BREAK PARTS
短編を書いてみましたので、ぜひご覧になってみてください。
三十年前。
全国大会の決勝戦、最後の一撃。
会場に満ちるのは、汗と鉄のにおい、観客たちの熱気。
視線は一人の少女が動かすロボットに向けられていた。
黒髪のショートヘア。流れる汗を気にも留めず、ただ前だけを見据えている。
細身のフレームで崩れかけた機体を必死に支えていた。
外れた左腕、脚部も半ば砕け落ちている。
だが、その眼差しに迷いはなかった。
「……まだ、動く。」
小さく吐かれた声とともに、最後の指示が送られる。
金属の右腕がぎりぎりの軌道を描き、相手の胴を貫いた。
ーー勝負あり。
爆発するような歓声に包まれ、彼女は静かにヘッドセットを外す。
その目に涙はなく、ただ淡々と勝利を受け入れる強さだけがあった。
そして伝説は、熱狂とともに幕を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おい、藍丸!おまえ、部活決めたか?」
放課後の下駄箱。
陽気な声が背中から飛んできて、藍丸は反射的に振り返った。
声の主は、同じ中学出身の先輩ーー人懐っこい笑顔を浮かべる二年生だった。
「え、いや……まだ。」
「よし、決まり!ついてこい!」
有無を言わせぬ調子で肩を叩かれる。
ぐいぐいと引っ張られ、2個ある体育館のうちの小さいほうの扉前に立たされる。
ぎぃ、と音を立てて開かれるとーー
中から飛び込んできたのは、野太い掛け声と汗のにおい。
筋骨隆々の先輩たちが、円陣のように取り囲みながら声を張り上げていた。
藍丸は思わず息を吞む。
その人垣の隙間から、ちらりと金属の光がのぞいた。
「……あれは」
マッチョ達の掛け声に合わせ、小さな脚が床を蹴る。
高さ20cmほどの機体が、精巧な動きを見せながら前へ踏み込んだ。
金属がぶつかり合う甲高い音が、体育館に響き渡る。
「こいつ、入部希望です!」
陽気な先輩が誇らしげ言いに放った瞬間、ぞろぞろ押し寄せるマッチョ達。
肩幅が壁みたいに広いマッチョ達が、一斉に藍丸を見下ろす。
「……は?」
藍丸が小さく声を漏らすより早く、陽気な先輩は背中を押して人垣の中へ。
「じゃ、後は頼んだ!」と笑顔を残し、煙のように逃げ去ってしまった。
残された藍丸を、汗と威圧感の塊みたいなマッチョ達がぐるりと囲む。
「おい坊主、名前は?」
「は、はいっ……」
差し出されたクリップボードには、入部届の用紙。
逃げ道はない。藍丸は震える指でペンを握り、しぶしぶ自分の名前を書き込んだ。
「よし!これで今日からお前もフレ部だ!」
分厚い手のひらが背中をどんと叩く。肺の奥の空気が押し出され、返事すらできない。
「明日から練習に来いよ!ここにな!」
そう言われた瞬間、藍丸はようやく解放された。
体育館を出る頃には、足が自分のものじゃないみたいに震えていた。
翌日。藍丸は重い足を引きずるようにして体育館へ向かった。
昨日、あの筋肉の壁に囲まれた恐怖がまだ抜けてない。
ーーなんで俺、入部届けなんか書いちゃったんだ。
ため息をつきながら扉を開けると、すでに数人の同級生が集まっていた。
「お前も新入生か?」
先に声をかけてきたのは、明るい笑顔を浮かべた少年だった。
髪は軽くセットされ、声も態度も堂々としている。
「俺は相良 煉人。よろしくな!」
人懐っこく手を差し出され、藍丸は思わず握り返す。
その隣には、無言で立つ少年がいた。
鋭い目つきと落ち着いた佇まい。
「黒柳 伶。……」
短く名乗ると、それ以上は口を開かない。
