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05.判断を間違えたか ***SIDE国王

「なんということをしでかしたのだ!!」


 叱りつけても遅い。わかっているが、口に出さずにいられなかった。


 考えなしで軽はずみな言動が多い息子だが、唯一の王子だ。それゆえに王太子にするための手段を講じた。有能で血筋の確かなル・フォール大公家の一人娘を婚約者に据える。大公家の嫡子だが、幸いにしてあの家は養子を得た。


 義理の息子に継がせるつもりなのだろう。ならば、一人娘は王家が貰うと突きつけた。かなり抵抗されたが、王命を使って無理やり婚約させる。王となる息子が馬鹿でも、有能な王妃がサポートすれば問題ないはず。


 次の世代まで血を繋ぐだけでいい。孫は私も含めた周囲がきっちり教育する。正妃である妻の実家から二人目の王妃を得ることで、大公家の地位が高まるが……今さらだった。問題ない、そう考えたのに……。


「俺はナディアと結婚します! 政略結婚で、父上達のような冷たい家庭を築くのはごめんだ」


 どこで教育を間違えた? いや……有能な教師を選んだのだ。きっとそれ以前の部分がおかしい。元から出来が悪いことに気づいていれば、側妃を娶って産ませたものを。悔しさで歯が軋むほど噛み締めた。


 ぎりりと嫌な音がして、血が滲む。口の中の鉄錆びた味を飲み込み、バカ息子を睨んだ。


「もういい。好きにしろ、お前は廃嫡とする」


 絶縁を突きつけた。唯一の王子だが、唯一の我が子ではない。成長過程で心配になり、数年前にもう一人子を産ませていた。まだ幼いが、逆に今からきちんと教育すれば間に合う。


 私の退位が遅くなるだけだ。婚外子のため、現在はある公爵家に預けていた。女児だが公爵家辺りから婿を取ればいい。血を繋ぐだけなら、一時的に女王でも構わない。王家の血が途切れなければ、なんとかなる。


「父上?! 俺以外、王家の血を引く者はいないんですよ?」


「子など作れば済む。いっそお前以外なら誰でもいい」


 横暴だなんだと騒ぐ息子を、騎士に拘束させた。外へ放り出すにしても、子作り出来ぬように処置しなくてはならん。うっかり外でばら撒かれたら、のちの災いの種になる。


 子供の頃に祖父から聞いたのは、ヴァロワの本家だったヴァレス王家の末路だ。正妃に頼り、側妃を拒んだ結果……血が細くなりすぎた。生まれる子が減り、女性ばかりになり、最後はヴァロワに嫁いだ曽祖母のみとなる。


 曽祖父が立ち上がらなければ、ヴァレス聖王国は滅亡していたのだ。同じ悲劇を僅か三代で繰り返す気はなかった。ル・フォール大公家はヴァロワの血を受け継いでいない。ならば王家の血を受け継ぐ娘を王女として認め、引き取るのが正しい。


 正妃セレスティーヌの承諾を取らねば。急いで彼女に事情を説明した。冷たい表情で私を一瞥し「お好きになさればいいでしょう」と吐き捨てる。冷たい家庭と言われようが、これが王家の政略結婚だ。


「わたくしは実家に戻らせて頂きますわ。よその女に産ませた婚外子を引き取るんですもの。ご理解いただけますわね?」


 居心地が悪いだろうし、虐められても困る。もう子を産む気のない妻は不要だった。構わないと許可を出した途端、彼女は蕾が綻ぶように微笑む。その美しさと妖艶さに息を呑んだ。


 手放してはならない何かを……失った気がした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 王命で無理やり結婚させられるほど王家の権力が強いのに、そんな王家を滅ぼせるほど大公家は強いのか?いまいち力関係が分からんな。そもそも元は一国だった大公家がこの国に所属してる時点で何かし…
[良い点] これで大公家の人質と成り得た王妃を失い、王家は利用する手立てが潰えましたな(>д<*) 小人はビーフシチューにチーズぶちこみます。
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