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【完結】もう結構ですわ!  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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20/80

20.これで最後 ***SIDEジョルジュ

※残酷な表現があります








 蹴飛ばされたベッドが揺れ、最悪の目覚めに顔を歪める。文句を言ってやろうと起き上がったところを、乱暴に放り投げられた。硬い床に落ち、ぶつけた膝と肩が痛い。


「何をする!?」


「連れて行け」


 無視して出された命令に、数人の男達が従った。王宮の制服とは違うが、騎士のようだ。ようやく迎えが来たと思い、掴まれた腕を振り払う。


「俺は王太子だぞ。もっと丁重に扱え」


「それだけの価値があるのか?」


 吐き捨てられた言葉に反論するより早く、どんと突き飛ばされた。経験のない浮遊感の直後、全身を何かに打ち付ける。階段を突き落とされたのだと……気づいたのは後になってからだ。


 家の外へ転がり出た俺は、罪人用の檻に放り込まれた。荷馬車に固定された檻に捕まり、出せと叫ぶが誰も取り合わない。これから処刑される罪人のように、街中を荷馬車は進む。幸いだったのは、街の人々が見物に出てこなかったことか。


 騎乗した騎士が付き添い、街の外へ向かった。揺れが止まったのは、草原の中だ。遥か彼方にぽつんと一本の木が見えた。銀髪の男がその木を指さす。


「行け、あの大木を越えれば許してやろう」


 檻が開かれ、俺は用心しながら降りる。小さな袋を投げられた。中を見ると、別れる際に王宮で渡された金貨だ。見覚えのある袋をしっかりと握る。


 背を向けずにじりじりと離れるが、彼らはすぐに追ってこなかった。ある程度の距離で安心し、背を向けた途端……馬を嗾ける声がする。振り向いた目に映るのは、襲いかかる騎士の姿だった。剣を抜き、槍を構え、彼らは俺を追う。


 金貨の袋を抱えて走り、重さに舌打ちした。だがこの金がなければ何もできない。迷って握り直す。追いついた騎士は、すぐに攻撃を仕掛けない。かすり傷程度を負わせただけで、走るよう強要された。


 足を止めると槍の穂先が肌を裂く。速度を緩めても容赦なく蹴飛ばされた。獲物をいたぶる猫のように、じわじわと体力が削がれ……息をするのも苦しかった。腹立たしくて文句を言ってやりたいが、喉は呼吸に忙しくて張り裂けそうだ。


 ひゅーひゅーと情けない音を立てる喉を、唾で潤して必死に走った。どこまで行けば許される? あの木を越えたら……先ほどの言葉に縋り、全力で走った。全身がバクバクとうるさく、眩暈がして足が縺れる。


 近づいてきた木に向かい、全力で走った。何かに躓き、転んだ拍子に袋が破れる。転がった金貨を拾い上げ、追ってくる騎士へ投げた。あと少し、もうすぐ……。


 立ち上がって走ろうとした足に、焼けるような熱さを覚える。違う、これは傷か。左足首、右の太腿……ぬるりと血が流れ、俺は絶望する。もう少しだったんだ。あの木までたどり着いたら……。


 馬から降りた男が一人、手を伸ばした俺の前に屈む。影になって見えない顔、向けられる悪意に震えた。


「許すわけが、ないだろう?」


 彼らはそれ以上、俺を傷つけなかった。ただ黙って見つめる。立ち上がれない足を引きずり、這いつくばって必死になる俺を……嘲笑することもなかった。手足の痛みが遠のき、徐々に冷たくなり……目が霞む。


 俺は何を間違え、どこで失敗したのか。王太子だった、国の頂点にいたはずなのに……。


「後悔すらできないクズめ」


 吐き捨てた銀髪の男の声は、あの夜会で聞いた。そうか、シャルリーヌの……ここで俺の意識は途絶えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうしようもなく愚かではあったけどこいつ自身がこうまでされるほど酷かったかというとそうではなく、根本的に悪いのはこいつの親世代なのにその責任をこいつが背負わされるのは少し可哀想だなぁ
[良い点] ガタガタガタ((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
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