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魔物村実況

「クズナマイ、そのゲーム、どういうゲームか本当にわかっているのか?」

「はい!アクションゲームですよね?」

これは全然分かってなさそうだ。

私は頭を抱える。

絶対止めた方がいいと思うんだが、どうしたもんか。

クズナマイが配信でやりたいと言っているゲーム、「魔物村」

知らぬ人はいないであろう、激ムズアクションゲームだ。

2発当たったら即死、お世辞にもいいとは言えない操作性、いやらしい敵の配置。

そして何より・・・いや、みんなご存知だろうからあえては言わないが、とにかく配信始めたてでやるゲームとしては、かなり賭けだ。

ましてや、「途中でやーめた」などしてしまおうものなら、この御時世どこで燃え上がることやら・・・

「ちなみに、他の人のプレイを見たことは?」

「ないです!こういうのって、初見の感じ?が大事かなと思ってまして!」

なるほど、勉強が利いているらしい。

しかしなぁ、レトロゲーでも、もう少し身の丈に合ったレベルというものが、画面映えを考えたら別に最新ゲームでも、いや、それだとどこを視聴ターゲットに・・・うん?

そこまで考えて、ふと我に返る。




・・・私は、何をこんなに難しく考えているのだろうか。

私はもう無職じゃないか。

昔のように難しく考える必要、ないじゃないか。

クズナマイは自分で考え、やってみたいことを見つけてきた。

それでいいじゃないか。

レトロゲーを楽しむだけ、恐らく誰にも迷惑はかからないだろう。


「・・・じゃあ、やってみようか。」

「はい!頑張ります!」

クズナマイは両手で小さいガッツポーズをする(案の定見えないが)。

ただ、私も無職といえど、責任ある大人の身。

リスクヘッジは必要だ。

「クズナマイ、いくつか約束してほしい。」

「なんでしょう?」

クズナマイはきょとんとする。

「このゲームは君が思う数倍は大変だ。でも、途中で投げ出さないこと。ちゃんとクリアすること。いいね?」

「もちろん、そのつもりです!!」

「私は、恐らく途中で寝る。年齢も年齢なので、許してくれ。それでも、やりきること。」

「ふふ。わかってますよ。」

「そして、ここからが重要だ。」

アタリショックは、演技っぽく人差し指を立てる(クズナマイには見えないだろうが)。

「どうしても、どうしても、どーーーしてもクリア出来なかったら、みんなにちゃんと謝ってから配信を閉じよう。礼を尽くそう。みんな、君がクリアする姿を期待して見るんだ。ましてや、相当長時間になるからね。」

今まで浮わついていたクズナマイは、その言葉に押し黙る。

私の言葉、届いたかな?

