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動いた底辺

あれから、丁度1ヶ月。

クズナマイは動画配信サイトから姿を消した。

やっぱり、現実を知って諦めたか。

少しだけ残念な気持ちに私自身少し驚いてしまうが、それもすぐ収まる。所詮その程度の間柄だもの。


さて、今日もダラダラと配信を見ていこうかな。

そう炭酸水を取りに冷蔵庫へ向かおうとソファを立ち上がったところで、web会議用アプリの通知がシュポッと鳴る。

見ると、彼女だった。

今さら何だと言うのか。

1ヶ月ぶりに、しかも1度しか話したことの無いオッサン(姿は見せていないが)に、改めて話しかけるとは。

私は逸る気持ちを抑え、通知を開く。

そこにあったのは、エクセルシートファイルだった。

幸い、マクロは組み込まれていないらしい。

「クズナさん、これはなんですか?」

私はチャットに打ち込む。

「私、Vtuberが少しだけわかった気がします!」

フフン顔の絵文字にイラとするも、まぁ危ないものではないのだろうと、簡単なウィルスチェックをしてから件のファイルを開く。




そこには、1ヶ月間のありとあらゆる配信の記録と、大手事務所、人気の個人勢など、おびただしい数の名前が軒を連ねていた。

また、その一つ一つにその特徴、長所、配信で面白いと思ったことが書かれていた。

「うっそだろ・・・」

私は口が開いたままそれを見つめていた。

彼女はとっくに動画配信サイトから姿を消したのだと、

クズナマイはとっくに居なくなったものだと思っていたが、

違った。

エクセルのスクロールバーが触れぬほど小さい。

この娘本当に1ヶ月、見て、見て、見まくったのだろう。

でなければ、こんなに書けはしない。

検索で出てこないことまで、書けはしない。

彼女は、知ろうとしたのだ。『何者か』になるために。


クズナマイから再度チャットがくる。 

「今日、これから、20時から雑談配信します。良ければ来てくださいっ!」

今の時刻は・・・19:50

配信まであと10分足らず。

私は急いで冷蔵庫に向かい、炭酸水を取り出す。




『こんばんわ!私はクズナマイって言います!』

同時接続数、50人。

時間も相まって彼女の知名度からすれば上々だろう。

ちらほらとコメントがつく。 

『私、デビューは2ヶ月前なんですけど・・・多分誰も知らないと思うので、今日から改めて出発することにしました!みんな、応援してね!』

ぽつぽつとよろしく、頑張ってねといった好印象なコメントがつきはじめる。

『わぁ!ポタージュさん、よろしくね!はい、パンジーシスターさん、私、頑張るよ!それでね、今日はね?』

驚いた。

辿々しいのは辿々しいのだが・・・なんというか、テンプレートは出来ている。 

コメントを読み、返す。

普通であれば、これくらい出来なければそもそも配信など出来ないだろう。

しかし、あの日を知っている私からすると、凄い進歩だ。


ただ、結局フリートークは散々で、喋りながら、コメントを拾いながらだと話題があっちこっちしてしまい、何を喋っているのかわからない。

1時間程の配信で、最後まで残った同時接続者は5名だった。


次の日も配信はあった。

今回はフリートークでエピソードをひとつづつ、ゴールまで喋れるようになっていたが、コメントが読まれないせいか同時接続者は3人まで落ち込んでいた。


その次の日も配信はあった。

今度は、一切エピソードトークなし。その代わり、コメントへの返しが長くなった。

大手には出来ないこまめなコメント返しが好評だったのか、この日は同時接続者は15名くらい残った。


そんな試行錯誤(私くらいしか気にしてないのだろうが)を繰り返し、一週間。

彼女の配信は少しだが、バランスが取れたものになっていった。

それに、固定で毎回見ているものも見られるようになってきた。

私と、もう2人ほど。

おかしいのは、3人ともコメントをほぼせず、クズナマイの話を黙って聞いている点だ。

私はなんとなく、アドバイスした手前あまり彼女の配信に口を出すのが憚らるという思いからだが、他2人は何を思ってこのお世辞にも上手いとは言えない配信を見ているのだろうか。


