7 プレイヤー
カマクラ将軍の部下はよく訓練されていた。そのため、この不条理な事態にもかかわらず、戦略室は落ち着いていた。部屋の奥で通信機が規則正しい金属音をたてている。
カマクラ将軍は顔をしかめていた。テーブルの上の地図を睨むが、効果は上がらなかった。
敵の正体は浮かび上がってこない。カマクラ将軍は長考の構えで腕を組み、窓の前をうろうろと行ったり来たりしていた。
まず、敵の姿が不思議な生物であることは分かった。だが、ただ解放派によって訓練されただけの、攻性生物ではない。
その動きに人間の知性の形跡はしっかりと表れている。
しかし、その内容は頭に浮かんでこなかった。解放派の用兵は奇抜に思えた。敵の将の心理が読めないとあっては、カマクラ将軍は動くことができない。
焦りの念が自分の心の中で焦げあとのように広がっていくのを、カマクラ将軍は客観的に観察していた。
「イズキ中佐、戻りました」
「おお」
解放派の死体検分へおもむいていたイズキ中佐が戻ってきた。ファイルをカマクラ将軍へと手渡す。
「それで敵の名は?」
「発掘屋のソウと傭兵のアメフと思われます」
イズキ中佐が完璧に正しい発音で二人の名を口にした。
「あと、数名名前があがりましたが、おそらくその連中は海軍によって始末されています。このソウとアメフはほぼ間違いなく生きています」
「御苦労」
日本軍の優秀なスパイネットは、交戦の遥か前から、樺太のちゃちな敵対組織の全容をつかんでいた。
加えてイズキ中佐とその部下の政治将校達はPCOの秘術を身につけている。彼らは顔のつぶれた死体であれ、焼けこげた死体であれ、遺伝子とかいうものを検分し、死者の正体を定めることができる。
樺太の解放派メンバーのリストから死人が除かれると、残ったのはほんの一握りだった。カマクラ将軍は二人のプロフィールに目を落とした。
「この若造二人とはな。どんな魔法を使っておるのか知らんがたわけた連中だ」
「いかがなさいます?」
「その地図をどけろ。いままでわしは敵を訓練を受けた士官だと考えていた。やり方を変える潮時だ」