「・・・わかりました。」

届いたような返事に、私は安堵した。

「それじゃあ、来週だね。私はコメントはしないが、見てるから。」

「はいっ。それでは、来週に。」

そこまでで、今日のサウンドオンリーとの会議は終了した。




やっぱり不安だ。

気になって他のゲーム実況で魔物村を見てみたが、ひと枠内では一部の例外を除いてほぼ不可能。

3~4回に別れているか、はたまたこのゲームに関しては失踪するかだ。

大手や人気のあるVならば、百歩譲って雑談が聞けるからという理由で見るかもしれないが、クズナマイぐらいの零細ともなると、やはりクリアは必要不可欠だ。

私は妙に体をソワソワさせながら、夜の10時を待った。




『こんばんわー!私はクズナマイ、です!よろしくね!』

夜の10時を過ぎるや否や、すぐに姿を見せた。

画面にはおどろおどろしい「魔物村」の文字と、画面右下でピョコピョコと動くクズナマイ、いつもの光景である。

『さて、今日はですね、この魔物村!アクションゲームだね!これをやっていきたいと思います!』

《がんばれー》《これ、大丈夫?》《クリア出来そ?》《ちょwwwwマジかよwwwwww》

コメントもまだまだ元気だが、はたして。

『それじゃっれでぃーごっ!』

カタカナ英語で走り出す、画面の中の鎧のオッサン。

が、オッサンはすぐに裸になってしまう。

『えぇー!?今何に当たったの!?』

そう驚いた次の瞬間には、オッサンは骸骨になっていた。

《瞬殺やんwww》《あるある》《これ無理じゃね?》

少しだけクズナマイはぼーっとしたようだが、

『いけないいけない!頑張るよ!!』

すぐに我に返り、コンテニューする。 

幸い、遊んでいるのは最新のゲーム機で、ソフトはアーカイブ。

どこでもセーブ出来るし、コンテニューもやり放題。

正直、いつかはクリア出来るだろう。

『えぇー!?今、えぇー!?』

そのいつかがくるのは、そう近くないかもしれないが。




さて、現在視聴数は50人。まだ増えている。

大手のVTuberも配信をしている時間帯で、おそらくは集まっている方だろう。

数は魅力のパラメータだ。あるに越したことはない。

だが、今回のような恐らく長時間生配信は、そこからの魅力が必要になる。

つまり、どれだけ「減らないか」にかかってくる。

普通は、華麗なプレイもしくは楽しいお喋りで視聴者を配信とどまらせるものだが、

『嘘でしょー?何今の赤いの!!どうやって倒すのー!?』

クズナマイには残念ながらどちらも備わっていないようだ。




しかし、様子は開始90分で変わってくる。

『そりゃ、そりゃ、ウララララララ!』

まだ1面にいる。

だが、1面の中盤の、本作きっての強敵である通称赤い悪魔を相手に、とうとう善戦を繰り広げ、

『ウラララララララ!あっ!やった!やったーーー!』

赤い悪魔を撃破する。

《うおおおおおおおおおお!》

《やったーーーーーーーー!》

《8888888》

コメントも湧いている。

それもそのはず、同接数は150になっていた。

まだ1面、序盤も序盤なのだが、クズナマイは少しづつ、ほんの少しづつ進んでいた。

パッと見の者はすぐ居なくなるが、それが分かるものが少しずつ残っていき、今に至るのだ。

そして、ここから快進撃(?)がはじまる。

『ウラララララララ!わっ!やっと1面クリア出来ました!!』

赤い悪魔との戦いでテクニックを磨かされたクズナマイは、そこからすぐ1面をクリアし、2面、3面をクリアしていく。

・・・1面あたり1時間程度かけながら。




クズナマイ、不思議な娘だ。

ゲームの実力は中の下。

華麗なテクニックは期待できないし、かといって信じられないトラブルを起こすわけでもない。

見応えはないはずだ。

しかし、少しずつ人が増えていく。

たくさんのあぁ、惜しい!の中に、突然やってくるやったーーー!の瞬間。

一度体験すると、病み付きになるのかもしれない。

これは、あるかもしれないぞ、クズナマイ。

彼女はもしかしたら。




そうこういう間(時間にして5時間だが)に、

クズナマイは最終ステージまでやってきた。

時間は午前3時半。

さすがに私も限界だ。

クズナマイに告げていたとおり、寝させてもらう。

そして、恐らくはここからが正念場だ。

ここを乗り越えられるかどうか。

単にクリア出来るかどうかの話じゃない。

彼女の配信が問われる場面が、ここから必ずやってくる。

その場面を私は・・・見ないでおきたい。










同接数98

「凄い、凄い!もうラスボスだよ!みんな!」

《いけいけ!》《ごめん、眠いから離脱ー》《ここから・・・だな》

何だかんだ、もうすぐ終わりだね。

私は興奮半分、安堵半分だった。

100人以上の同接、私には上出来過ぎたよ。

その人たちに、必ずエンディングを見せたいもんね。

『ウラララララララ!!ウラララララララ!!!』

でっかいボスに、ひたすら十字架の武器をぶつける!

あと少し、あと少しでエンディング!

あと少しでエンディング!

あと少しで




・・・寝れる!!




ビジュウ!!

