十六
俺へと進ませた足がぴたりと止まる。そのまま僅かに眉を顰め、俺の事を見据えている
…俺、じゃないな。俺の後ろからやって来てる皆の事を見てる
「……何だ、この感覚は」
魔皇の様子が明らかに変わっている。今の今まで嗤っていたその顔から嗤みは消え、一点を凝視している
本能的に気付き始めているんだろう、自分の存在を消す事が出来る剣…韴霊剣の脅威に
それが近付いている。足音が聴こえて来る、こちらへと駆けて来る複数の足音が
「…ラベジェンド…!!」
…俺の横へと並び立ち、これ以上に無い程の殺気を魔皇へと向けている。その手には鞘に収められた韴霊剣がしっかりと握られていた
誰が攻めて来たのかをちゃんと理解していたみたいだな、これで俺と同じ大剣を持ってこようもんなら思いっ切りぶん殴ってた所だ
尤も、そうなっていたら韴霊剣を持って来いと告げずに一目散に来てしまった俺と黎さんにも責任は有るのかもしれないが
……魔皇の視線は変わらず韴霊剣へと注がれている。それを持つ零也には全く目もくれず…まるで興味を持っていない
一番に辿り着いた零也を皮切りにどんどんと皆が集まって来る。未だ此処に来れていないのは…イザベラか。あいつは魔族らしく無い魔族だからな…魔族の特徴の対極だ
皆が集まり、戦況が大きく傾こうとしているのに……それでも魔皇は韴霊剣から視線を外さない。眉を強く顰めて懐疑的な目線を一心に送っている
「…なぁ〜〜ンでその剣完成してるンデスか。完成しないようにした筈なのに、芽は全部潰した筈なのに…」
「潰し方が甘いんじゃね。しっかりしろよ盆暗」
「……これもアナタの仕業なんデスか?」
「さあ?そうだと思うならそうなんじゃねぇか?」
ぎりぎりと歯を強く軋ませながらカープリートが睨んで来る。やっぱりシノノメが遺した文書の頁を破ったのはお前だったのか
……魔皇を蘇らせ、魔皇を斃す手段を無くす…全てはその為だけにこいつは影で暗躍して来たんだ。世界を、種族を、ばらばらにした
残念だったな。お前が永い年月を掛けてばらばらにした種族の絆は再び結ばれている…お前の望んだ展開にはならない
「魔皇サマ、戻りましょ。状況が変わりました」
「それを俺達が赦すとでも思ってんのか?」
「赦さないなら、そうせざるを得なくするだけデス」
「何をーーー」
カープリートとダムシード…そして魔皇がほぼ同時に手を翳す。高密度の魔力が二人の掌から、魔皇の掌からは…
…あれは何だ…!?漆黒の塊が現出している…!?
魔法…じゃない、硬一朗の身体じゃ魔法は唱えられない筈だ。だとしたら一体…!?駄目だ、考えてる暇なんか無い!!
阻止しようと大剣を振り上げ駆け出した刹那、三人はそれぞれ掌に現出させた物をダイオンの城下町上空へと放った
ダムシードとカープリートの放った炎魔法は高く空へ昇り、街の中央で互いに当たり弾けて大きく飛散し街へと降り注いでしまう。魔皇の放った漆黒の塊もまた同じように街の中央で弾けた
…それは火の雨に交わり、黒炎となって街へと降り注ぐ。黒炎が豪雨のように降り注ぎ、街を破壊して行く
単純に燃えるだけじゃない、まるで隕石が降っているかのように……轟音が至る所で轟き、全てを破壊し燃えて行く
「あっひゃっひゃっひゃっひゃっッ!!!!ワタシの思いどーーーーーり!!!に!!なっちゃいましたねぇ〜〜〜〜ッッ!!!!」
「…てめぇっ!!」
「ほらほらほらほら!!早く街のミンナを助けに行って下さ〜〜〜〜い!!じゃないと沢山沢山沢山沢山死んじゃいますよぉ〜〜〜〜!!!」