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ひだまりのねこのホラー小説

流行りものにはご用心


「おはよう、板谷。なに朝から辛気臭い顔してんのよ!」


 クラスメイトの新垣さんに背中を叩かれ、むっとした表情で振り向く板谷。


「仕方ねえだろ。テストの結果最悪だったんだからさ。お前は良いよな、いつもお気楽でよ」

「失礼しちゃうわ、私は過ぎたことは気にしすぎないし、前向きなだけなのに。そんなんだから彼女も出来ないんだよ?」


 一つ言えば三倍にして言い返される。板谷は早々に諦めて話題を変える。


「っていうか、新垣お前なんだよその気持ち悪いアクリルキーホルダー」

 

「は? アンタもしかして知らないの?」

「な、何をだよ?」


「アンタね……流行りくらい興味が無くても知っておいた方が良いよ? そんなんだから彼女が――――」

「わかった!! わかったから、教えてくれよ、その気持ち悪いキャラ一体何なんだよ?」


 新垣さんは、待ってましたとばかりにニンマリと笑う。



「これはね――――サカバンバスピス、古代魚だよ。可愛いでしょ?」


 

「サカバンバスピスねえ……」


 スマホで検索してみると、たしかに人気になっているようだ。変なものが流行るのはよくあることだが、板谷にはどうしても可愛いとは思えない。むしろ何か良からぬことを企んでいるように感じてしまうのだ。


「まあ、一週間もすれば消えるでしょ」


 そんなことよりも、テストの結果をどうやって誤魔化せばいいのか。成績が落ちれば、そのままおこづかいに反映されてしまう。今はそちらの方が余程重要なのだ。



「おはよっす!」

「ああ、おはよっす! あれ? 木村それ……」


「お? わかっちゃった? サカバンバスピス型シューズ、カッコいいだろ? アネキの数量限定モデルだぜ」 

「お……おう」


 自慢げに靴を見せびらかす木村の周りに人だかりが出来る。


「マジかよ……あのアネキが限定モデル出すほどメジャーだったとは」



「出席をとるぞ~!」 


 先生のシャツもサカバンバスピス柄。


「抜き打ちの持ち物検査やります」


 マジかよ……とことんついてないぜ。



「板谷くんは持ち物検査のことで放課後残ってください」


 ヤバいな……なんだろう? ゲームかそれともマンガ? 駄目だ……心当たりがあり過ぎる。



「板谷くん……キミなんでサカバンバスピス身につけてないの? ご両親にも連絡したけど、このままだと警察沙汰になってしまうよ?」


「え……? あの……それってどういう意味……?」


 先生がバリカンとハサミを取り出す。


「このまま帰ったら補導されてしまいますから、私がサカバンバスピスカットにしてあげましょうか?」


「わ、わかりました。必ず明日からサカバンバスピスを忘れないようにしますから!!」

「そう? それなら今日は帰っていいわよ」


 ホッとして職員室を出ようとする板谷。


「待ちなさい」


「な、なんでしょうか?」

「危ないからこれを持って行きなさい」


 先生から手渡されたのはサカバンバスピスのシール。


「あの……これ?」

「気休めだけど何も無いよりはマシだから。鞄の目立つところに貼っておきなさいね?」


 

「一体どうなってるんだよ……」


 帰り道、街のあちこちに補導員の姿が見える。


 皆、サカバンバスピス強化週間の腕章を付けているので、慌てて先生に貰ったシールを鞄に貼り付ける。


 補導員たちは、シールをじっと見つめるとそれ以上特に何も言ってくる様子はない。


 ホッとしたのも束の間。


「た、助けてくれえええええ!!!!」


 こちらへ逃げてくる男の後ろから迫るのは、サカバンバスピスのお面を付けた百人以上の集団。


「うわあああああ!!!」


 あまりの迫力に板谷もつられて走り出す。




「はあ……はあ……何なんだよ」


 角を曲がったところでようやく一息つく板谷だったが、


 ぽんぽんと肩を叩かれて振り向くと


「うわああっ!?」


 サカバンバスピス仮面が立っていた。


「スマホ、落としましたよ」

「あ、ありがとうございます……」


 もう嫌だ。一生分のサカバンバスピスを今日一日で摂取した気がするとうんざりしながら前を見ると、同級生の後ろ姿が目に入る。


「おーい、新垣!」


 思えばすべてはこいつから始まったんだったと腹立たしく思いつつも、このまま一人で帰るもの心細いしと駆け寄る板谷。


「ん? なんだ板谷か、どうしたの?」


「どうしたもこうしたもないよ、大変だったんだから――――ぎゃあああああああああああ!!!?」



 振り向いた新垣を見て腰を抜かす板谷。


挿絵(By みてみん)





「あはは、びっくりした? よく出来てるでしょ、このお面……って、板谷アンタ何漏らしてんのよ!! そんなんだから彼女が――――」





「よし、完璧だな」


 最新のサカバンバスピスグッズを身につけ意気揚々と登校する板谷。


「え……? 板谷、アンタ何考えてんの? だからいつまでたっても彼女が――――」


「板谷くん、なんでサカバンバスピスグッズ付けてくるかな? 校則違反キミだけだよ? ご両親に連絡して――――」



「なぜだあああああああ!!!?」



 ――――と叫んだ板谷だったが、冷静に考えてみれば元に戻っただけだと喜ぶ。



 ――――翌日、


「おはよう板谷!! あれ……? アンタなんでサカピス付けてないの!? また先生に呼び出されるよ? そんなんだから彼女が――――」


「ち、ちょっと待て、おかしいだろ? だって昨日は――――」

「は? 昨日は週に一度の休サカピスデイでしょ? 頭大丈夫? そんなんだから彼女が――――」



「くそおおおおおおおっ!!! せっかく買ったグッズ捨てちまったああああああああ!!?」

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。ホラーというよりコメディですね。
[良い点] 世の中の縮図のような……笑 たしかに学生時代、流行りにノっていないというだけでA級戦犯並みに周囲から冷ややかな目を送られたような。 目の前の常識は人々の共通認識によって成り立っているという…
[一言]  読んでいたら、世にも奇妙な物語を思い出しました。  ギャグが効いていてとても楽しく読ませて戴きました。  サカバンバスピス、何回言おうとしても、舌噛みそうになります。笑  どんな魚なんだろ…
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