49.最悪の展開 *** SIDEルフォル王
大陸には現在、八頭のドラゴンが確認されている。そのうちの一頭が、姪と契約して隣大陸へ向かった。なんとも忌々しいが、ドラゴンは最強生物だ。命じても動かぬ竜に、あれこれ策を講じても無駄だろう。
隣大陸の小さな国を手に入れる駒として利用し、本国に戻れなくするつもりだった。だが、愚かなヴァレスの王と王子が失態を演じる。貴族は勝手に動き、事後報告で船を出したと知った。
この状況に加えて、ドラゴンが王宮へ向かっている。行進する一行は弟に率いられ、貴族と民が続く。もし攻撃すれば、国民への攻撃として非難されるが……このまま手を拱いても玉座から引き摺り下ろされるだけ。迷ったのは一瞬だった。
攻城兵器として開発した火薬を詰め、大砲でドラゴンを威嚇するよう命じる。本来は鉄の球を飛ばして塀や砦を壊す道具だが、空砲で打てばドラゴンが散開するだろう。直接攻撃を当てなければ、なんとでもなる。空砲なら敵意がなかったと言い訳できると考えた。
軽く考えすぎていたのか。空砲の音に、ドラゴンは確かに反応した。俺が考えていたのと真逆の反応だ。逃げずに、牙を剥いてこちらに威嚇を行う。数匹が王宮の屋根に降り立ち、甲高い声で鳴いた。頭痛を伴う音で、窓が吹き飛ぶ。
この鳴き声自体が攻撃と同等だった。うっかり近くで聞いた数人が、倒れて運ばれる。
「やめろ! 盟約を破る気か」
ドラゴンに向かって叫んだ。この大陸に住むドラゴンは、先祖との盟約に縛られている。ルフォル王国の民に危害を加えない。この一点に縋った。だが、ドラゴンの主である銀竜は、獰猛な笑みを浮かべる。
騎士が鍛錬に使う広場に降り立ち、鋭い牙を見せつけながら言葉を放った。我々が使う言語を、振動によって発したのだ。
『先に仕掛けたのは、お前だ。あの盟約には先制攻撃を禁じる条項がある。一つでも破れば、我々は盟約から解放される』
なんだと?! そんな文言があったか? 慌てふためくも、確認するより早く銀竜の尾が王宮の門を破壊した。派手な音と粉塵をあげて、堅固な門が崩れる。まるで大人が子供の作った砂の城を壊すように。
「待てっ! 話し合おう」
これ以上の破壊行為を防ごうと声を張り上げるが、ドラゴンは港の方角を見つめるばかり。まったく話を聞いていない。こんな無礼が許されるのか。俺はこの大陸を支配するルフォルの王だぞ。
「あら、伯父様。先ほどの祝砲による歓迎、痛み入りますわ」
頭上にかかった影から、若い女の声がする。俺を伯父と呼ぶなら……見上げた先で、空飛ぶ犬に似た異色のドラゴンが旋回していた。あれは姪と契約したドラゴンだ。こうなったら、地上に降りてから、言いくるめてやる。
「兄上、お久しぶりですな。皆も揃ったことですし、『御前会議』とまいりましょう」
二度と顔も見たくなかった弟が、貴族と民を引き連れて壊れた門をくぐる。これ以上思いつかない、最悪の状況だった。




