生きている死体をちゃんと殺す
ヴァンパイア・ハンターという仕事を知っているだろうか?
俺の家業がそれなんだ。
どんな仕事かって?
十字架や剣を持って、荒れ狂うアンデットを相手に戦うゾンビハンター?
ゴシック調の洋服に身を包んで、聖書を片手に祈りを込めながら、暴れる死体を相手に杭を打ち込む、悲壮感漂う美しい主人公の職業とか?
いやいや、それはまるで違う。そもそも、そんな異形の存在に、人間なんかが太刀打ちできると思う?
夜のヴァンパイア・ハンターなんか存在しないといって、まず間違いはない。夜にヴァンパイアと戦うなんて、とんでもない。戦い好きの変態だ。
朝はやく、日の出直後に、俺の仕事ははじまる。親父と俺はさっさと寝床から出ると、朝食に昨日の残り物の固くなったパンをかじりながら、まずいスープを飲み干して、身支度を整える。身支度っていうのが、十字架の縫い付けられたつなぎなんだが、汚れ具合といいどこから見ても作業着って感じだ。
母さんがいたころは、おいしいスープくらいにはありつけたんだけど、俺がこの仕事を継いだ直後にでていった。親父は何も言わないけれど、仲が悪いようには見えなかったんだけどな。
家のドアを勢いよく開ける。ドアにはにんにくだの薬草だのがぶら下がっている。ぜんぶヴァンパイア避けの植物たちだ。俺の家は墓場のすぐ近くにあって、すぐに仕事にとりかかれる。夜には奴ら、ヴァンパイアがうろつくから、絶対に鍵をあけたりしない。
正直なところ、朝が早いので、夜はさっさと寝てしまって、外の様子どころではない。ヴァンパイア・ハンターの仕事は力仕事だから。
親父と俺は、墓をひとつひとつ、見て回る。ちょっと様子がおかしい墓をみつけると、観察し、妙な音や気配を感じるとそこに眠っている元人間を引きずり出しにかかる。
スコップを使い、棺桶を引っ張り出し、蓋をあけて、その人間だったものの心臓に杭をめいっぱい差し込む!
ぷす〜!
臭いガスが抜けるのと同時に、ヘドロみたいな膿みたいな液体が体にかかる。マスクをしていなかったら、口の中にまで入ってきそうな勢いだ。
これが、ヴァンパイア・ハンターの日常。
かっこよく、武器とか振りかざして、戦ってみたいよ俺も。
「今日は、ここまでにしよう。夕方に村の会合がある。お前も出席してもらいたい」
杭を刺した通称「生きている死体」に火をつけながら、親父はそういって、ため息をついた。
火のついたやぐらの上で、生きている死体は灰になって、体を失い、きちんと亡くなる。