その1~いい迷惑(前)~
おはようございます。
今日も素晴らしい一日になりますよう、お祈りします。
あなたの人生に、幸あれ!
蟹だと思ったら
人だった
その1
昨日、ネット通販で「カニ盛り沢山!わくわくセット」というのを注文した。
どうやら何か些細な欠損部分があるとかで、B級扱いになったものを安価で売り捌いてしまおうという通販会社の企画に、自分が乗っかってしまったというわけだ。
通販会社からは、翌日配送という通知が来ている。嘘でなければ今日届けられるハズである。だがしかし、最近の配送業者は発送日を守らない所が有るとかないとか言われている。けれども今までそんな経験は無いので、それは都市伝説の類であると思い込むことにする。
蟹をタラフク食べるために、こっちは昼飯抜きで待機してるんだ。いい加減そろそろ来ないとアンタの会社に苦情入れちまうぞ!
早く来てくれ……
「ピンポーン」
爽やかなドアチャイムの音と共に腹の虫が鳴き始める。唾液が過剰に分泌され、喉に送り込まれる。
猛ダッシュで玄関に向かう。おそらくこれ程の贅沢品はこれから先食べれる機会に恵まれることは少ないだろう。
ドアを勢い良く開ける。すると、宅配業者の人にドアが思いっきり当たってしまい、玄関先でうずくまっていた。
「すいません。大丈夫ですか?」
「……はい、問題ありません」
宅配業者の人はスックと立ち上がり、白いダンボールを自分に手渡した。
だがどう考えても蟹にしては重い。もしかしてサービスでそれだけ内容物が多くしたのかと妄想し勝手に合点した。
受け取りを終えた後、自分にこの用紙にハンコかサインをしろと要求された。生憎玄関にペンしか無かったので、「川島」と走り文字でサインした。
サインを貰った宅配業者の人は、満足気な笑みを浮かべ、深々とお辞儀をし、玄関先から去って行った。
「ついに、この時が来た」
否応が無しに、期待は高まる。なんせ高級蟹が、今目前に有るんだから!
早く食べたいという欲求にかられ、ダンボールのガムテープを手で強引に剥がし、中を覗く。
……
……
あれ?
蟹じゃない。女の等身大の、麻布の服を着た人形が入ってる。しかもご丁寧に猿轡が着けられ、手足には荒縄で縛られている。
意味が分からない。確かに自分は蟹を頼んだハズだ。ちゃんと履歴も残ってる。
とりあえず、返品の手続きをしないと。
「んう」
人形と思わしき物体から何か音が発生した。まさか、「声」?
「んん」
確実に人形、いや人間が喋っている。
急いで猿轡、縄を解き、話しかける。
「アンタ、どこから来た?」
「オホーツク海」
冗談キツイゼ。
「え?まさか、海に放り投げられたのか?」
「私は、あくまでも蟹だっ!!!!」
少女は、ありったけの力を振り絞り、叫んだ。
「いえ、勝手に名乗るのは結構ですが、貴女はどう見ても人間ですが」
まさか、どこかの物語にあるように、魚が人になったとか?んなもん現実に有る訳無い。自分も良識の有る一人前の大人だ。そんなもんすぐに分かる。
「……もういい」
自分の一歩も譲ろうとしない態度に我慢ならなくなったのか、それとも只何か食べたくなっただけなのか分からないが、自分の部屋にある冷蔵庫に接近していった。
冷蔵庫の扉の取っ手をしっかり握り、開けた。中は、消費期限をとっくに過ぎた牛乳、既にカビが生えて緑色に染まっている食パン、などなどゲテモノキワモノ揃い踏みの博物館と化している。恐るべき自分の所有物管理能力。いい加減捨てたほうが、隣近所に迷惑……、むしろ捨てた時にとてつもない悪臭が漂い、鼻を曲げさせてしまうだろう。では、消臭剤を中にぶち込めばなんとかなるのでは?
そう考えていたのも束の間、少女は明らかにチーズ化している牛乳をラッパ飲みし、一気に胃袋に収めてしまった。
「お、おい、それはとっくに腐って捨てそびれた牛乳だ!早く吐き出せ!!!!」
少女はしてやったりのドヤ顔で、自分に報復した積りになっているが、その顔にも陰りが見え始め、結局トイレに逃げ込んでしまった。
この間、今自分ができることを考えてみた。
警察に突き出すか?いや、こいつの事情を自分は知らない。警察に出頭させたら、何かの共犯者とか言われて、刑務所生活……そんなのいやだ!
とりあえず匿うと仮定して、見知らぬ少女がここにいることがバレたらどうする?友人に引かれるだけでなく、結局警察のお世話になっちまう。
こうなったら、山に不法投棄するしかない。早速近くの駐車場から車を取りにいかなくては!
思い立ったら吉日。自分は悪霊に憑りつかれた面持で、家を飛び出した。