十
目を閉じて掌を翳し、意識を集中させる。
……頭の中に何かが浮かんでくる。そうだ、僕はこれを知ってる。〝知らないけど知ってる〟。
どうしなければいけないのか分かる。〝分からないけど分かる〟。
頭に浮かぶものをそのまま言葉にしていく。つらつらと紡がれていく言の葉ーーー…これは炎魔法を使う時の詠唱だ
僕はこれを唱えていた。そうだ、唱えていた
何度も唱えていた。
何度も何度も何度も………詠唱をしなくても使える程に。詠唱をしなくても高位の魔法が使える程に
何の為にこれを唱えていたんだろう。僕はそれを知らない。憶えていない
憶えているものは何も無い。どうして何も憶えていないんだろう。
「……ノ!ジェーノ!!!」
名前を叫ばれ、ハッと目を開ける
目の前には漆黒の炎が大きな渦を巻いて辺りの大気を震えさせていた。いつの間にこんなものを…!?
詠唱を止めるとその炎は徐々に大きさと勢いを鎮め、消失した
「……今のは…」
……今のは最高位の炎魔法だ。この世に使える人は殆ど居ない
……何で僕はそれを分かるんだ?そんな事憶えていないのに。知らないのに、分からないのに
見れば寝ていた筈の二人は既に起きていて、二人とも信じられないものを見たような驚愕した顔で僕の事を見ていた
零也は最初こそ呆気と驚きの表情をしていたが、やがて笑顔を浮かべると僕の肩を抱き寄せて来る
「やったじゃん!魔法使えたじゃん!」
「…あはは。そう…だね…」
「あれ?嬉しくないのか?」
嬉しいかと聞かれれば、嬉しい。それは本当だ
だけど嬉しいよりも困惑の感情がずっとずっと勝っている。何で僕はこんな魔法を使えるんだ…?