さらに少し離れた場所では、一人の女子が機体の説明書を広げていた。
「わ、ほんとにあのモデル使えるんだ……!」
眼鏡越しにきらきらと目を輝かせている。
「升野みどり!アニメとかゲームからずっと憧れてたんだ、フレ部!」
勢いよく自己紹介され、藍丸は圧倒されるばかり。
三人とも目の奥に期待と覚悟を宿していた。
ーーあ、俺だけ場違いだ。
強引に連れてこられた藍丸の心の中には、不安と後悔しかない。
そこへ、昨日のマッチョ先輩が豪快に声を張り上げる。
「おう、新入生!今日から同じ釜の飯を食う仲間だ!気合い入れていけよ!」
背中を叩かれ、藍丸はまた肺の奥の空気を押し出された。
仲間の輪に入りきれないまま、初日の練習が始まった。
その夜。
自宅の夕食の席で、藍丸は少し照れ臭そうに切り出した。
「……フレームバトル部に入ることになった。」
父と姉が「おお!」と声を上げて笑顔で迎えてくれる中、母だけは箸を止めることもなく「そう」と短く答えただけだった。
喜んでいるのか、呆れているのか、その感情は読み取れない。
食後、部屋に戻ろうとした藍丸を母が呼び止めた。
「ついてきなさい」
無表情のまま、自室へと足を向ける。
初めて入る母の部屋は驚くほど整然としていて、余計なものが一切ない。
棚の奥から取り出されたのは、漆黒の箱。
蓋を開けると、そこには磨かれたように綺麗な内張りに収められた金属パーツがひとつーーしかし表面には小さな擦り傷が無数に刻まれていた。
「……これを使いなさい」
母はそれだけ言って差し出した。
藍丸は思わず息を呑む。手に取れば、ずしりとした重みと、そこに刻まれた時間の気配が伝わってくる。
「え、これ……大丈夫なの?」
「壊れても構わない。ただ、いい加減に扱わないこと」
感情を交えぬ声音。
けれどその目の奥にほんの一瞬だけ、消え入りそうな光を藍丸は見た気がした。
言葉を探す間もなく、母は箱を閉じ、背を向けてしまう。
藍丸はただその背中を見つめながら、手の中のパーツの冷たさと重さを確かめ続けていた。
4月の一か月間は、体育館の近くにある部室で基礎の勉強が続いた。
フレームの種類、各パーツの役割、制御ソフトの仕組み。ノートを埋めながら、藍丸はなんとかついていく。
けれど、ほかの三人は少し違った。
煉人と伶はすでに中学でフレームを動かしていた経験があり、質問の内容からして次元が違う。
みどりは「動かしたことはない」と言いながらも、自宅にあった古いキットを持ち込み、説明の合間に手際よく組み上げていく。
気がつけば、自分だけが一歩遅れているような感覚。
知識は頭に入っても、まだ実際に動かしたことがない。その差がじわじわと重くのしかかる。
そして5月、部内戦の日がやってきた。
一年生同士での総当たり。誰もが自作あるいは調整済みの機体を持ち寄る。
藍丸の機体は、母から受け取ったアームを組み込んだ初めてのフレームだった。
だがーー開始の合図と同時に、思うように動かせない。
前に出ようとするが遅い。相手の動きに追いつけない。
アームは確かに強靭で、受け止める力はあるはずなのに、操縦者の拙さがすべてを台無しにしていく。
「……っ!」
一撃を受け、機体はあっさり倒された。
観戦していた煉人が腕を組みながら「お前、まだ体で覚えてねえな」とつぶやく。
伶は何も言わずに、ただ試合の記録を見ている。
みどりだけが「大丈夫だよ、最初はみんなそうだから!」と笑って励ました。
藍丸は返事をしながらも、悔しさを隠せなかった。
