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RG50E  作者: HARIMA
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㊻燃える夏物語!

本番前のチューニングは、一階のリハーサル室で行なわれた。


地区コンクール時と同じく◯✕高校の出番は午前中であったが、三番目とやや早目となった。

美葉の中学時代の同僚、朋乃の居る私立M高校はトップスタートで演奏中である。


早目で良かった…………

烈貴は少しホッとしていた。

この県コンクール本番中のメンタルを維持しなくてはならない時間は少なければ少ないほどいい、そう思っていた。


チューニングタイムそのものも楽器の音を確認し終えると早々に、烈貴は全身をリラックスさせていた。

もう、泣いても笑っても本番…………

今更ジタバタしても、しょうがない。


ステージ袖へ移動するよう、係員から声がかかり。

一行は立ち上がり、リハーサル室を出る。

フロアの赤いカーペットが。

あたかも見知らぬ未来へと続く道に、皆には見えていた。


指揮者であり顧問の渡辺は、この日は黒のタキシードに着替えていた。

渡辺にとっては、卒業式か入学式くらいにしか着ない服である。


それが部員達にも

「県コンクールは特別」

という意識を強く植え付けていた。


だが。

そうでいながらリハーサルを出る際、当の渡辺が部員達にかけた言葉は


「よし、いつも通りで行こう!」


の、一言だけだった。


それが無駄な緊張を部員達に与えない為なのか………自分自身の緊張で、他に言葉が見つからなかった為なのかは解らない。


ただ………一つだけ言えたこと。


華やかなザンパ序曲を聴衆へ提供するという、エンターテインメント精神を忘れない…………

それだけを地区コンクール時と変わらずに持ったまま演奏する意識こそが、部員達の暗黙の共有となっていた。


結果は、その後に付いてくる…………

そう皆で信じながら、ステージへと上がって行く。


静まり返る巨大な観覧席も、もはや皆の目には入らず。

タキシード姿の渡辺が振り降ろす、一本の白いタクトに導かれ。

県代表校を決める吹奏楽コンクールでの、烈貴達の演奏が始まった…………!!





その頃、烈貴の父・正和は海岸線のシーサイドラインをスズキRG400ガンマで駆け抜けていた。


真夏の陽射しの下では、400cc4気筒2ストローク・エンジンから沸き起こるハイパワーに引っ張られたスピードの風にさらされても。

着古した皮ツナギに皮グローブ・ライディングブーツ・スネル規格クリアの分厚いフルフェイスヘルメットに身を固めた出で立ちに、マシンに装着されたフルカウルのせいで。

正和の身体は常に蒸し風呂状態である。


それでも疾走している彼には、全く気にもならない。


海水浴で賑わう浜を尻目に、シーサイドライン=国道の脇に立つ自販機前へ正和は愛機を停める。


走っている時は気にならないが、停車した途端、まるで夢から醒めて現実へ戻されたかのように。

蒸し暑さがドッと身体全体を襲う。


剥ぎ取るようにヘルメットを脱ぎ、ミラーへ被せ。

慌ただしくグローブを外しタンクバックから財布を取り出すと、自販機にコインを投入するのももどかしく。

正和はコーラのボタンを押す。


真夏の青空と、眼前に広がる砂浜………エメラルドに輝く海原を眺める彼の耳に、ガコン!とコーラの缶が落ちる音だけが響く。


「今頃、吹いてるな」


そう一言呟き、正和は冷え切った缶のフタをプシュッと開け。

喉元までコーラを一気に流し込んだ…………




莉奈のライブ・デビューは、その日の晩に決まっていた。

それは同時に、復活した

HEART MEDICINE………H.M.Sの結成初ライブでもあった。

メンバーは街のあちらこちらへライブを知らせるポスターを貼り、かつて

HEART MEDICINEのインスタグラムやXだったWeb上にも大々的に知らせ。

消息を絶ったままの雄馬の目にも止まるよう願い、手を尽くした。


莉奈は………雄馬と烈貴、二人の男に心で呼びかける。


「………烈貴。

あんた県大会まで行っちまって………マジ夢みたいだね!

あたしも、負けないから!!


………雄馬。

今夜のあたしを、どっかで見てて!

あたし………あんたに言われた通り。

音楽、やめなかったよ!!」



◯✕高校吹奏楽部の県コンクールでの演奏は、午前10時45分を少し過ぎた頃に終了した。



続く


〈燃える夏物語・完〉 

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