と古いゲーム特有の音を立てて、ラスボスは消える。

「やった、やった!やったーーー!!!」

思わずコントローラーを置いて、てを叩いてしまう。

画面の中の私の分身が、笑顔で私の動きに合わせてピョコピョコ揺れる。

画面に英語の文字が流れて、エンディングかぁーと思ったその時







「あれ?」


また、1ステージがはじまった。


「え?あれ?エンディングは?」


やけにコメントが静かだ。

《南無》

《=人=》

《ここからが本当の地獄だ》


え、ちょっと待って

「え、みんな、待って、これ、どういうこと?」


《魔物村は、2周しないとクリア出来ないよ》







えええええええええええええええええええええええええええ


あの、今までのを、もう一回ってこと?


《え、知らなかったの?》《今どき魔物村システム知らない人がおったとは。》


嘘でしょ・・・もう、眠いし、つかれたし、お腹も減ったし、




初見なんて、辞めればよかった。

アタリショックさん、このこと言ってたのか。

だから、このゲーム、止めた方がいいって。

私のために言ってたのか。

だって、みんな、このゲームの話楽しそうにしてたから。

あの人も、この人も、その人も、アーカイブがあったから、




みんな、喜んでくれるかなって思ったから。







・・・笑ってるのは、もう画面の中の私の分身だけだった。












《あーあ、離席かな?》


《おつかれー楽しかったわ》


《気持ち折れちゃったかー》


《魔物村システム知らないとかwwwwウケる》


《さて、寝るか》




同接数

1












・・・気がつくと、床に寝そべってた。

起き上がると、画面の中の私の分身が動いた。

15分くらい経ってたみたい。

あーあ、みんな、せっかく見てくれてたのに。

私が諦めちゃったからだ。

私が途中で投げ出しちゃったから

みんな居なくなって・・・

もう誰も・・・




・・・誰も?











同接数

1




「あなた、ずっと居てくれてたの?見てくれてたの?」




《うん、頑張れ。》







「うん、私、頑張る。」

私は椅子に座り直し、コントローラーを握った。












朝、ベッドから起き上がり、炭酸水を冷蔵庫から取り出す。

時間は午前8時。

パソコンをつけ、日課の動画配信サイトを見る。

朝は雑談配信に限る。

大手や個人のVtuberが出勤前の一時を暖めてくれる、そんな時間だ。

自分の事務所のVtuberのニュース、スパチャ読みなんかもいい。

コメントで名前を読んでもらうのもいいだろう。

さてと、今配信中なのは







『魔物村やります! クズナマイ』

ブゥーッッッ!!!

思わず炭酸水を吹き出す。

えぇー?!まだやってたのかあの娘!!?

おどろおどろしい魔物村のロゴのサムネイルをクリックすると、そこにはグズグズ文句を言いながら、魔物と戦うクズナマイの姿があった。

『ぇへーん、ここも地味に難しいよぉー。』

《頑張れマイちゃん!》

《この子なんでこんな泣きながらやってんのwww》

《おしい》

思えば今日は土曜日だ。午前8時で同接数はなんと324。

クズナマイは確かに、ズビズビの半泣き声で雑談らしい雑談もない。相変わらずキャラクターは笑っているのが何ともアンバランスだ。

だが、少しづつ、少しづつだが同接数も増えている。

彼女の知名度でこれは爆発的だ。

いわゆる、「バズ」と見ていいかもしれない。

『あ!やったよ!4面クリアしたよ!!』

喝采があがるコメント欄。

私もデスクに腰を落ち着け、画面に目をやる。

笑顔のキャラクターが画面右端でピョコピョコ揺れながら、半泣きで敵に文句を言いながら、何度もやられながらも少しづつ進んでいく。

コメントは《頑張れ!》と《なにこれw》が半々くらい。

土曜日の朝とは思えないカオスっぷりだ。

『こんの青デビル!!この!この!!』

『春巻がなんで飛ぶの!この、春巻!』

《あの敵春巻って呼んでるの初めて見た》

そして、極めつけはクズナマイの絶妙な口の悪さ。

見た目と比較するとかなりキツイ悪口だが、ゲームの敵相手に向けられていること、声質とのギャップでなんならかなり面白い状態になっており、奇しくも昨晩より見応えが生まれている。

