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大砲

 俺とアンナで、ジョシュアを支えながら、俺たちはしばらく歩いた。ジョシュアが明かりを作ってくれたので、足元は問題なかった。この魔術は比較的簡単らしい。

「ジョシュアさん、痛みはどうですか?」

 アンナの質問に、ジョシュアはかすかに笑って。

「…ルカが元に戻らないことは…本当はわかっていたんだ…」

わたしが馬鹿だったと、静かに話し始めた。

「ルカは、わたしの妹だ。わたしが幼いころに、母親が亡くなり、父はしばらくして再婚をした。新しい母の連れ子だったのがルカだ」

 アンナは、ジョシュアにあまり喋らないほうがいいと言ったが、ジョシュアは続けた。

「初めて会った時から、わたしはルカを愛していた…ルカも同じ気持ちだと知ったわたしは、両親に交際の許可をもらおうとしたが…許されなかった。そうだよな、両親にとってみれば、わたしたちは血がつながっていなくても兄妹、許されない…」

 そこで、俺は視線の先に誰かが倒れているのを発見した。

「アンナ、あれ…!」

 アンナは俺にジョシュアをたくすと、走って確認に行く。

「エミリアさんよ!気を失っているみたい」

 エミリアさんは、まるで死んでいるみたいだった。真っ白な肌は、まるで蝋のようで、それでも青い唇がかすかに動いていた。

「…フレイは…どこ?」

 俺は言うべきか悩んだ。でも、黙っていても仕方がない。

「フレイは、あとで必ず助けにいくよ。まずは一回、ここを出よう」

 エミリアさんは、気力を振り絞って体を起こして、そしてはっきりと言った。

「状況を聞かせて。どうしてフレイがいないのかを説明して」

目をはっきり開くと、そのまなざしはしっかりしていて、体の衰弱具合からすると異様なほどだった。ヴァンパイア討伐隊の隊長をしているくらいだから、気力も違う。

 俺がかいつまんで、状況を説明する。ジョシュアの時空移動がないとこの崩れた古城を自由に移動することはできないこと。その時空移動に使う魔法陣を新しく生成することが難しいこと。オルカは最上階に向かっていること。フレイは新しく魔法陣を生成しないといけない場所にとりのこされていること。

 エミリアは状況を把握すると、すぐさまこう言った。

「フレイから一番近い部屋まで案内して」

 ジョシュアは眉をひそめて、少し考えながら。

「わたしは罠を張るために、この古城はくまなく移動した。残り壁一枚の場所へなら行ける。しかし、爆破でもしない限り崩れるとは思えないが…」

 火薬なんて、誰も持っていなかった。しかしエミリアさんは落ち着いていた。

「大丈夫、連れて行ってくれる?」


 俺はジョシュア、アンナはエミリアさんに肩を貸しながら、俺たちはまた移動を始めた。移動の最中、後ろを歩くエミリアさんの声が聞こえてきた。

「わたしが馬鹿だったわ。心の弱みに付け込まれたのね」

 それを聞いて、ジョシュアも呟く。

「まったくだ」

 俺は思った。エミリアさんは、フレイと一緒に年を取りたかったのかと。フレイを引き取って、育てた人だから、母親みたいな愛情なのだろうか。でもフレイは「あなたを守る」と幼いころから言っていたのだから、よくわからないが、フレイはきっと、エミリアさんが好きなんだろうな。


 移動中、俺たちは無口だった。弱った二人を連れて移動するのに、あまり余裕がなかったのもある。ジョシュアもエミリアさんも足元すらおぼつかない。

 それでもやっと、「壁一枚」だと言われる場所までたどり着いた。

「この壁を壊せば、フレイがいるのね?」

 エミリアさんは、壁に手をついて体を支えた。ジョシュアははっきりと、そうだと言った。

「わたしとフレイが戦っていたのはこの壁の奥の空間だ」

 エミリアさんは、両足でしっかり立つと、大きな声で言った。

「わたしの後ろへ下がって。…爆破する!」

 爆破?

 俺も、アンナも、ジョシュアも、エミリアさんの後方へ引き下がる。エミリアさんは集中し、呼吸を整えると、両手を前に出して叫んだ。

「大砲!!」

 一瞬魔法陣がエミリアさんを包んだかと思うと、空気が集まり、光がほとばしる。


ドン!!


 ものすごい音とともに、目の前の壁は跡形もなく消え去った。


「すげぇ…!」

 俺は思わず、感嘆の声をあげた。

「なんて火力だ」

「すごい!」

 ジョシュアとアンナも声をあげていた。

 壁の奥の暗がりから、カンテラの光が見えた。煙を吸って咳き込んでいる声も聞こえる。「隊長?」と言っているので、間違いなくフレイだろう。

 瓦礫を乗り越えて、フレイが姿を現した。

「ヒースも無事だったのか!参ったぜ、どこにも出口がなくて」

 先頭にいるエミリアさんのほうへ近づきながら、こっちを見てそういった。そしてエミリアさんの前に立つ。

「隊長…?」

 最初、エミリアさんはフレイに抱き着いたのかと思った。でも違った。エミリアさんは…フレイの左首に嚙みついた。

「うううううう…!!」

 獣のような声をあげている。

 フレイは…首を嚙まれながら、エミリアさんをぎゅっと抱きしめて言った。

「すいません隊長…俺がいながら」

一瞬、誰も何もできずにそれを見ていた。少し経った時、エミリアさんが我に返ったようだ。

「うわぁぁぁ…ん。ああぁぁ」

 エミリアさんは泣き出して、床に崩れ落ちた。

「断血の誓い、破っちまいましたね…」

 フレイもしゃがみこんで、こう言った。

「こんなになるまで、頑張らせて、すいません」

 エミリアさんは、ただ泣きじゃくっていた。

 アンナが一番先に動いて、フレイの隣にしゃがむと、「フレイ、傷を見せて」と言った。

「いや、隊長をみてやってくれ」

 フレイが言ったが、アンナははっきりとした口調で、こう返した。

「エミリアさんはかなりの血を失っているみたいだけど、たぶんフレイも重症だと思う。傷を見せて」


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