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6 ルール

 水晶盤はチェスや将棋に似ていた。駒の動かし方はどちらとも違ったが、当然だ。間違いなく、六百年前に流行していたボードゲームの祖先の動かし方が求められていた。

 ソウはお世辞にもうまい指し手とは思えなかったが、アメフも似たり寄ったりだ。

 ソウは、軍隊の指揮経験が皆無の人間でも、容易に水晶盤を操作できるように当時のゲームを忠実に模したのだろう、と語った。

 駒は秘密基地周辺の数キロの円の中ならどこでも置くことができた。

 その度に解放派は新たな兵を得た。

 一本の腕とひょろ長い体の『ポーン』。最も小柄な駒だったが、それでもその身長は四メートルをこえた。

 六本もの蜘蛛の脚のような前脚をもつのは『ルーク』。

 『ナイト』は二本の槍のような前脚をのばしていたが、後脚は退化でもしたのか蛇のような幅広い胴体をくねらせていた。

 そして、『ビショップ』は先ほど二人の眼前に現れたあれで、最も大きかった。

 攻撃用の駒はそれだけだった。当時の駒は、今日のボードゲームよりも種類が少なかったのだ。

 王将を動かすには、ソウやアメフが自分の足で何キロか歩く以外方法はなさそうだが、それ以外の駒は古典的な方法で動かすことができた。つまり、手でつまんで水晶盤の上を移動させるのだ。

 駒に触れると、それが進むことのできる場所がぼんやりと光った。


 日本軍への攻撃はアメフの提案のもと、同調的に行われた。

 ポーンが、あるいはルークが日本軍の通信中継所や補給物資の集積所へとなだれこんだ。

 日本軍の人間の駒は串刺しにされ、軍馬は八つ裂きにされた。

 砕けた敵の駒が転がって硬い音をたてる。

 と、壊れた駒は見ている前で水晶盤に吸収されて消えていった。灰色の駒は始めから存在しなかった物のように、その存在を隠した。

 青い駒と赤い駒は命じられた通りに的確に破壊を行っていく。

 日本軍は何ら反撃をできない。ただその数を減らした。

「灰色の駒が砕ける度にどのぐらいの日本軍の兵が死んでいるのだろうな?」

 アメフが言った。

「知らんが、少なくはないだろう」

 ソウは興味無さげに言ってビショップを斜めに進めた。途中からビショップは自力で歩んで野戦砲らしき駒へと飛びかかった。

「日本軍は虫けらみたいに解放派を殺した。今日は奴らが大昔の化け物に虫けらみたいに殺されるってだけの話だ」

 ソウは秘密基地の小さなキッチンへ、這い進んでいった。

「おまえの番だぞアメフ。紅茶いれるけど、おまえいらないよな?」

 アメフは生返事で拒否を表明しながらナイトを進めた。これで樺太中部の日本軍施設は壊滅だ。北部にもともと大した勢力は無いし、荒野をパトロールする小規模の部隊はとるに足らない存在だろう。放っておくとする。

 四年前、中国でシェルと戦ったとき、中国人の老兵達がこういうボードゲームにのめり込んでいるのを見たが、今はあのとき教えを請わなかったことが悔やまれた。

 アメフが中国で学んだのは対人地雷の扱い方だけだったのだ。ボードゲームで重要とされる定石なんてものは知らなく、自力でコツを掴んでいくしかない。

 だが、アメフの憂慮をよそに盤上では戦いが進んでいった。

 彼が考えるよりも、はるかに戦況は有利に展開していく。

 化け物の駒達は薄布を裂くように日本軍を分断していくのだ。日本軍はこの異形の化け物に太刀打ちができていない。


 アメフはこのゲームのルールを取り違えていたようだ。

 ソウと協力して日本軍と戦うゲームだと思っていたのだが、そうではない。

 ソウとアメフ、どちらがより多くの日本軍を狩るかを競うゲームだというわけだ。

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