10 機能
ソウが、駒の頭部を回せば、それはとれるということに気付いた。ネジになっているのだ。
首をひねりながら、アメフはとってみろと言った。
ポーンの頭部が無くなり、ぽっかりと黒い穴が空いた。
そしてそこからは戦場の音が流れてきた。銃撃の音、悲鳴、怒声、爆音。そしてこのポーンの走る、足音。
「本物の戦場の音か?」
「ああ。たぶんな。聞き慣れた音だ」
アメフが低い声で言った。
今まで戦争を行っていたことを完全に忘れていた。
だが、結局はいつもと同じ殺し合いが続いている。アメフの代わりに化け物の代理人が戦場に立って、敵と殺し合っていること以外、客観的には何の変化も無い。
ソウの言う古代兵器も、産み出す結果は同じだとアメフは悟った。
冷水をぶっかけられたように興ざめだった。ソウの顔も衝撃に引きつっているように見えた。
「どうしてこんな機能が?」
「通信用だろう。こういうものがあることは予想していた。前線と後方の水晶盤の指し手の間にこういうものが無いといろいろ不便だからな」
ソウは驚きから回復し、唇をつり上げて笑った。ポーンの頭を戻して、騒音を閉め出した。
「いろいろ使い道がありそうな機能じゃないか。さすがは水晶盤だ」
ソウはそう言うと、老人のように背中を丸めて駒を進めた。
アメフの方が多くの日本軍の駒を壊していたが、ソウの方はカマクラ将軍の本陣へ攻め込む準備を整え終えている。
まだ勝者は分からない。
アメフは気合を入れ直し、ゲームに専念しなければならなかった。
この戦いでアメフがソウに勝利することには意味があるように思えた。たとえ、これがゲームに過ぎないとしても、だ。
後日、再結成するであろう樺太解放派での、アメフの発言力を強めてくれるに違いない。