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RG50E  作者: HARIMA
7/10

⑦想い。

日曜日の午前9時。


音楽室では、クラリネットとホルンの女子が一人づつ。

そして部長でチューバの前田という、吹奏楽部員三名だけがジャージ姿で部活に出席し、ロングトーンを始めていた。


ビィーンビン

ビィーーーン

ベンベンベンベンベンベン


前田は。

聞き慣れない排気音が通り過ぎて止まるのに気付いた。

烈貴のバイクの排気音に似てるが、少し違う気もする。


「おはようございま〜す!!」


しかし、張り切った声で音楽室の扉を開けたのは。

包帯を頭に巻いた、やはり烈貴だった。


驚く前田。


「高橋!

もう、大丈夫なのか!?」


土曜は実質、吹奏楽部の部活自体を休みとした為。

前田が烈貴の姿を見たのは、実に3日振りであった。


「ハイ!

明日月曜に、もう一辺、形成外科行って。

大丈夫だったら包帯も取れるって話です!

もう、二日も頭洗って無いんで限界ですよ笑

………アレ?

他の人達は?」


いつもの日曜部活だと、午前9時に全員集合なのだが。

見渡すと三人しか居ない。


顔をしかめながら、前田が呟く。


「ああ。

あれから、みんなモチベ下がったままでな。

ワタナベも一度も顔出さんし………

困ったもんだ。

月曜には来ると言ってたが」


前田は、ポリッシュを付けた布でチューバを磨いている。

せめて楽器だけは労ろうという気持ちは変わらずにいた。

楽器に罪は無いのだ。


「けどな。

こうして高橋が、思ってたより元気な姿を見せてくれただけでも。

今日、出て来て良かったと思う」


前田は烈貴に向き直りながら、少しだけ笑顔を見せた。


烈貴も、そんな前田の言葉を嬉しく感じたのだが………

美葉の姿が無いのが気になっていた。


あの練習熱心な美葉が、理由も無く部活を休むことなど考えられない……………

やはり、ダメージが強いのか?


思えば。

美葉とは吹奏楽部のグループLINEだけで、個人同志で繋がってはいない。

グループLINEから、いきなり個人アカウントのドアを叩くのも烈貴には憚りがあった。

心配だったとしても、確かめようが無かった。


烈貴は黙ってケースからトロンボーンを取り出し、スライド部にグリースを塗り始めた。


自分が救急車で運ばれた後、この部屋では。

部では。

どんなやりとりがあったんだろう?

美葉は、どんな気持ちで過ごしたんだろう?


烈貴は。

あの時、美葉の見せた涙顔を思い出し。

胸の詰まる思いがしていた。



その日の部活は、午前中で終了することになった。

パート練習さえも出来ない自主練のみ、まして日曜日。

烈貴は駐輪場でRG50Eのエンジンに火を点ける。


ベベン!

ベンベンベンベンベンベンベンベン

ベベン!

ベンベンベンベンベンベンベンベン


ノーマルマフラーの奏でる2ストローク・エンジンのアイドリングを聴きつけた、帰り際の前田が声をかける。


「………最初、誰だろう?って思ったけど。

フルでノーマルに戻したんだな」


烈貴の跨るRG50Eを眺めながら、前田は目を細める。


「ハイ!

やっと自分のバイクになった気がしてますよ!!」


ヘルメットの奥から笑顔を見せる烈貴。


「オレ。

正直言って、前の戦闘的なスタイルも音もカッコイイって思ってたんだが………

これも悪くないな。

………じゃ!」


そう言って前田は帰って行った。


「お疲れ様でしたー!!」


前田の背中に挨拶し、烈貴はRG50Eをスタートさせる。





せっかく時間も空いたので、烈貴は少しだけ流して帰ることにした。

学校は郊外の田園の中にあったが、そこから市街地に入り。

商店の並びで一旦降りて"100円オンリー”とデカールの貼ってある自販機で缶コーヒーを買う。

いつも選ぶのは"微糖”のコーヒー専門メーカーの品である。

季節は"アイス”になっていた。


それを無造作にポケットにしまい込み、再びRG50Eに跨ると。

烈貴の目指したのは、街に張り出している丘であった。


その頂上には展望台があり、街全体を見渡せる。

昇る途中ちょっとしたワインディンロードがあり、烈貴はそこをRG50Eでたまに走るのが楽しみでもあった。


ここを教えたのは父・正和であった。

まだ烈貴が小学生の頃、自家用車で家族ドライブに来て正和から


「いつか、バイクで来よう!」


と勝手に約束させられ。

16で烈貴が原付免許を取ったばかりの時に、正和の400ガンマと共に初めて走った"ツーリング”先が、ここだったのだ。


その時、頂上の展望台に着いた途端


「バンクが甘い!

怖がるな!!」


だの


「ニーグリップをちゃんとしろ!」


だの、アドバイスなのか?説教なのか?わからない話を延々とされ辟易とし。

せっかくの景色も目に入らなかったのを思い出す。

烈貴にしてみれば、ただでさえセパハンとバックステップで強い前傾姿勢を強いるバイクにしがみつくだけでもやっとだったのに。

更に、初心者の自分にはキツ過ぎるだろ!?………と、ふてくされていた。


だが。

こうして自分のペース・自分のポジションで自由に走り回れるようになった今。

改めて、そこから眺める街の風景に感慨を込めて烈貴は見入っていた。


………と。


昇り口から排気音がする。

見ると、一台の黄色いスクーターが展望台の駐車スペースヘ入って来た。


「…………あれ?」


スクーターは、RG50Eから少し離れたスペースに停められた。




降りて来たのは、長身で長い黒髪の女性。

上下赤色のジャージに紫色の半キャップのヘルメット。

マスクをしている。

そのヘルメットを脱いだ姿に、烈貴は見覚えがあった。


「………………相川先輩?」


赤いジャージの女性は、傍らにRG50Eの青い車体を見つけると。

次に、烈貴へと視線を向けた。


凍り付く、二人。


「………烈貴!」


紛れもなく、莉奈であった。



続く


〈想い・完〉


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