一
これはヤバい。昨日今日と幾度と無く死ぬ思いをしたけど、ここまでじゃなかった。蛇に睨まれた蛙ってこの事を言うのかな…トロルの爛々とした大きな一つ目に見据えられて、足が全く言う事を聴いてくれない
「噂で聞いたクロコ洞窟の主とはこいつの事か」
ビビりまくってる俺とは対照的に東雲さんは腰の剣をすらりと抜刀し、戦闘態勢に入る。トロルはそんな東雲さんを見ながらにやにやと下卑た笑みを浮かべながら棍棒を大きく振りかぶった
「遅い!!」
大きく振りかぶり、力任せに振り下ろしたトロルの攻撃は東雲さんには掠りもしなかった。ひらりと攻撃を躱すと、東雲さんはトロルの脇腹へ剣の一撃を食らわせた
…が、トロルの脇腹は、斬れる所か何事も無かったかのようにその状態を保っていた。信じられないが、全くの無傷だ
「…硬いな…」
顔を僅かに顰めながらも、東雲さんは絶える事なくトロルへ追撃を仕掛ける。トロルの攻撃を躱しながら、何度も何度も
だが、無情にも東雲さんの剣はトロルの硬い皮膚を通せず、東雲さんの体力を奪っていく。俺は東雲さんの後ろ姿をただ見ている事しか出来なかった
「暁君!!」
名前を呼ばれ、はっと我に返る。攻撃をしながら東雲さんは洞窟の先を指差し、続けた
「行け!!君は逃げろ!!」
「え…」
「このままでは二人とも遣られる!!君は生きろ!!」
…ちょっと待ってくれよ…君“は”生きろってどういう事だよ…?東雲さん…何考えて…
「君が逃げるまでの時間を稼ぐ!だからその間に逃げるんだ!!」
「ヤです」
「は?」
俺の返答が理解できなかったのかトロルに仕掛けていた攻撃を止め、間の抜けた声を出して東雲さんが俺を見る。いや、ちょっ…!!?
「東雲さん前!!!」
「ッ!?」
トロルの攻撃を間一髪で躱し、俺の方へと距離を取る。俺の隣へ寄ると、東雲さんは語尾を荒げながら俺に逃げろと繰り返し言ってきた。けど、俺が返す言葉は同じく
「ヤです。逃げません。1人では」
「君は馬鹿なのか!?今の私の闘いを見ていただろう!?」
「はい。今のままじゃ勝ち目は無いですね。このままじゃ二人仲良くあの世行きです」
「だから!!」
そう、だから。
「だから、勝ちましょう。二人で」