《春巻きてるぞ!》《春巻撃破!!》《朝なのに春巻食いたくなってきた。》

数はそこそこだが、コメントの悪ノリも利いている。

流れは確実にきている。クリアは時間の問題だ。




そして、その時は訪れる。

午前10時10分

『ウラララララララ!!ウラララララララ!!』

《ウラララララララ!!》《ウラララララララって何よw》

《いけー!マイちゃん!》

『この、この!2回もやらせて!この!絶対ゆるさない!!』

《当時から何人のプレイヤーがこれ思ったか。》

《それはそう》

《ほんとそれ》




そして、最後のボスはクズナマイのウララ連打により、

塵となって消えた。


『あっ』

《キタァァァァァァァァァ!!》

《倒したあぁあぁぁぁぁぁぁ!》

《88888888888》

コメントは大盛り上がり。

スパチャも、少額だがピコピコ飛んでいる。

『私、やった?クリア出来た?』

画面には、オッサンとお姫様がちゅっちゅしている映像が写し出されている。

『やったぁぁぁぁぁぁ!!やりました、みんな、やっだよ、うぅ』

最後の方は泣き出してしまい、嗚咽で何を喋っているかわからない。

とにかく、クズナマイはやりとげたのだ。

《おつかれー頑張った。》

《朝からいいもん見たわwww》

ここで、クズナマイもはっと気付いたように

『皆さん、今日はありがとうございました。皆さんももう、ゆっくり寝て下さい。』

まるで幼子のように、ゆっくりとそういうと、キャラクターが笑顔のままピコピコと揺れる。

『良かったら、高評価、チャンネル登録お願いします。』

同接は最終的に600越えまで膨れ上がった。







「どうでしたか!?わたし、やりました!」

「今回はホントに凄いと思う。」

「ですよねー!?えへへー。」

サウンドオンリーが嬉しそうにお喋りする。

あれから数時間たち、現在午後8時半。

クズナマイもしっかり睡眠をとり、元気そうだ。

さて、今回ばかりは、クズナマイの頑張りを認めざるを得ない。

「よくもまぁ、折れずに出来るもんだ。私は無理だと思ってた。」

「酷いです、全く。・・・でも、あまりチャンネル登録増えませんでした。」

そう、そこは手放しで喜べないところだ。

あの配信、確かに後半のカオスな面白さは本物だったと思う。

しかし、そういう瞬間的な面白さは、なかなか登録者数に響かないものなのだ。

「これからは、クズナマイはいつ見ても面白い、と思わせなきゃいけないね。そのためには、定期的な配信が必要だ。」

「そ、そうですよね!」

「ちなみに、次は何をする予定なの?」

「はい!次は、私の得意なものをやりたいなと思いまして!」

彼女からURLが送られてくる。内容から、大手ゲームメーカーのページのようだ。

「ポップヌミュージック、か。」

昔からアーケードで親しまれた、9つのボタンを駆使するいわゆる典型的な音ゲーだ。

「私、これ大好きで。ちょっと得意なんです!」

あれだけの戦いの後だ。こういう緩い配信もいいかもしれない。

「いいんじゃないか?雑談も交えて、ゆるくやってみるといい。」

「ありがとうございます!では、明日日曜日の同じ時間に!」

そういうと、早々に通話が切れる。

やっぱり、耐久配信で疲れているんだろう。

私も早めに休むことにする。







ガタタタタタタタタタタタタタタタタ

『やりました!フルコンボです!!』

《うそだろまじか》

《うめぇぇぇぇ》

《バケモノだ・・・》

「そんなアホな・・・」

簡単な曲を雑談混じりにゆるーくプレイするのかと思いきや、画面は滝のごとく譜面が落ちてくる、素人目にもわかる鬼畜譜面。

それを難なくこなしていくクズナマイ。

『次は、どうしようかなーヒドゥン+サドゥンでやってみましょうか!』

《俺、マイちゃんがわからないよ》

私もわからなくなったよ。


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