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その7~TVこそ至高~

現代!

それは情報に溢れた『密林』!

そこから出てくるのは、ソースの無いデマカセの嵐!

我々は、かくして情報の海から逃れる為、TVにかじり付くこととなった……


蟹だと思ったら

人だった

その7



『今!巷でミミズゴムが大人気!』

鬼の首でも取ったかのようにはしゃぎまくるキャスター、タレント。

『ミミズリボン!チョーキモカウィイデスヨネー』

女子高生が、実際に髪結いに使っている姿が映る。彼女はポニーテールに緑のミミズゴムを使っている。

本物のミミズよろしく、あの細長いボディをゴムの質感と模様で見事に再現している。昆虫好きにはたまらない。


『皆さんもつけてみて下さい~』

『わ~なにこれ~』

『あ!似合ってますよ~ほらほら~』

タレント達が実際につけてみて、それをスタジオ観覧の客に見せる。

客からの大歓声にタレントは満面の笑み。


「私もこれほしー」

真田が画面に入り込むんじゃないかという勢いで、TVを凝視する。

「おいおい、ミミズの髪ゴムなんかつけても良いことないぞ」

自分がすかさず横槍を入れる。

「いいじゃん、買っちゃえつけちゃえ。どうせ川島が払ってくれるから」

「自分の金で払え!それぐらい」

いまだに生活を自立させようという意思が全くない稲田。早く職に就け。

「やったープレゼントだーありがとう」

全く感情がこもっていない感謝をされても、ちっとも嬉しくない。


それにしても、TVは性懲りにもなく流行アイテムを紹介したがる。

ことあるごとに『最新』『最近話題』『一押しトレンド』『一発屋』など、流行が無限に押し寄せてくる。確かに紹介されるものは、それぞれ魅力的で使い勝手の良いものも多いが、たまに周囲を見渡しても、それ使ってねーよみたいな妙な孤立というか、違和感を感じることがある。

まあ、自分が納得すれば済む話だが。


「早く~買いにいこうよ~」

真田が自分を外出させようと煽る。しかし、当の真田は『DUST&NEET』とでっかく書かれたヨレヨレTシャツとパンツ一丁という素晴らしい恰好をしている。

「なら、早くまともな服に着替えなさい」

「え、これまともじゃん!最新のトレンドだよ」

真田は体を左右にひねって駄々をこねる。

「そんなのが流行ってたら警察何万人いても足りないよ」

自分が、真田のクロゼットへ背中を押して誘導する。

「それにしても、良くこの短期間で増えたな……」

真田が段ボールが入れられて移住してきた日から20日経った。

どこから買ってきたのかよく分からない服が、自分の寝室の窓際左端の角に無造作に置かれている。

「これ、放っておいたらカビ生えるんじゃないか?」

「大丈夫!塩素消毒したから、バッチリ」

全然バッチリではないのだが。

「とりあえず、適当に上下着て、外出るぞ」

「やったー!」

真田は、興奮して辺り構わず服を脱ぎだす。

肉眼で確認できたのは、たわわに実った果実たちだった。

「おい!いきなり脱ぎだすな!露出狂か!」

「良いじゃん川島だし」

「良くな~い!!!!!」

咄嗟に顔を覆った指の隙間から、淡い光が差し込む。

レースのカーテンは閉められ、真田を幻想的に包み込む。

「そうマジマジと見られるのも恥ずかしいんだけど」

しまった!あろうことかこの自分が真田に……あの段ボール女の真田に見惚れてしまうとは……。一生の不覚。

「ご、ごめん。覗き魔変態はクールに去ります」


何分か経ち、真田が部屋から出てきた。

上は白い花柄があしらわれたブラウス、下は鈍色のダメージの入ったデニム。

「良い」

稲田が親指を立て、太鼓判を押す。

「良かったー!」

真田が褒められたことを良いことに、飛び跳ねまわる。

「あんまり騒ぐなよ……下大家だし」

「「すいません」」

なぜか二人に謝られた。


そんなこんなで、自分と真田の実質デートということになった。

近くの雑貨屋『ガフト』におそらくお目当てのミミズゴムがあるだろうと仮説を立て、そこへ向かうこととした。

「うわ~外出たのって、久しぶりかも……」

真田が感慨に耽っている。そこで耽られても困る。

「いや、外出て働けよ素直に」

「ダメだよ、どうせ面接行っても断られるだけだし」

「なんでそう決めつける?」

「だって、『自己紹介の紙が無いと面接できない』って言われて追い返されるんだもん」

おいおいおい。履歴書持ってかないとか……TVでやってるファットマミィじゃあるまいし。

「そりゃそうだろ。それ無いとあんたがどんな人間か、面接する人もわかんないでしょ?」

「私には、この口がある!話一本で勝負できるもん!」

「なら、今までの面接全部受かってるはずだが」

「……」

真田は、『ガフト』に着くまで黙ったままとなった。


『ガフト』到着。

この雑貨屋『ガフト』には、だいたい最近流行と謳われたものならほぼ全て網羅している。

つい最近話題になった『キノコすらいむ』『ゾンビパンダ』『光るハゲのおっさん』などのキャラクターグッズが惜し気も無く店頭の最前列に鎮座している。恐るべきTVの影響力。

そして、お目当ての『ミミズゴム』というと……

「え~!即日完売?!」

やはりTVで紹介されたからか、人気は凄まじく、紹介後すぐ人が怒涛のように押し寄せ、あっという間に陳列棚が砂漠と化したという。

「残念だったな。また買いに来よう」

「やだ!絶対やだ!買う!ミミズゴム……」

真田はその場で座り込んで、必死のアピール。子供かよ!

「ほらほら、大きなお姉さんは家で大人しく求人漁りしましょうね~」

「嫌だ!働きたくない!」

「駄々こねてないで、帰るぞ!」

自分は必死に真田をお姫様抱っこで抱え上げ、家まで持ち帰った。

その日は、意気消沈したのか、黙ってインターネットで職漁りを続けた。


そして、翌日。


『見て下さい!この艶やかさ!』

『うわあ……一流デザイナーが作っただけのことはありますね~』

『今、巷で話題!『しゃべるウナギ』ストラップ!芸能人も激ハマり!』

また性懲りも無く、バラエティ情報番組で、流行グッズを紹介している。

「ん~んん~……」

真田にはアイマスク耳栓猿轡で、情報操作をしばらく続けることとする。







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