8 歴史の狭間
樺太の地の底には、建造以来一度も光を浴びていない機械が埋まっているのだろう。
それは六百年以上の昔に、当時の天才達によって想像され、決戦の時にそなえ極秘に地底へと隠されたのに違いない。
瑣末を今の時代の人間が知ることはできない。
忘れ去られた事柄だ。
アメフも、表面的な歴史学で、その時代に関する単語をいくつか知っているに過ぎなかった。
そして今、それを使って巨大な脅威を取り除こうとしている。まったく信じがたいことだ。
彼らに使役される巨大な化け物が、この荒れた世界を縦横無尽に駆けた。
盤上の日本軍の数は半分に減った。奴等がこれほども損害を出したのは久方ぶりだろう。
解放派は無傷だ。
ソウはなぜか秘密基地に貯蔵されていたペルシアの鋭い匂いを放つお茶をすすっているし、二人とも日本軍を狩るのに、指を動かす以上の努力はしていない。
この水晶盤は樺太の外で機能するのだろうか? もしそうなら、事態は大きくなる。
解放派は、いつでも好きなときに化け物の軍勢を用意できる。ソウの台詞通り、日本は列強の大国よりも、解放派を恐れる日がやってくるのだ。
……まあ、それは日本本土へ水晶盤を運び込んでみないことには分からないことだ。
昨日までは漁船を奪ってこの島から逃げだす方法ばかり考えていたのに、いまや極東の好戦的国家を倒す算段を頭の中で巡らせている。アメフは皮肉っぽく笑みを浮かべ、あご髭をつねった。
おかしなことになったものだ。
だが、これはこれで面白い。
ソウはアメフの方を見もせず彼の駒を進めていた。