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02.ようやく元に戻ったわ

 ヴァレス聖王国、名前だけ聞くなら宗教国家のようだ。この国の名称であり、王家のヴァロワは旧ヴァレス王家の傍流だった。直系が絶えた後、ヴァレスの妻を持つヴァロワが国王として名乗りを上げた。僅か数十年前の出来事である。


 大切な義兄レオポルド・ル・フォールの手を借りて、私は王宮の廊下を真っすぐに進んだ。その足取りに迷いはない。顔を上げて歩く私達の後ろに、ルフォルの爵位を持つ貴族が続いた。王宮の使用人がさっと道を開け、まるで見送りのように並ぶ。


「シャル、もう止めたりしないね?」


「ええ、もちろんですわ。お兄様……いいえ、レオとお呼びしましょうね」


 整った顔をうっとりと愉悦に染め、義兄は私の手を掲げた。ちょうど馬車が用意されたアプローチの前なので足を止める。さっと膝をつき、レオポルド兄様が私の手の甲を額に押し当てる。逆らわず、好きにさせた。これは騎士の誓いでよく見られる行為だが、同時に求愛の姿でもある。


「求婚は別の場面で行うが、まずは最愛の姫に俺の忠誠を誓わせてくれ。身命を賭して姫を守る許可を願う……シャルリーヌ・リン・ル・フォール殿下」


「許します、私の大切な騎士レオポルド。あなたの献身に感謝を」


 定められた王家の文言で忠誠を受け取り、微笑んで兄が立ち上がるのを待つ。私を縛っていた鎖である、ヴァロワ王家との婚約は破棄された。これで、レオポルド兄様との婚約が調う。


 振り返ると、王城へ続く廊下で膝をついた貴族の頭が並んでいた。彼らにル・フォール家としての言葉を残す。


「ご苦労でした。かねてよりの通達に従い、ル・フォールへ参じるように」


「「「承知いたしました」」」


 揃えたように答える彼らを見回し、私は満足して馬車に乗り込んだ。もちろん、レオポルド兄様のエスコートだ。走り出した馬車の中で、レオポルド兄様は顔を上げて向かいに座っていた。ところが馬車が王宮の門を越えた途端、立ち上がって隣に移動する。


「レオ?」


「やっとシャルの隣に立つ条件が揃った。嬉しくて狂いそうだ」


「あら、それは大変」


 すでに狂っておられるでしょうに。口を衝きかけた本音を、扇で押さえてから呑み込む。私のことが好きすぎて、かなり言動が危ない人だ。刺激して馬車で襲われる無様は避けたい。


「口付けても?」


「触れるだけよ。お化粧が取れてしまうわ」


 微笑んだ綺麗な顔が近づいた。高位貴族は美形や有能な者を代々掛け合わせて生まれる。美形が多くて当然だが、何度見ても好みだわ。うっとりと目を閉じれば、待っていたように唇に触れた。優しく二度触れて離れる。


「いい子ね、レオ」


「あまり我慢させると、襲ってしまうよ」


「悪い子にはお仕置きが必要かしら」


 嬉しそうな顔をなさらないで。畳んだ扇をぎゅっと握り、前を見る。しばらく横顔に視線を感じていたが、すっと逸れた。王都に構える屋敷は、高位貴族であるほど王宮に近い。馬車の外に広がる森は、徐々に色を変えた。


 手入れの行き届いた区域に入れば、もう我がル・フォール家の敷地だ。見慣れた屋敷が見えてくるころ、私は視線を向けないまま呟いた。


「ようやく元に戻ったわ」

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