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RG50E  作者: HARIMA
9/12

⑨ラベンダーリップ。


時折、初夏の強い風の吹き付ける展望台。


それに構わず、重なり立ち尽くす二人。


烈貴は、莉奈の吐息を首筋に感じていた。


「…………礼美(れみ)先輩が付きっきりだったから、あたしは近づくことも出来なかった」


礼美先輩とは。

以前、烈貴が口にした、中村というトロンボーンのOGのことだ。


「…………けど。

あたしは待ってた…………一年も。

それを、あの子は!」


烈貴と見つめ合うと。

莉奈は唇を重ねて来た…………


烈貴には、初めてのことだった。

混乱していた。

だが………

裏腹の、説明のつかない安心感が唇から生まれ。

烈貴のまぶたを閉じさせる。

身体が、熱くなってくる。


莉奈が美葉に攻撃的だった、本当の理由を知ってしまった。

嫌悪と陶酔の狭間で、烈貴は。

波間に漂う小船のように揺さぶられていた。


息が苦しくなる。

それに合わせて、莉奈は唇を離し。

見つめ合い。

そして………

また重ねる………


放心した烈貴が、口づけの合間に尋ねる。


「………先輩」


「………?」


「………なんで、俺なんかを」


切なそうな笑みを溢しながら、莉奈は見つめる。


「………人を好きになるのに、理由なんて要るの?」


眼の前の、莉奈の整った顔立ちに乱れ髪がかかるのを見た時。

烈貴の中で何かが弾けた。


「………先輩!」


それまで莉奈に預けていた身体に力がみなぎり、烈貴も莉奈の背中と腰に腕を回す。


自分より少しだけ背の高い莉奈の首筋から胸元へ顔を埋めていく。

そのことが、莉奈の赤いジャージのファスナーを少しづつ下げていく。

包帯に隠された、額の傷口が少し疼いた。

莉奈の肌からは、薄いコロンの香りがした。


「嬉しい…………!」


莉奈は烈貴の頭を両手で抱え、瞳を閉じて空を仰ぐ。


「……………俺なんか……情けない奴なのに………」


莉奈の胸へ顔を埋め。

小刻みに左右に振りながら、烈貴は呟く。

莉奈は一旦、息を飲み込み。

声を高くする。


「…………それでいいの!

ありのままの烈貴が好きなの!!」


言ってから、また莉奈は空を仰いだ。



いつも………俺はダメ出しをされ続けて来た。

情けない、しっかりしなさい………と言われ。

軟弱者と言われ………

自分を肯定できずにいた。


いつも………誰かの価値観を押し付けられ。

打ちひしがれていた。


けど………今、自分を抱き締める人は違う。


「………先輩………先輩!!」


求められながら次第に息が乱れ。

時折、子供のむずかるような声を出しながら莉奈は。

烈貴の頭を苦おしく撫で続ける。


「………あたしだって………何のとりえも無い女………サイテーな女………おんなじよ!」


日曜日の午後にも関わらず。

展望台は神々に守られたかのように、二人だけの聖域を作っていた。




「来て…………

あたしを好きに出来るのは。

烈貴だけなの」


夕暮れ、二人は。

丘の道すがらのモーテルに居た。


季節外れのラベンダーが、ベッドサイドに揺れていた。


烈貴は。

喘ぐ莉奈の口から、この花言葉を教わったのだった。



続く


〈ラベンダーリップ・完〉


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