9 展開
撃ちまくれ!
兵士達の口が異口同音にそう発音する。だが、あまりの騒音のため声は通らない。
一斉に鉄砲が火を吹き、化け物の体に鉛弾が食い込んだ。
重機関銃はライフルよりも重たい音をがなる。
化け物の体液が木や岩へと降り注いだ。
だが、そのルークはひるむそぶりも見せないで突進を続ける。明らかにこの化け物に痛覚は無いようで、その動きは機械のようだ。ルークが長さ一メートルもの爪を六本振り回すと、兵士の首が飛び、瞬く間に死体の山ができた。
そこへさらなる銃弾の雨が降り注ぐ。だが、ルークは跳躍し、機関銃座の兵士の体を土嚢ごと串刺しにする。
そのとき、空気の弾ける鋭い音がした。白煙をまとった弾丸が飛来する。歩兵携帯式無反動砲から放たれた炎の使者だった。
戦車の装甲を破って内部の人間を殺傷すべく考案されたこれはシンプルな作りながら強力な武器だ。
オレンジ色の炎が膨らんだ。ルークの上半身が黒い炭となり四散する。節のある細長い脚がゆっくりと傾き、地面に倒れた。
生き残った兵士が塹壕の中から歓声を上げながら出てくる。化け物の死骸を囲んで、それを蹴飛ばした。
■
アメフは自分の駒が砕けるのを見ていた。
「残念だったな。それは捨て駒だ」
「いい手だ」
ソウが評価した。勝ち戦の最終局面へと至る場面で、つまり勝負の流れが完全に自分の側にある時、敵の崩壊の順序が鮮やかに先読みできる時がある。
今がその時だった。アメフは罠の仕掛けバネをはね上げた。
■
森が考えられないような力で真っ二つに裂かれ、異様な姿が躍り出た。
四本の脚を複雑なパターンで動かすビショップだ。
ひるむあまり呆然とする兵士達に雷のように襲いかかった。
殺戮は一瞬だ。
■
「あれは発掘屋の仕業か? あるいは傭兵?」
カマクラ将軍は望遠鏡をおろした。窓の向こうの戦況は悲惨だ。日本軍は激しく抵抗しているが、化け物の進撃のスピードは鈍りもしない。
「どちらでもいいことか……さして変わらん。奴等が操っている化け物の正体が問題だが……」
「ホデラ大佐の部隊はもう駄目ですね。あの豪胆な軍勢は銃弾の代わりに悲鳴をばらまきながら逃げ散りました」
イズキ中佐が言った。
「わしが陣頭に立つ時がまた来ようとはな。半島戦争以来だ。何が起こるとも分からぬ時代になったものだ」
いまやカマクラ将軍は樺太の広大な地図は見ずに、木製の素朴な作りのボードゲームを置いて、自軍と化け物の戦場を作り上げていた。
「こっちの方が今の戦場を表すのには適しておる」
「なるほど。ですが、すでに戦線はズタズタです。時期を逸したようですな」
「それならイズキ中佐、皆に武装させろ。ここが最後の砦となろう」
カマクラ将軍は碁石をとって盤面へと打った。
「敵の動きはわしに何かを思い出させようとしているようだ。あの化け物ども……あの動き……」
カマクラ将軍の独白は尻すぼみに消えていった。
「努力すれば、きっと思い出されるでしょう」
イズキ中佐が言った。