怪しい古城
次の日は、ヴァンパイアの駆除はまだ出ていなかった。そもそも、滅多に出ないものなのだから、これが日常なんだと思う。午後から畑でも手伝おうかと思っていたけど、連日の疲れが出てのんびりしていた。
村の中心あたりでぼんやりしていると、寝起きのフレイがやってきた。
「隊長が言っていたが、ヴァンパイアたちは何かに引き寄せられている。方角としては、、、」
心当たりはないか、と言われて俺は、その方角を見た。古城のあるあたりだと思った。アンナとふたりで小さい頃よく遊んだ場所だったけど、最近はお互い忙しくて全然行っていない。たしか、誰かが鍵をかけてしまったのか、門が開かないと村長が言っていたような。
そのとき、1台の馬車が村の真ん中にとまった。中から3人人が降りてくる。先頭の男を見るなり、フレイが舌打ちをした。
「あいつは軍の大佐で、オルカって野郎だ」
そのオルカは俺達に気がつくと、歩いてやってきた。
「やぁ、フレイ君。エミリア隊長に実験の件を、君からも頼んでくれないか」
フレイは、明らかに怪訝な顔をしてそっぽを向いた。
「隊長が断ったのなら、それが答えですよ」
オルカは傷ついた様子もなく、そのまま村長の家へと挨拶に行ってしまった。
「奴らは、研究のためだといって、吸血鬼の血を集めている。隊長の血も欲しいみたいだ」
フレイの言いたいことはわかる。俺だって、吸血鬼を研究にするということが、よくないことなのではないかという気持ちにかられた。せめて灰にしてやることが、元人間だった者に対する供養だと思うからだ。
俺とフレイは歩きながら、古城の方へ向かった。
「古城の鍵が開かなくなったと村長から聞いたけど、何か関係あるかな?」
「古城ってあの村外れの?」
歩いていくと、いつの間にかアンナがついてきた。
「ヒースとよく遊んだあそこってお城だったのね」
普通に話に割り込んでくる。
「一緒にって、こんな不気味な場所で?」
俺もはた、とそれは思った。
古城と呼ばれるこの場所には久しぶりに来た。たしかに地下には古い墓があったりはしたが、こんなに薄気味悪い場所だったろうか。門がかたく閉ざされている。誰がこんなところに鍵をかけたのか見当もつかない。
「魔力で内側から鍵がかかっている」
フレイが手をかざしてそう言った。
「開けられるの?」
アンナは聞いたが、フレイは腕を組んで。
「隊長なら、できるかも」と呟いた。そして
「俺の記憶でも、ここはこんな不気味な場所じゃなかった気がする。何かあるかもな、、、」
と門を見上げた。
「ただ、隊長はヴァンパイアだから、夜にならないと活動できない。今夜乗り込むか」
俺はフレイに言った。
「エミリアさんから魔法ならったのに、難しいのか?」
フレイはため息をついた。
「俺の魔法は初級も初級。ぜんぜん才能がなくて、動けなくなったヴァンパイアを火で灰にするのしかできないんだ。隊長からも散々に言われたよ、教え甲斐のない弟子だって」
俺達は仕方なく、もと来た道を帰り始めた。
アンナはフレイに色々話かける。
「エミリアさんって、人を襲ったりしないのね」
「あたりまえだ」
「300歳も生きてるって聞いたわ」
「隊長は、不老不死だ」
不老不死。昔から憧れる人がいる。でも昨夜眼の前にしてもうらやましいとかいう感情は俺にもわかなかった。エミリアは儚げで、不幸そうに見えた。
「オルカの野郎が、それで隊長の血を欲しがっている。そして研究に参加しろと。隊長を人間に戻せるとか甘いことを言っているが、そんなつもりがないのは見えている。あいつの狙いは不老不死だ。オルカの部下を締め上げたら白状したぜ」
部下の人たちは、フレイに締め上げられて、さぞかし怖かっただろうと思いながら。俺は首をかしげた。
「吸血鬼は、普通、生きているときのような人格を持たない。だけど、エミリアさんはまるで生きているようだった」
フレイは説明をする。
「研究班によると、ヴァンパイアは死体から死体へ移る感染症らしい。しかし隊長は死ぬ前に感染しためずらしい例だそうだ」
そこから先は、自分に言い聞かせるように続けた。
「隊長がどれだけ孤独で、辛いか」
少しの間をおいて、アンナがフレイに言った。
「エミリアさんのこと、名前で呼んであげたら?」
フレイは一瞬、驚いたようにアンナを見て。
「え?いや、、、」
と口ごもる。アンナはすかさず
「お父さんから聞いたけど、フレイさんを引き取って育ててくれたのはエミリアさんなんでしょ?まさかずっと隊長って呼んでるの?」
と言って、ちょっと意地悪そうに笑った。
フレイは、耳まで赤くして、ふくれて答えた。
「隊長は隊長だろ。名前で呼ぶとか、、、」
そこから先は、アンナにいじられて、ちょっとかわいそうなくらいだった。