十六
周囲を警戒する為、壁伝いに歩きながら慎重に洞窟内部を進んでいく。進んでいるとは言ったものの、正直、進んでいるのか戻っているのか二人共分かっていない
魔物との戦闘は東雲さんが音を消して背後から一閃している為、殆ど戦闘とは呼べない。俺の役目は足元に不審な凹凸が無いかどうかの確認だ。いかに魔物に見つからず、且つ罠を踏まずに行けるかどうかって感じだ
暫くその状態を維持しながら歩いていくと、東雲さんの足がぴたりと止まった
「東雲さん?」
「あの……大剣は……」
大剣…?東雲さんの目線の先を見ると、行き止まりになって塞がった道の途中に確かに一振りの大剣があった。地面に突き刺さったまま放置されている。もしかして……東雲さんの父さんのものなんだろうか?
足早にその大剣の元へと行くと東雲さんは柄の部分を指で撫でる。そのまま小さく…本当に小さく息を吐く
その大剣のすぐ下……既に風化してボロボロになってしまった白骨の死体があった。これって……まさか……そんな……!
「……間違いない……父の……大剣だ」
東雲さんの指が触れている柄の所には掠れてしまってはいるが、文字のようなものが刻まれていた。イニシャルか何かなのか…?東雲さんの父さんの…じゃあ…この白骨の死体って…
「……私が小さい時に彫った文字だ。私が父の為に彫った……世界でただ一つの剣だと父に言ったのを今でも覚えている」
「……………」
「父はそれをひどく喜んでくれてね。この剣だけは絶対に無くさない、ずっと使い続けると言ってくれたんだ…」
「東雲さん……」
「大丈夫…覚悟はしていたんだ。でも……すまない暁君……少しだけ…休ませてくれないかな…」
言いながら東雲さんは後ろを向いた。俺にそう言った声は震えていた。肩も小さく小刻みに震えている。
小さな嗚咽が聞こえる。鼻を啜る音も、それを必死に抑えようと、我慢しようとしているのが背中越しから伝わってきた
俺は何も出来ずに唇を噛む事しか出来なかった
東雲さんは俺に無用な心配を掛けまいと無理に泣く事を我慢している…本当は大声で泣きたい筈なのに
「俺……少し辺りの様子を伺って来ます」
それだけ言って俺はその場を離れた。東雲さんの心を今の俺では癒す事は出来ない。東雲さんを一人にしてあげる事が、今の俺に出来る精一杯だった。




