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RG50E  作者: HARIMA
11/11

⑪マンイーター。

「ボーン!

元気無いぞ!!」


顧問教師・渡辺の声が響く、放課後の音楽室。


ザンパ序曲。

27小節目出だし。


烈貴と美葉のトロンボーンが、ほとんど切り返しで

バーン!!

とバーストするシーン。

ここの音出しのタイミングを烈貴は苦手としていたのだが。

新入生・美葉の"愛情溢れる指導”により、それに関しては克服しつつあった。

うるさかったRG50Eのスガヤ・チャンバーをノーマルマフラーに戻したことにより、音感も戻って来てるかな?とも思えていた。


が、しかし。

今度はタイミングを重視するあまり、音力そのものを出し切れないでいた。


全体練習の最中、そこを渡辺から指摘される回数が増えている。


「お前たち、タイミングはスゴく良くなって来てるんだから。

もっと自信持て!」


渡辺はキレずに二人を叱咤激励している。


特に、この曲に限っては。

本来ならトロンボーンも、もう少し人数の欲しいところなのだが………

そうも言っていられぬ状況。

たった二人であっても、このバースト部を華やかに奏でなくてはならぬ使命があるのだった。


悔しそうな表情の烈貴と。

上達していく烈貴が微笑えましく、喜び、見守る美葉。


やはり。

どちらが先輩で後輩なのか?分からぬ二人なのであった。


日々の部活の中で、美葉は烈貴を献身的とも言える姿勢で支えている。

先の莉奈がらみの傷害事件にて、本来なら自分が当事者だったところを烈貴に被害が及んでしまい。

それを負い目に感じている故とも思われた。


しかし、烈貴には。

そのことを差し引いても、美葉の好意的な態度が気になっていた。


帰りも、自分が徒歩通であるに関わらず連日、烈貴を駐輪場まで送る。

まるで、一緒に居る時間を少しでも延長したそうなそぶりにも見えた。


また、同じパートだということを差し引いても常に付きっきりな二人の様子に。

部活内でも


「あの二人はデキている」


そういったウワサも囁かれ始めた。

男子部員達には二人は、ただただ仲の良い先輩後輩くらいにしか見えなかったが。

同じ女である女子部員達の目にかかれば、美葉の表情・目線・仕草そのものから烈貴に対する"特別な感情”が滲み出ていることは。

火を見るより明らかなのであった。






週末、RG50Eを駆り。

烈貴は展望台へ向かった。


先の日曜日、ここで莉奈と逢った。

あの時のことが烈貴にとって、ここに新たな"記念”を作ってしまった。


烈貴は、とまどっていた。


莉奈に"男にされた”ことは、生涯消すことの出来ぬ事実だが。

自分の"心”まで、全て明け渡したつもりでは無い。

悪夢とまでは言いたくなかったが、あの時、己の欲望がほとばしってしまったことに烈貴は後悔に似た感情を覚えていた。


そして……そう思いながらも再びここに来てしまっている自分に、とまどっていた烈貴であった。


ブォー

ブン、ブン


聞き覚えのある、ちいさな排気音が上がって来る。


烈貴の予感は当たった。


赤のジャージ………

黄色いスクーター………

莉奈だ。


莉奈は、RG50Eのすぐ隣りに停め。

ヘルメットを脱ぐと、溢れるような笑顔を見せながら烈貴に近付いて来る。


「………おひさ!

やっぱ、来てたのね」


烈貴と向き合うと、莉奈は直ぐに手を握って来る。


「………先輩こそ、お元気そうで」


ぎこちない笑顔で返す烈貴。

それに意も介さず、甘えて見せる莉奈。


「逢えなくて………寂しかった」


握っていた手を烈貴の背中に回し、ハグしながら頬を合わせようとする。

鼻をくすぐるラベンダーの匂いが、またしても烈貴の中に眠る欲望を揺り起こそうとした。

慌てて、莉奈のハグから逃れる。


「………先輩。

俺、悩んでいることがあるんです」


烈貴の顔を、少し残念そうに見つめる莉奈。


「あのさ、先輩って呼ぶの、やめてくれる?

莉奈って言って」


その要望には応えず、烈貴は語り出す。


「…………自由曲。

自分達で選ぶか、ザンパのままで行くか………そのことで今、頭がいっぱいで。

もう退部されてるのは分かってるけど、先輩のアドバイス、もう一度聞きたいんです」


努めて平静を装う烈貴に、怒りにも似た感情が湧いて来る莉奈。


「あんたねぇ!

あたし、もう辞めたんだよ?

今さら、そんな話題なんか関係無いから!!」


険しい顔でまくし立てた後、再び烈貴を抱き締め。

唇を合わせようとする。


「やめてください!」


そむける烈貴の顔を、両手で挟んで無理矢理向き直させ。

思いを遂げてしまう莉奈。


「んぐぐ」


唇を割って、莉奈の舌が入り込み。

狡猾な動きで烈貴の舌に絡んで来る。

翻弄される、烈貴。

鼻腔を満たすラベンダーの匂いが、催眠薬のように意識を朦朧とさせ。

次第に力が抜けて来る。


莉奈は一旦、唇を離した。


「………もう。

あんた無しじゃダメなの、あたし」


濡れた唇と唇が、唾液の架け橋で繋がり。

莉奈が魔女のような笑みをたたえて呟くのを烈貴は、うつろな眼で見ていた。






休日の美葉は、市立図書館へ足を運ぶ。

目的は主に、吹奏楽始め音楽関係の書籍を読んだり、借りたり。

リスニングルームで交響曲やイージーリスニング系のCDを聴くことだ。

しかし、たまに洋楽のポップスも選んで聴くことがある。


その日、手にしてみたのがダリル・ホール&ジョン・オーツというアメリカのアーティストが1980年代に出した曲

「マンイーター」

だった。


美葉は。

このアーティストの

「エヴリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」

という全米ヒットチャートNo.1となった曲を、たまたま動画サイトで知り。

その哀愁帯びたメロディを気に入ったのがきっかけで、他の曲も聴いてみたくなったのであった。


だが。

この「マンイーター」という曲は、美葉にとっては想定外のイメージを持っていた。


曲調も「エヴリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」とは似ても似つかぬ怪しげな雰囲気。

更に美葉へショックを与えたのは、歌詞カードに書かれた訳詞であった。


(ほら アイツがやってくる

気をつけるんだ

アイツはおまえを滅茶苦茶にする

ほら アイツがやってくる

男を喰い物にする魔性の女)


(気をしっかり持つんだ

アイツは見た目は美しいけど

心のなかには野獣がひそんでる)



「…………何、これ?」


ヘッドフォンを付けたまま、驚愕している頃。

丘の道すがらのモーテルのベッドで、烈貴の上に乗りながら莉奈が喘いでいるのを。

美葉は知らなかった。



続く


〈マンイーター・完〉


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