頭では分かっているつもりだったが、やってみると思うように動かないものだった。
ーーこれでは、試合にならない。
部内戦に負けてから、藍丸の放課後は変わった。
部活が終わっても一人だけ体育館に残り、何度も実際に動かしてみる。
選手が装着するヘルメットで脳の電気信号をフレームに伝えて動かすのは、煉人の言うように慣れるしかなかった。
自分の体のように動かせれるようになるまで何度も繰り返し練習をする。
納得できなかった日は、帰宅後にネットで動画をあさる。
「機体のバランスをとるコツ」「超人技の嵐!世界大会」ーー画面越しの情報にかじりつくように学んだ。
母は、リビングのソファに腰を下ろし、そんな藍丸の背中をときどき目にしていた。
声をかけようと思えばできる。
フレームを扱う感覚、視線の運び方、実戦で使える動きーー伝えられることは数えきれないほどある。
けれど、彼女は口を開かなかった。
藍丸が自分で調べ、試し、失敗して、ようやく気づくまで。
その過程こそが彼に必要だと分かっていたからだ。
「……」
冷めかけたコーヒーに口をつけ、ふと小さく息を吐く。
アドバイスしたい衝動を抑えるのは、戦う本人以上に難しいことだった。
藍丸はそんなははの心境を知るはずもなく、画面に向かってメモを取り続ける。
悔しさを糧に、少しでも前へ進むために。
この日がやってきた。
県内の1年生のみで行われる大会。俺にとっては初めての公式戦となる。
広い会場に学校からの応援や一般の人も見守る中、先輩たちの応援や別チームのざわめきが響き、藍丸の初戦の準備が進められていた。
フィールドにライトが照らされ、藍丸と対戦相手の機体が向き合う。
藍丸の機体の正面に立つのは、右腕にチェーンソーを装着した機体だった。
試合開始の合図とともに、甲高い駆動音と共に刃が回転を始める。
「やば……初戦からあれ?」
みどりが息を呑む。
「気を抜くなよ藍丸!」煉人が声を張る。
藍丸の心臓は早鐘を打った。
一撃でもまともに食らえば、機体はバラバラにされる。
だが、部内戦の惨敗と、その後の日々が頭をよぎる。
ーー避けろ。読み切れ。落ち着け。
チェーンソーが唸りを上げて迫る。
藍丸は一瞬だけ体を止め、直前でスッと横へかわす。
機体の装甲に風圧だけがかすめ、紙一重で刃を避けた。
「よし!」
思わず声が漏れる。
そのまま懐へ滑り込み、機体の右腕をひねり込むように突き上げた。
金属のボディブローが、相手の機体の腹部にめり込む。
チェーンソーの回転音が途切れ、相手がよろめき、膝をついた。
「決まったぁ!」
審判の声と同時に会場が湧き上がる。
観客席からは仲間たちの歓声。
みどりは両手を打ち鳴らし、煉人は拳を突き上げ、伶は無言のままうなづいた。
リング越しに彼らの姿を見て、藍丸の胸に熱がこみ上げる。
初めて掴んだ、公式戦での勝利。
努力が無駄ではなかったことを、はっきりと照明してくれる瞬間だった。
二回戦、三回戦。
藍丸は初戦の勢いに乗り、次々と勝ち上がっていった。
相手の動きを見切ってはかわし、一撃を叩き込む。
試合を重ねるごとに、機体を操る手ごたえも増していく。
だが、準決勝の相手は仲間の伶。
リングの中央に立つ伶の機体は、細身ながら脚部が強化されていた。
鋭く長い脚を主武装とする、蹴り主体のスタイル。
開始の合図と同時に、その脚が容赦なく襲い掛かってきた。
「速ぇ……!」
藍丸のガードごと吹き飛ばす衝撃。
間合いを詰めようとするたびに蹴りが襲い掛かり、押し戻される。
伶は表情を崩さず、ただ冷静に淡々と動く。
一撃ごとに計算されたような正確さ。
