三
イザベラは目を閉じて詠唱を始める。辺りの空間がぐにゃりと歪んで行き、ブラックホールのような黒い渦を巻いた何かが少しずつ現れて行く
カーズはふらつきながらその黒い空間へと入り、姿を消した。最後に俺の事を一瞥し、イザベラは笑う
「お嬢様ーーー…魔族の落ちこぼれをよろしくねぇ」
ひらひらと手を振りながらそう言い残して、イザベラは消えた。
二人が中へ入るとその黒い渦は何事も無かったかのように消失してしまった
オルガを見る
顔面は鼻血と涙で汚れ、両手は痛々しい程に裂けてしまっている。全身も酷い火傷を負って、見るのも憚られる程だ
…何も……何も出来なかった。
手が出せなかった。オルガのあまりの気迫に、殺気に身体が竦んで身動きすら取れなかった
こんなに酷い状態になるまで遣られてしまったのに、俺はただの一度も助けに入る事が出来なかった
もし俺に力が有ったのなら、オルガにこんな大怪我をさせる事は無かった。ルーギアスさんもカーズに手酷く遣られてしまって、唯もきっと無事では済んでいない筈だ
なのに俺はどうだ?食らったのはカーズから貰った蹴りの一撃だけで、皆とは比べ物にならない軽傷で済んでる
……それは強いからじゃない。単に俺が戦闘に加われていないだけなんだ
皆がこれだけ血を流して闘っているのに、俺はそれをする事が出来なかった。誰かを護る為に剣を振るう事が……俺は…ッ…!!
涙が溢れて来る
情けない、なんて言葉じゃ足りない。力にもなれない。俺は弱過ぎる
溢れた涙はオルガの顔に当たり、僅かに呻くとオルガは目を薄らと開けた
「…………………奴等は…?」
「…消えた。変な空間みたいなの出して、そこに入って消えちまった」
「………………………そうか」
掠れた声でそう呟き、オルガは視線を落とす。普段のオルガとは思えないほど弱々しい声だった
肉体的にも、精神的にもオルガが弱り切っているのだとありありと分かってしまう
「………ごめん………ごめんオルガ……ッ…!」
「…………泣くな。今貴様に泣かれたらつられて泣いてしまうではないか……」
…止まらない。涙はどんどん溢れてしまう
涙が何粒も零れ頬に当たり、目に涙を溜めながらオルガは小さく息を吐いた
「………だから…泣くなと…ぅっ…ううぅッ…!ッ言っているのにぃ…ッ…!」
片手で両目を隠し、オルガは泣いている。その手の隙間から涙が伝い、地面へと零れて行く
色んな感情が頭の中で渦巻いてどうしようもなくなっているんだろう…。オルガが他人には絶対に見せたくない姿である事くらい俺でも分かった
それでも涙は止まらずに嗚咽を漏らしながらオルガは泣き続ける




