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鳴けない犬

作者: 一発出来茶太郎

世間の障害者への風当たり

   『鳴けない犬』

 ブル~ン

 毎朝、ぼくが小学校に通うバスの中にいつも一匹の犬がいる。その隣には、白い杖を持ったお姉さんが座っている。犬はいつも僕の方を見ている。ぼくもいつも犬を見てしまう。それが朝の日課だった。

 バスは毎朝、満員だ。バスの中は中学生や大人のおじさんやおばさん、おじいちゃんやおばあちゃんなど、いろんな人が乗ってくる。ぼくは始発の停留所に近い所から、乗るのでいつも座れるが、その時にはお姉さんと犬は決まった席に座っている。ぼくは通路をはさんだ反対側にいつも座る様にしていた。

 そんなある日の事、

「この犬じゃまなんだよ‼」

 スーツ姿のおじさんが叫んだ。

「すいません。盲導犬なんで許してください。」

 白い杖を持ったお姉さんが謝った。お姉さんはおじさんの方には振り返らず、バスの進行方向を向いたままだった。

「チェ!」

 おじさんは舌打ちをしながらお姉さんをにらんでいた。

 その時

「池雪小学校前」

 バスのアナウンスが流れた。ぼくの降りるバス停だ。ぼくがバスを降りようとすると、立ったしゅんかんにあのおじさんがぼくの席に座った。

 ぼくは学校のパソコンで

『盲導犬』

 を調べてみた。

『視覚障碍者を安全に快適に誘導する犬』

 そうか!あのお姉さんは目が見えないんだ。だから、おじさんの方を向かずに謝ってたんだ。

 その数日後からバスにあのおじさんが乗ってくると犬を蹴ったり尻尾を踏んづけたりし始めた。周りの人は満員なので見えないようだが、ぼくからは良く見えた。でも犬は鳴いたり動いたりしないで、おとなしく座ったままだ。

 ぼくは学校の先生に聞いてみた。

「鳴かない犬なんているんですか?」

先生はけげんそうな顔をしている。

「目の見えない人が連れている犬なんです。」

 すると先生は

「訓練で鳴かないようにしつけてあるんだよ。」

と教えてくれた。

 ぼくは意を決っしてお姉さんに話しかけることにした。

「おはようございます。いつもバスで一緒になる星流セナと言います。」

「おはようございます。私も星凪セナと言います。同じ名前なのね。」

「犬の名前は?何ですか?」

「ゴロよ。もう直ぐお別れになっちゃうんだけどね。」

「え!?」

「もうゴロは引退なの。」

お姉さんは少し寂しげだった。

バスのすいている間お姉さんと話すことが増えた。

「ゴロは引退したらどうなるんですか?」

「新しい飼い主さんの所へ行くのよ。」

 ぼくはお父さんとお母さんにお願いをしようと思った。ゴロを飼ってくれるように。

 そんなある日、また、あのおじさんがいつものようにゴロをいじめていた。

 ぼくは

「やめてあげてください。」

怖かったけど言ってみた。

「あー。何だ坊主、俺に文句でもあるのか?」

隣のおばあちゃんが

「あんた毎日飽きもしないでその犬をいじめてるじゃないか、いい加減およしよ。」

「何だと~。」

すると、周りにいた乗客が一斉に

「やめろ!」

「出てけ。」

「降りろ。」

 などとおじさんに文句を言い始めた。

 おじさんはしぶしぶ次の停留所で降りて行った。

「坊や、偉かったね。」

 おばあちゃんが褒めてくれた。


 ゴロの引退の日がやってきた。

「星流君よろしくね。」

お姉さんは嬉しそうに星流にたづなをあずけた。

ゴロはその日から家族の一員になった。

そして月日が流れ。でもゴロが鳴くことは無かった。

そして最後の日

「ワン。」

 ひきとる寸前に一鳴きして息を引き取った。


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