当然である。稲田はようやくアルバイトが決まったばかりだし、真田はろくなことをしないニートだし、今まで良く持った方だ。

稲田の給料日までは相当遠いだろうし、最早居候達に頼ってはダメだ。

やはり『ご利用は計画的に』するしかないのか。

いや、まだ一つ手段がある。『宝くじ』だ!

夢を買って既に久しい魔法の券は換金どころか、番号の確認すらしていない。

戸棚かどこかにまだ大切に保管してあるはずだ。

「おい真田」

リビングで大の字になって寝転んでいる真田の腹に蹴りを入れる。

「ガフッ!!!」

「昼間から寝転びやがって、仕事捕まえてきたのかよ」

「す、すいません」

寝ぼけ眼を擦り、近くのTVのリモコンを探す。辺りを確かめる昆虫の触角の様に手を這わせる。

自分はリモコンを先に奪取し、ズボンのポケットにしまい込む。

「リモコン探してる場合じゃ無いんだよ、ここ追い出されるかもしれん」

「なん・・・・・・だと・・・・・・」

「いつからお前はここにタダで住めると思っていた?」

「来たときからそう思ってました。てへ」

舌をペ○ちゃんのように可愛く出せば許されるとでも思っているのか。それが許されるのは小学生までだ!

「もういいや突っ込まん。真田、どっかで宝くじ見なかった?」

「そういえば、マー君が億万長者になれるかもしれんとか言って嬉しそうに換金しに行ってたよ」

「え?それって、いつの話?」

「ついさっき」

それを聞いて、体から冷や汗が吹き出す。

「どこ行くって言ってた?」

「近くの宝くじ売り場」

ならば、駅前の古いチャンスセンターがここから一番近いはず。

一縷の望みをその足と稲田の悪運に託し、部屋を出た。


部屋から走れば2分で駅前だ。あっという間にチャンスセンターの目の前。

あ、稲田居たっ!

「うわ・・・・・・まじっすか・・・・・・」

稲田が項垂れている。まさか・・・・・・

「300円しか当たってなかった」

その瞬間、足に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちた。

それ連番なら必ず当たる奴だぜ。ハハハ

「ならこの金でスクラッチだ!」

擦って当たるスクラッチ。当たればデカイぜ20万。これで一攫千金を狙うのか?

稲田は200円を差し出し、スクラッチを買う。またしても夢に金を捨てるのか、それとも家賃に消えるのか?

緊張の一瞬。額から静かに汗が伝う。残り1枚の100円玉が火を噴き、銀のシールを容赦なく剥ぐ。それはまるで自らの命を削るかのごとく、生の輝きに満ちていた。

天にも昇る思いを託された硬貨は、稲田の手によって審判を下された。

結果は・・・・・・

「当たった!!!!1等!!!!!!!!!!!」

マジかよ!当たったのかよ!一生分の運使い果たしたな。

自分はすかさず稲田に駆け寄り、家賃の為に譲渡することを半ば強制で働きかける。

「そうか・・・・・・でも俺も借金が」

「借金なんか、これからの金で何とかなる!」

「そうだよな!なら、ちょっくら換金してくる!」

稲田は、矢句座銀行へと駆けだしていった。


数分後。

「いや~返済期限今日までだったんだよ!助かったよカワリン!」

なんとスクラッチの金を稲田自身の借金に充てやがったのである。

「おい!これからの金って、スクラッチのことじゃないぜ。給料のことだぜ」

「いや、そう言われても金もう無いし」

もうダメだ。家追い出される。金借りるしかないな・・・・・・

そんな矢先に、自分の携帯電話が震える。

電話だ。急いで受話ボタンを押す。

『おい、なんか来てるぞ』

真田が電話越しに動揺した声が聞こえてきた。まさか、もう大家が来たのか。

かすかにドアを叩く音も聞こえてくる。

「取りあえず出て見ろ」

ドアの開く音が聞こえる。

『水道管の無料調査を・・・・・・』

「帰れって罵って良いぞ」

『帰れこの○○』

セールスマンは嗚咽を響かせながら、声を遠くにしていった。

『帰ったぞ』

「よし、ご苦労」

自分が電話を切ろうとしたその時。

『おい、家賃払え!』

いつものように泥酔した大家が押しかけてきた。

まずい。このままでは・・・・・・

『分かった。ほい』

布を擦る音がする。何かを体のどこかしらから取り出しているのか?

『おお、ありがてぇ・・・・・・これで新台打てるわぁ』

嬉しそうに意気揚々とパチンコ屋に向かっていく姿が目に浮かぶ。

「あれ、大家に何渡したんだ」

『秘密』

真田の謎の計らいによって、事なきを得た。


後日聞いたところ、真田が大家に渡したのは『十万石まんじゅう』であったのが発覚し、こっぴり絞られた挙句無事に家賃を支払うこととなった。









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