「距離を支配する」ことにかけては、彼のスタイルは徹底していた。
藍丸の機体はじわじわと追い詰められていく。
蹴りが装甲を削り、バランスを崩すたびに劣勢を痛感した。
ーーでも。
譲り受けた母のアームを見下ろし、藍丸は奥歯を噛みしめる。
ここで負けたら、何も返せない。
伶の蹴りには、わずかに溜がある。
その一瞬を狙うしかないーー。
何度か狙ってその時が来る。
「今だ!」
振り抜かれる脚を見切り、藍丸は一気に踏み込み、低く潜り込む。
渾身のボディブローが伶の機体を揺さぶり、立て直す前に倒れ込ませた。
準決勝。伶の機体が倒れ、審判の声が響いた。
「勝者、花染 藍丸!」
大歓声の中、伶はゆっくりと立ち上がる。
無言のまま藍丸を一瞥し、ほんのわずかに口元をゆるめた。
それは彼なりの称賛。藍丸はその静かな笑みに気づき、深く頭を下げた。
歓声に包まれる中、藍丸はヘルメットを外して大きく息を吐いた。
仲間たちが駆け寄る。
「やったね、藍丸!」みどりの声が弾む。
「次は決勝だ。気合い入れろよ」煉人は笑って肩を叩いた。
伶は無言で藍丸を見た。ほんの一瞬、口元がわずかに上がるーーそれだけを残して背を向けた。
その夜。家に帰った藍丸は、夕食の席で家族に話を切り出した。
「明日、決勝なんだ。だから見に来てくれないかな」
父と姉は大げさに喜んでくれた。
「決勝か! すごいな!」
「絶対勝ちなよ!」
母は一瞬だけ手を止めたが、すぐに視線を戻し、淡々と答える。
「仕事があるから行けない」
「…そうだよね」
誰も予想してなかった急展開だったから仕方ないけど、母さんにもらったパーツでの成績を、直接見に来て欲しかった。
1年生大会二日目。
会場はほぼ満席。観客席は昨日以上の熱気に包まれていた。
対戦相手の登場で会場のざわめきが一段と高まった。
「出たぞ……高藤剛志だ」
観客席からそんな声が次々と漏れる。
剛志の機体は、全身を覆う分厚い装甲と、象徴とも言える巨大な盾。昨日は自分の戦いで周りに目を向ける余裕がなくて気づけなかったが、さすが決勝の相手。対峙すると圧倒的な存在感を放っている。
「全国経験者だもんな」
「最初から優勝候補だって言われてたしな」
先輩達も緊張した面持ちで囁く。
藍丸は唾をのみ込む。昨日までの相手とは空気が違った。視線を向けるだけで押しつぶされそうになる。
(これが…全国に行ったやつの、空気……!)
開始の合図と同時にゆっくりと歩みを進める剛志の機体が、藍丸の目には迫りくる”壁”そのものに見えた。
次に瞬間ーー
「ガァンッ!」
母から譲り受けた右のアームが一撃で粉々に砕け散った。
「……っ!」
観客席からも悲鳴が上がった。
藍丸は立ち尽くす。胸に刺さるのは、痛みよりも申し訳なさだった。
(母さんからもらった大事なものを……俺が……)
圧倒的な力量差。勝ち筋など最初からなかったのではと思わせるほどの衝撃。
試合は審判により中断され、修理のため昼休憩へと移った。
藍丸は控室に戻り、椅子に座って項垂れていた。
右腕は見るも無惨に砕け、母から譲られたアームは内部の配線が露出している。藍丸は震える手で工具を握りしめながら、何度もネジを締め直そうとするが、部品は素直に嚙み合わない。
「……くそっ、全然直らない」
声が裏返り、額から汗が滴る。
そこへ無言の影が差し込む。伶だ。
彼は何も言わず、片手に抱えていた小さなケースを机に置く。
「…使え」
開かれたケースの中には、艶のある脚パーツが収まっていた。藍丸は一瞬、目を見張る。
「これ、お前のだろ?」
