二
何処からともなく聴こえてきた女性の声。街の人でも、オルガのものでもない気怠げな声だった
…一体いつ現れた…?
いつの間にか玉座に女性が座っていた。青紫の長い髪を撫でながら足を組み、肘掛けに凭れながら頬杖をついて俺達を見据えている
冷たい瞳をしていた。凍ってしまうような深い深い漆黒の瞳
血色無い紫色の唇、青白い肌、尖った長い耳
「……あら?」
ふと、その女の視線が止まる。その視線の先にはオルガがいた
対するオルガはその女の事を茫然としたように見ている。思考が止まったかのようにただ茫然と
その女の口角が上がる
「あはッ…!あっはははははッ!!!なぁに!?一人じゃどうにもならないからって人間に尻尾振って媚び売ってるのぉ!?」
激しく笑いながらオルガに捲し立てるように喋る。対するオルガは口元が震えている…上手く言葉が出てこないのだろうか
「魔族の誇りは無いのかしら?よりにもよって忌み嫌う人間に付いて」
「…イ、ザ……ベ…ラ…」
漸くオルガは言葉を発した。一言だけ〝イザベラ〟と。
それを聴いた〝イザベラ〟はにこりと微笑む
「何かしら?オルガ〝お嬢様〟?」
「何故…………何故お前が此処に居る…?」
「何故ぇ?状況見て理解が出来ないのかしら?ああ、もしかして信じたくない?」
絶えず笑いながら話すイザベラとは対照的にオルガの顔は青くなっていく。呼吸も少しずつ荒くなっている
イザベラは髪を靡かせ、また笑う
「そこのカーズとおんなじ。魔物側に付いてるからよぉ」
オルガの顔が蒼白に変わる。呼吸が荒くなって言葉が紡げないのか、そんな状態で何とか言葉を絞り出す
「母…様……母様は無「死んでるわよ。とっくの前に」
さも気に留めず、といったように。まるで空気を吸うかのようにさらりと……オルガの言葉を遮り言い放たれた
その言葉に弾かれたようにオルガはイザベラへ飛び込んでいった。拳を握り締め、思い切り振り抜く
その拳はイザベラの顔の前で止まっている
「無様よねぇ……いくら力が有っても、どんなに私を殴り付けたくても魔力が無いとこんな陳腐な魔法壁すら壊せないなんて」
「イザベラアアアァァァァァァァァッッ!!!!!」
殺気を剥き出しにしてオルガは何度も何度も何度も何度も拳をイザベラへとぶつける。その攻撃は全てイザベラの前で弾かれ、傷一つ付けられない
「お返し♪」
「ぐっ…!!!あああぁぁあああぁぁぁっ!!!!」
目で視認出来る強さの雷撃がオルガの全身を襲う。全身の皮膚が焼け焦げてしまう程の攻撃を食らっても尚、オルガはイザベラへの攻撃を止めない
それでも…その攻撃が届く事は無い
「あらぁ…泣かないでオルガお嬢様?そんな怖い顔をして…可愛いお顔が台無しですよ?」
「イザベラアァァァァ!!!!よくも!!!よくも母様を!!!!!お前を信じていたのに!!!!私は…!!信じていたのに…!!!!」
「信じていたって………勝手に信じたのは貴女でしょう?」
涙を流し、オルガは絶えず血だらけの拳で殴り続ける
振りかぶる度に血が撒き散り、周囲を汚す
不意にイザベラが不乱に殴り続けるオルガに手を翳し、跳ね飛ばした。魔法を使ったのかオルガは城の壁へと派手に激突してしまった
「オルガ!!!!」
駆け寄りオルガを抱き起こす。力無く項垂れてオルガは気絶してしまっていた
「そろそろ戻るわよぉ」
「…戻ったらこの傷治せ」
「あらぁ?不覚取ったの?無様ねぇ」
「黙れよ糞魔族が」
「良いの?そんな口利いて。治してあげないわよ?」
「…ちっ」




