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41.懐かしい顔がずらり

 本国から到着した船は、帆を畳んでいた。港に佇む姿は優美で、隣大陸から旅をして来たとは思えない。推進力と結界、二つの魔法道具を使った効果だった。結界をもつ船は二隻のみ。より安全な船を派遣した貴族達に感謝だった。


 こちらの大陸から、本国側へ向かう交易船は存在しない。主要動力が帆であるため、本国側から吹く風に押されて進めない。過酷な旅の途中で食糧や水が尽きて、難破船になる確率が高すぎた。人力で漕いで進もうとすれば、船が大きくなり到着までの生存率が下がる。


 船を大きく動力を人に変更するなら、それに見合う食糧や水の保存方法が必要なのだ。それらの心配が不要なのが、魔法道具による動力船だった。本国からは常に追い風が吹くため、帆も兼用して三割の時短も可能となる。


 予定した時刻に到着した船から降りたのは、若者より年配者が多かった。出迎えで港に立つお父様やセレーヌ叔母様を見るなり、泣き崩れる。鼻を啜り、顔をくしゃくしゃに歪めて、震える声で必死に訴えた。


 少し離れた私とレオに声は届いても、内容は聞き取れない。ただ、苦労したことを訴えたのではなく、待たせてしまったと詫びる言葉のように思われた。お父様は彼ら一人一人の肩を叩いて、苦労を労う。セレーヌ叔母様は微笑んで、彼らの言い分を受け止めた。


 慈愛の光景は美しいのだけれど……ユーグ叔父様は通常運転だった。感極まって叔母様の手に唇を押し当てようとした男性を、さりげなく牽制して遠ざける。飛びつこうとした者を、容赦なく蹴飛ばした。


 叔母様に群がる貴族は、ユーグ叔父様の前に倒れていく。お父様ったら見ないフリをなさったわ。お母様も一緒に出迎えた。一族の者だろうか、膝をついて手を握る老人に優しく声をかける。お父様が嫉妬しているから早めに離した方がよさそう。


 私はあの年代との接点が少ないため、のんびりと眺めていた。


「レオ、船酔いの薬を仕入れた方が良くてよ」


「安心してくれ、大量に購入した」


 得意げに見せたのは、巾着にぱんぱんに詰め込まれた薬だった。それ、全部飲む気なの? 過剰摂取だと思うけれど。一応、私が預かって与えた方がよさそうね。そんな相談をする間に、船から全員降りたようだ。


 船を整備して、魔法道具を動かすのは職人の一族だ。平民だが、準男爵と同じ扱いだった。お父様達が手いっぱいなので、代わりに私が労う。手配した宿を教えると、彼らは港町を歩き出した。


 ほぼ漁港しかないヴァレス聖王国だが、このル・フォール大公領は大型船を複数停留できるだけの港を整備していた。もちろん、本国からの船を受け入れるためだ。両手を広げて抱え込むような形の湾を利用し、海底を深く掘って作りあげた。


「お嬢! 久しぶり……っちゅうか。綺麗になっててびっくりじゃ」


 気安い口調の船長は、日焼けして黒い顔でにやっと笑う。白い歯がやたらと眩しかった。もう孫がいてもおかしくない年齢だが、いまだに独身を通している。手紙のやり取りもあった彼と軽いハグをするも、レオが唸るようにして間に割り込んだ。


「ちょっと、大人げないわよ」


「シャルは俺のです」


「相変わらずじゃ! 仲が良くて何より。酒は用意してもらったかの?」


 酒が足りないと暴れるぞ。船乗りらしい豪快な笑い方で、船長はレオの肩を叩いた。まったく気にしてないところが、すごいわ。

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