「どうでしたか?」

配信終わりの彼女から話しかけてもよいかとメッセージがあった。

通話に出るなりサウンドオンリーがドヤ顔に見えるような声色だったので、褒める気が失せてしまう。

「あんなもので満足なんですか?」

「ぐぅ」

彼女も現実は認識しているようだ。

「正直まだ、スタートラインだと思いますよ。」

「もう少し伸びたいです。」

「もう少しではありません。まだまだ伸びないと、例のお兄ちゃんには届かないと思いますよ?」

「はい、頑張ります・・・」

途端にしょぼくれるサウンドオンリー。

声色とは不思議なものだと改めて思う。

「さて、クズナマイさん、今日は何かお話があったのでは?」

まさか、褒めてもらうためだけに話しかけてきたわけではあるまいて。

「以前、アタリショックさんがVtuberを知ってから話をしよう、と言ってたので・・・」

おずおずと、でもしっかりと声を出している。

自信がつくくらいにはきちんとVtuberというものを見てきたのだろう。

「わかりました、約束しましたもんね。ですが、私からもひとついいですか?」

「なんでしょうか?」

クズナマイが首を傾げる(見えないが)。

「私は、ただの無職の中年です。あなたに与えられるものは何もありませんよ?」

謙遜ではなく、真実を伝える。

あの時はスーパーチャットでテンションが上がってしまったのだろう。

要は気の迷いだ。

彼女にはもっと必要な人材が他に

「私、人を見る目はあるんです。」

何を根拠に、彼女はふんぞり返ってフンスと鼻息を吹き出す(見えないが)。

「ただの配信好きの無職のオッサンですよ?念を押しますが。」

「はい!配信好きの、あなたみたいな人に好かれることが必要なんですよね!」

「うーん」

どうにも買い被られている気がして、居心地がよくない。

「それに・・・」

「それに?」

すると、彼女は悪戯っぽく笑う(見えないが)。

「何でもないです。とにかく、貴方がいいと思うことを、教えてほしいです!」

「そこまで言うなら、そうですね。」

ここまで人に求められるのは久しぶりかもしれない。

ちょっと満更でもない気分になるのは、想像に難くないだろう?

「では、私が思う伸びる方法をお伝えしていきます。それを、定期的にブラッシュアップしていきましょう。もちろん、取り入れるかどうかは、クズナマイさんの自由です。」

「頑張ります!」

彼女は小さくガッツポーズをする(見えないが)。

「あ、あとですね、アタリショックさん。」

「なんでしょう?」

「私のことは、呼び捨てでいいですよ。マイ、でいいです。」

「流石にそれは・・・だって本名でしょう?」

「え!!?どうしてわかったんですか?」

アカウント名がマイだったから、まさかと思ったら本当にそうなのか。

だとしたら、なおのこと心配になる。

今後はネットリテラシーも学んでもらわなければ。

私はうっすらとした頭痛に手を添え、提案する。

「クズナマイ、これで行きます。」

「ため口でいいですよ。」

「じゃあ、クズナマイ、遠慮なく。」

「はいっ」

クズナマイはなんとなく嬉しそうに笑う(見えないが)。


「それで、今後何かしたいことは?」

気を取り直して、会議(?)を再開する。

「あ、そうでした。来週なんですが、ゲーム実況というものをしてみたいと思いまして。」

「ゲーム実況か、いいと思う。」

しかし、ふと不安がよぎる。

「待て、クズナマイ、ゲーム実況ってどうやるのか知っているのか?」

すると、意外な答えが出てくる。

「はい!実は、VTuberさんを勉強させてもらっていたときに、皆さんこぞってゲームされていて、それがとても楽しそうだったので

・・・調べて自分で出来るようになりました!」

「大手の方でもトラブルは付き物だが、大丈夫なのか?」

「はい!それに、弟がパソコンさんに詳しい仕事なので!」

なるほど、身内にそういう人材がいれば安心だな。

「やりたいことがあるのはいいことだ。手探りでも、まずは定期的な配信が出来るように頑張ろう。で、ソフトは決まっているのか?




「はい!魔物村です!」

それを聞いて私は耳を疑った。

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― 新着の感想 ―
魔物村、、、死にゲーの予感、、、!
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