14 支配の民
ゲームは終わってしまう。
テーブルの上の人形達はばたばたと倒れていった。そしてカマクラ将軍は力なく床へと崩れて、テーブルにもたれた。
「お見事です、将軍」
「……なぜだ?」
カマクラ将軍のしわがれた声は恐怖と怒りが半々だった。
「なぜわしは水晶盤を知っていた? なぜわしは気付けば水晶盤の作ったゲームに参加していた?」
カマクラ将軍は立ち上がって、イズキ中佐を睨みつけた。だが、すぐに落ち着かなげに彼から目を離し、周囲を見回した。
そうやって、自分がいるのは操作されるための盤上ではなく、現実の世界であることを確認しようとした。
「答えろ、イズキ中佐! おまえ達PCOはわしになにをした!」
「聞いて下さい、将軍」
イズキ中佐は言った。
「今世紀に入り歴史は加速を始めました。世界は探り終わられ、地図に空所はなくなり、世界規模のネットワークが産まれたことによって人類は自分たちの姿を確認することができました。
しかし、同時にそのために、自分たちと異なる理念の人種の世界がどれほど多く存在するかに気付いてしまったのです。
いつ敵に回るとも分からない国々に囲まれているという恐怖から、列強を含めあらゆる集団の闘争が激化しています。今の世界は混沌としていて、我々PCOの力をもってしても未来を予測することができないほどです。
闘争により資源は浪費され、統一を目論んで起こされた第二次世界大戦も半島戦争も事態を複雑にしただけでした。
我々が思うに、これは人類が新たなる種へと分岐していくための通過儀礼なのではないのでしょうか。
この果てしない試練が終わったとき、生き残った人種が統べる世界はこれまでの世界とはまったく違うものになるに違いありません」
イズキ中佐はよどみなく言葉を続ける。
「さて、我々PCOは人々によりよい世界を提供するために大昔に組織されました。我々は一人一人の人間に記された運命を読み取り、個々の人々に合った居場所を提供することができるのです。
今はまだ日本と台湾とベトナムしか我々は管理していませんが、我々は全世界をその管理下におく権利と義務を持っていると信じています。
我々が世界を統一すれば、それは他のいかなる集団が統一した世界よりも安定し、幸福な物であることは間違いありません。
このことは十分に理解して下さい」
カマクラ将軍はなにか言葉にならないうめき声を上げたが、イズキ中佐はかまわず続けた。
「水晶盤に関して言えば、六百年前に水晶盤を作った技術者達は敵対勢力に水晶盤を奪われた時のことを考え、恐怖に襲われました。そのために産み出されたのが水晶盤を撃破しうる運命を持った人種です。PCOは水晶盤が残っていることを知ったあと、この人種を蘇らせるためにあらゆる努力をせねばなりませんでした」
「撃破しうる……運命だと」
「水晶盤だけではありません。世界には大昔に埋められた技術が時限爆弾のように眠っています。それらが掘り起こされる度に新たなる混沌が産まれるだろうことは間違いありません。PCOはなんとしてでもそれを押さえ込み続けねばならないのです。そのためには将軍を含め、多くの方のお力を借りせねば――」
「見せろ」
カマクラ将軍は苦しげな息の下から言った。
「全てを見せろ! わしが持たされた運命とはなんだ!? 水晶盤の他に、わしはなにを持たされている!?」
「自分に課せられた運命を見るのは危険です。知るべきではないことです。それでも見たいのですか?」
「見せろ、中佐! わしは将軍だぞ!」
イズキ中佐はため息をついた。
「分かりました」
やがて悲痛な悲鳴が司令部をふるわせた。
樺太での仕事を終えたイズキ中佐は戦略室から出て、ゆっくりと扉を閉めると去っていった。
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