45.民の盾や剣になるのが役目
出迎えに来た貴族は、こぞってお父様の前に膝をついた。忠誠を誓い、主君として戻ってくれと嘆願する。事前に船の中で、お父様と打ち合わせていた。勝手に返事をしないこと。お父様って絆されやすいから、危ないのよね。
睨みながら腕を組むと、さすがに顔を引き攣らせて断りを入れていた。こんなところで旗頭にされたら、伯父様との面会すら叶わないわ。
「まずは謁見の準備ね」
私の肩に手を置いて、へたり込みそうな足を堪えるレオが呻くように同意する。侍女達が手回りの荷物を下ろし、大きな荷物は船員達が運びだした。集まった貴族が、使用人に指示を出す。
木箱に詰め込まれた武器が、港に並べられた。荷馬車がこちらへ向かって走り、ぞろぞろと人が降りてくる。服装や所作から、農民や職人だろう。
「ルフォル王家の王子であった、ダニエルだ。兄の不始末を片付けにきた! ともに戦う者は武器を手に取れ」
呼びかけに応じたが、気が進まない。そんな人も混ざっていた。顔を見合わせ、迷う様子をみせる。その気持ちも理解できるわ。今のままならじりじりと削られても、すぐ壊れはしない。けれど動いてしまえば、明日にも崩壊する可能性があった。
「手に取った武器を使わないで済む方法を考えるわ。だから、あなた達の意思を示す道具として……考えて頂戴」
私の言葉に、顔を見合わせた人々が頷く。距離を詰めて、武器に手を触れた。目を閉じて覚悟を決めた料理人が剣を握り、その隣で農機具しか扱ってこなかった男が槍を手に取る。
「戦う覚悟はまだ要らない。民を守る盾となり、あなた達の言葉を伝える槍や剣になるのは……貴族の役目よ」
贅沢が許される代わりに、命を惜しまない義務を負う。命令で人を動かす立場を得ることで、民を守る義務が生じる。貴族とは、国の危機に真っ先に散る者でなければならないの。
その先頭を切るのが王族よ。元第二王子の娘である私は、その義務を背負う覚悟ができている。顔を上げて民の前に立ち、付き従う騎士の位置にレオが侍った。
「王は責務を放棄しているわ。ならば王の首をすげ替えるのが、私達の役目。もし信じられないと思えば、その武器を私達に向けて構わない」
民を優先できないなら、王も貴族もいらない。私の言葉に、わっと民が声を上げた。私の言葉を伝達するように後ろへ送り、次々と武器が渡されていく。ここまで焚き付けてしまえば、もう引く道はなかった。
あちらの屋敷に帰れるよう、全力を尽くそう。敵ばかりの王家に嫁ぎ義務を果たし、戦い抜いた叔母様に恥じないように。
「シャル、君は凛々しくて手が届かない高みにいる……後ろから引き摺り下ろしたくなる」
囁く後半がなければ、素敵な口説き文句だったのにね。そう思う反面、このくらい頭のおかしい男だからレオなのよ。レオ以外は要らない。きっと、私もおかしいのよ。だからあなたが、ちょうどいいわ。振り返って、陸酔いで青い彼の頬にキスをした。




