表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

戦うしかない

 否応なしに、俺たちはその場で休憩をとることになった。エミリアさんは、俺のとなりでぼんやりと宙を見つめている。俺はその痛々しい表情を見て、思わずこう励ました。

「フレイは昔から血の気が多いほうだから大丈夫だよ」

 エミリアさんは、首をふった。

「断血の誓いを破ってしまった…。しかもフレイに噛みつくなんて。たったひとりの家族なのに」

 フレイがやってきて、エミリアさんの隣に座った。左からジョシュア、俺、エミリアさん、フレイと並んで座っている。フレイは明るい口調でエミリアに言った。

「俺の血だったらいくらでもあげますよ、隊長」

 エミリアさんの返事はない。

 目の前には険しい顔のアンナがいた。

「ジョシュアさんは腹部損傷、出血も多く右肩も裂傷。ヒースは、大きな怪我はないみたいだけど、全身を打撲。エミリアさんはオルカに大量の血を抜かれて出血多量。フレイは右肩裂傷と左首に噛み傷、どっちも重症、出血が止まらない。そろいもそろって、よくもまぁ…」

「満身創痍というやつだな」

 ジョシュアが怒っているアンナの顔を見ながら、そんな返事をして納得する。アンナはぷーっとふくれっ面になり、ジョシュアに何か言い返そうとしたけど、それは俺が制しした。

「ジョシュア、知っていることを話してくれ。オルカって奴は何をしていたんだ?」

 ジョシュアは、うなずいて話しはじめた。


 妹のルカが流行り病で亡くなったあと、ヴァンパイア化してしまった。すぐにハンターを呼んで始末するのが正しいとしりつつ、傍に置きたくてジョシュアはルカを部屋に閉じ込めて自分の血を与えながらかくまっていた。

 日に日に力を強くするルカにとまどっていた時、どこで聞きつけたのか、オルカがやってきて「薬」を渡してきたのだという。

 オルカに言われるまま、ジョシュア自身がその薬を飲んでルカに吸血させると、ルカを思いのままに操れるようになったのだという。そしてオルカは、ルカのようなヴァンパイアを人間に戻せるような研究をしているので手伝わないかと誘ってきた。


「…それからは、殺人、誘拐、脅迫、人に言えない汚れた仕事を任せられた。ルカを人間に戻せるならどうでもよかった…」

 ジョシュアの話を聞いて、俺は素朴な質問をぶつけた。

「ヴァンパイアを操れるって、吸血させたらどんなヴァンパイアでも?」

 ジョシュアはうなずいた。

「エミリアさんが噛みついたのがわたしだったなら、操れたかもしれない」

「隊長がお前みたいな男に?そうならなくてよかったぜ」

 フレイは言いつつ

「それでも、お前の魔術と剣術はかなりのものだった」

とジョシュアをほめた。

「左手一本のお前と互角だったなんてな」

 謙遜なのか、ため息交じりにジョシュアもフレイをほめる。そして話をもとに戻した。

「わたしの知っていることは、オルカはヴァンパイアを新たに作り出す研究のほうに夢中だったということだ。この周辺のヴァンパイアが増えたのも、おそらくは奴の仕業だと思う」

 俺は、こんどは別のことを考え始めた。全員で生きてここから帰らないといけない。どうしたものかと。

「オルカは最後の魔法陣をくぐって外へでたのか?」

 俺の質問に、ジョシュアは首をふった。

「いや、最上階で動きをとめている。何をたくらんでいるのか」

 俺はアンナに質問をした。

「フレイとジョシュアの傷はいつまでもつと思う?」

 アンナはきっぱりとこう言った。

「明日の朝にお父さんに診せないと、死んじゃうわよ」

 タイムリミットは明日の朝。俺のハンターの勘が正しいとすると、夜明けまであとわずかだ。二人は元気そうにふるまっているが、血を失いすぎてそうなっているのかもしれない。 オルカが外に出て行かない理由を俺はわかっていた。奴はもうヴァンパイアなのだ、明け方が近いのに外に出るリスクを負いたくはないのだろう。明日の晩、ゆっくりと好きな場所に移動するつもりに違いない。

「まずいな」

 俺は、頭を搔いた。

「何がどうした」

 フレイに俺は説明をした。

「俺たちがここから出るのは、ジョシュアが無事な状態で最上階にある魔法陣までたどりつかなければならない。無事に最上階にたどり着いたとして、オルカとその部下に鉢合わせる。今の状態で勝てる気がしない」

「オルカはどうして、尻尾を巻いて逃げないんだ?不老不死とやらにはなれたんだろうに」

 俺はそれにも答えた。

「オルカはおそらく次の夜更けを待っている、奴はすでにヴァンパイアだから太陽の光を浴びたくないんだ」

 ジョシュアは静かに言った。

「最上階まで移動すれば、外までは壁一枚だ。部下に爆弾を使える者がいたから壊せるはずだ。わたしが明日まで生きていなくてもな」

 そこで一瞬みんな黙った。どうするべきか。全員で助かる方法はないのか。

 最初に沈黙を破ったのはエミリアさんだった。

「戦いましょう。明日の夜までフレイは持たない。ジョシュアさんも」

 フレイは立ち上がって、腕を組んだ。

「そうこなくちゃ、隊長。サーベルは怪我で振れなくても、俺には宝刀がある」

「わたしも戦おう。少し休んだから、あと一回ならルカか魔法陣を使えると思う」

「わたしはあと一撃、大砲を残してあるわ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