「予備だ。そのアームの代わりの武器として…無いよりはマシだろ」
伶はそれ以上、言葉を足さない。
沈黙を破ったのは、先輩達だった。
「おい、時間がねぇぞ。ネジ止めは俺がやるから、藍丸は配線チェックをしろ!」
「こっちのアームは……もうダメだな。せいぜい、一発が限界だ」
「それならそれで十分だ。最後に一発ぶち込めばいい」
部員総出の手で修理が進む。
藍丸は伶から渡された脚パーツを取り付けながら、気持ちを高ぶらせる。母のアームはボロボロのまま、右腕として辛うじて残す。今までとはバトルスタイルを変えることとはなるが、即席の機体を完成させた。
「…ありがとう」
声を絞り出すと、伶は短く「やってやれ」とだけ言い、背を向けた。
やがて休憩が終わるアナウンスが入った。
藍丸はギリギリの右腕と、新品同様の輝いている脚を装着した機体を握り、ゆっくりとアリーナへ歩みを進める。
そこには、冷徹な表情で待ち構える高藤 剛志と、その機体《金剛》がいた。
重厚な装甲に覆われた巨体は、まるで動く要塞のように仁王立ちしている。
観客席がざわつく。
「あのボロボロの機体で戦えるのか?」
「高藤相手にあれは……試合を見る必要もなさそうだな」
藍丸は拳を握りしめた。
壊れた右腕。
新たに仲間から借りた脚。
そしてーー最後まで戦いきれと、背中を押してくれる母のパーツ。
「まだ勝てる……」
自分に言い聞かせるように呟き、ヘルメットを装着した。
1年生大会決勝、後半戦。
剛志の《金剛》は、一歩ごとに地を揺らし、藍丸の機体を追い詰めていく。
「っ……!」
右腕はもうとっくに限界。母から受け継いだアームは辛うじて繋がっているが、いつ砕けてもおかしくない。
ーー勝ち目がない。
絶望が胸をかすめた瞬間、藍丸は機体の足元を見た。
伶から託された脚部。
「……まだ、やれる!」
低く構え、伶の技を見よう見まねで真似をする。
藍丸の機体の脚が閃き、《金剛》の足を薙ぎ払う。
鈍い衝撃とともに、《金剛》の巨体がよろめいた。
その一瞬の隙。
藍丸は歯を食いしばり、腰を捻る。
「これで……終わりだッ!」
突き出された母のアームが最後の力を振り絞り、《金剛》の胴へ渾身の一撃を叩き込む。
そして、巨体が崩れ落ちた。
「勝者……花染 藍丸ーー!!!」
歓声が爆発する観客席。父と姉は立ち上がり、手を振って叫んだ。
「やったぞ、藍丸!」
「信じられない、勝ったんだよ!」
喜びに包まれた二人が振り返った時ーーそこに母の姿はなかった。
母はすでに会場を出ていた。
静かな背中。凛とした足取り。表情は崩さないまま、胸の奥には確かな期待を秘めて。
ーー藍丸は、まだ始まりに立ったばかりだ。
母の思いは、喝采よりも静かな未来に向けられていた。
ヘルメットを外した藍丸は、大破したアームに目を落とす。
「……母さん、ごめん。でも……ありがとう」
おそらく、復元が不可能なほどに壊れた母からの贈り物。あのパーツのおかげで勝てた。最初の一撃も、最後の一撃もあの拳で掴んだ勝利。おれの人生において一生忘れられない日となった。
会場の外で仲間に囲まれ、藍丸は伶に小さく礼をいう。
「……ありがとう」
伶は相変わらずそっけなく、肩をすくめるだけだった。
だが、その一瞬だけ浮かんだ横顔の柔らかさを、藍丸は見逃さなかった。
たくさんの先輩達に担がれ、期待のルーキーと呼ばれるようになった。
みなが歓喜で湧く中、藍丸の胸の奥で新たな気持ちが目覚める。
ーー母さん。俺は、ここから強くなる!
ご愛読いただきありがとうございました。